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肉体的な別れに、「さよなら」って要ります?

突然、「逝去」の2文字が目に飛び込んできた。もう夕方になっていた。目も脳も少し疲れていて、意味を理解するまでに少し時間がかかった。

私の勤務先には、社内向けのポータルサイトがあり、そこに全社からのお知らせが載る。まれにではあるけれど、社員の訃報が載ることもある。

私は自分の仕事をこなすのに忙しくて、ポータルサイトのお知らせ一覧をあまりきちんと見ていなかった。一段落したころ、改めて何気なく眺めた中に見つけた訃報に言葉を失い、手が動かなくなった。

「逝去」の文字に続いて記された名前に、見覚えがあった。同期入社で、ともに新人研修を受けた仲間の名前だった。私たちの新人研修グループは仲が良くて、正式配属の後も集まって、あちこち飲み歩いた。

ITバブル華やかなりし時代だった。ITシステム開発の仕事をしていた同期はみんな、だんだん忙しくなって会えなくなった。1か月60時間以上、時には100時間を超える残業時間が、常態化していた時代だ。だんだん会う機会を失って、同期ではなく同じ場所で働いている人との交流が増えた。

そんな時代を過ごして、彼女は新人で配属された後に付き合い始めた彼との結婚を決めた。私は二次会に出席させてもらった。幸せいっぱいの笑顔が今も脳裏に焼き付いている。彼女の家に泊まりに行ったとき、キムチ鍋をつつきながら彼氏の愚痴を聞かされたことを、鮮明に思い出す。そうだ。あのとき、私はキムチ鍋にサツマイモを入れると、意外と美味しいことを覚えたんだったっけ。

そうこうしているうちに私は結婚して、子どもが生まれて、産休に入って、復職した。簡単に書いているが、簡単じゃなかった。また子どもが生まれて、産休に入って、復職した。簡単に書いているけど、今度は本当に全然簡単じゃなかった。

同じ思いを彼女もしていたと知ったのは、復職して10年が経った頃だ。オフィスからの帰り、電車が一緒になって「久しぶり!!」と盛り上がった。

私の下の子と1歳違いの息子さんがいること、その下にもう一人お子さんがいること。話に花が咲いて、一気に15年ほど時間が戻ったようだった。

今度ランチに行こう、と約束して別れた。そのあと他の同期を誘って、1度飲みに行った。結局彼女と今いるオフィスでランチに行ったことは、ないままだ。

「はるまふじさん、Nさんの様子見てもらえます?」

同僚の声で、われに返る。数日前に一緒に仕事をすることに決まったNさんの作業が、どこまで進んだか様子を見て、同僚に伝える。どのくらい言葉を失っていたのだろう。一瞬だった気もするし、とても長い時間だったような気もする。

私は仕事をする気をすっかり失って、オフィスを後にした。

奇しくも昨日、『大豆田とわ子と三人の元夫』のことを考えていたところだった。かごめととわ子の関係について、思いを巡らせていた。

やっぱり現実には、”死亡フラグ” は立たないもんだね。ドラマとは違うね。
心の中で、同期の彼女にそうつぶやく。

大人の女性らしく一般的に紡ぐべき言葉が、紡げないでいる。今は許してほしい、と私は彼女に語り掛ける。

慎森(岡田将生さん)が、頭の中で私にささやく。
「肉体的な別れに、”さよなら” って要ります?」
そうだよ、慎森。いいこと言うじゃん。私、お悔やみもさよならも言うのやめたわ。

これもまた、人生か。
分かっていたつもりだったけど、生きていくのはやっぱり、なかなかにハードだ。




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はるまふじ
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