『ぼくのまつり縫い』あとがき(表)―入部から引退まで、ハリくんの中学3年間
9/29に完結巻の3巻が発売となった『ぼくのまつり縫い』シリーズのあとがきです。今作は単行本であとがきがないので、シリーズ完結だしnoteに書いてみようかなと思いました。
入部から引退まで、ハリくんの中学生活を追った全3巻
『ぼくのまつり縫い』というお話は、手芸好きなのを周囲に隠していた中学一年生の針宮優人、みんなからハリくんと呼ばれている男の子が主人公です。ハリくんは小学生時代にからかわれたことがきっかけで、手芸好きであることを周囲に隠していました。
そんなハリくんが自分の好きなものに正直になり、前を向いてくお話です。
……といった上記のあらすじは1巻のもので、ハリくんの物語はありがたいことに、その後も続いていくことになりました。
2巻では中学二年生。後輩ができ、他人の好きなものについても考えます。
そして3巻では中学三年生。部長になり、部活の引退、そして受験や進路、将来のことについて悩むことになります。
部活の入部についてはこれまでも書いたことがありましたが、引退を書くのはこれが本当に初めてでした。引退は部活充だった自分の色んな記憶とリンクしてしまって、最後は泣きながら書きました。
入部から引退まで書けるなんて、すごく贅沢でした。
好きなものと向き合い続けるお話
今作の大事なキーワードの一つが、「好き」です。
お裁縫好きなことを周囲に隠していたハリくんが、好きなものとどう向き合って続けていくかが、シリーズの大事なポイントになっていきます。
この3巻では、将来のために好きなことをやめなくてはいけないのか?という問題にハリくんは直面していきます。
部活を引退したとき、学校を卒業したとき、社会人になったとき……。
仕事の役に立たないものを切り捨てたり、疎遠になったりって、本当によくあると思うのですよね。ましてや、仕事に役立たない趣味なら尚更です。
かくいう私も、中学時代から書いていた小説について、やめようと思ったことこそないものの、時間がなかったり日々の忙しさに追われてないがしろになっていた時期はありました。よくお金にならないもの書いてるよねと言われたこともあります。
それでも続けて一念発起して、なんとか今があると思うと、続けててよかったなと思うのです。
好きだからというのは、それだけで大きな原動力になります。それを大事にしてもらえたらいいなぁと心から思います。
刊行は年に1冊。ハリくんは作者、読者と共に年を取る
これまでもシリーズはいくつか書いてきたのですが、「ぼくのまつり縫い」シリーズはそれらとは違い、キャラクターたちが1冊につき1歳ずつ歳を取っていきます。
そして、刊行も年に1冊ペース。図らずも、登場人物たちと私たちは一緒に歳を取ることになりました。
ハリくんが成長できた3年間で、自分は成長できただろうかとよく考えます。1巻着手時は作家業1年目でしたが、今は5年目に突入したところ。
大人になると1年はあっという間で、あんなに濃度が高くて色んな思い出が詰まった中学3年間と同じ3年だなんてと、思わずにはいられません。
毎年変わっていく人間関係
1年ずつ月日が流れる「ぼくのまつり縫い」シリーズでは、部活の人間関係の変化は特に意識して執筆していました。
先パイばかりの一年生、先パイと後輩のいる二年生、最上学年で部長の三年生。ハリくんの部内でのポジションは、巻を追うごとに変化していきます。
学生時代の部活やサークルって人の出入りが毎年あって、それによって部の雰囲気もカラーも変わっていくのが面白いですよね。
また、部を引退した先パイたちとも、そこですぐに縁が切れるわけじゃありません。ちょっとした相談をしたり、それにまた救われたり。
そういった変化も楽しんでもらえたらうれしいです。
部活のおかげで得た仲間と青春
これは私の話です。中学時代はなかなか練習の厳しい吹奏楽部に所属していて、あの頃は大変ではあったけど、でもそこで得た仲間は本当にかけがえのないものだなと、卒業してからうん十年経っている今も思います。
当時の仲間とは、このご時勢なので最近はオンライン同窓会をしています。
ハリくんのいる被服部はハードな部活ではないけど、それでも、部活のおかげで居場所ができて救われたことには変わりありません。
そういった居場所とか仲間ができる経験を、このシリーズを通して描けたらいいなと思いました。
なお、3巻の本当にラスト、エピローグの最後2行、ハリくんが考えていることがあります。これは、私が高校の部活に入ったときに思っていたことそのまんまです。
中学を卒業したハリくんが何を思ったのか、ぜひ作品で確かめてください。
ハリくんが進学する高校は?
ちょっと3巻の小ネタ的な話も。
受験生になったハリくんは志望校がなかなか決まらず悩むことになります。その一因が、被服部がマイナー部活であるということ。
被服部って女子校には多いんですが、共学校にはあんまりないんですよね。
そんな3巻では、千葉の高校名がいくつか出てきます。全部架空の高校なんですが、実はすべて拙著の過去作に登場している高校ですw
登場するのは、以下の作品の舞台になっている高校。
さぁ、ハリくんはどの作品の高校に進学するのでしょう……。
謝辞
あとがきと言いながら全然それっぽく書いてないんですが、最後に。
このシリーズでは、イラストレーターの井田千秋さんに多大なるお力添えを頂きました。井田さんには『休日に奏でるプレクトラム』という作品で表紙イラストを担当していただき、私家版の続編でもご協力いただきました。柔らかいその絵柄がとても好きで、『ぼくのまつり縫い』にもピッタリだと執筆時から思っていたこともあり、担当さんに提案しました。
引き受けてくださり、三年間お付き合いいただき、本当に本当に感謝しています。井田さんのイラストあってこそのシリーズでした。今後ともよろしくお願いします!
また、執筆の機会をくださった偕成社の担当さま、編集部や販売部の方々、校閲さんなど、関わってくださったすべての方にお礼申し上げます。
そして、今作に出会ってくださった読者様、ありがとうございました!
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……という感じで、「ぼくのまつり縫い」シリーズについて、考えていたこととかをつらつら書いてみました。
短いスパンで進めるシリーズが多い中、このシリーズだけは3年間という長いスパンで、ハリくんの3年間について考えて書くことになりました。本当にありがたいことだったと思います。
さて、こちらの記事のタイトルに(表)とあるのにお気づきでしょうか。
(表)は主に作品の内容や執筆時に考えていたことを書きましたが、(裏)では今作が作家としての私にとってどんな作品だったか、個人的なことをつらつらを書きます。
あとがき(裏)は明日公開します。
基本的に記事は無料公開ですが、応援は大歓迎です!