ウェス・アンダーソン監督の世界観を満喫&『桜の園』観劇 渋谷パルコで過ごすゆかいな休日
あー、楽しかった!
渋谷から家へと帰る電車の中で、シンプルな多幸感と爽快感で脳内がいっぱいになったのは、夏休み明けの疲れた体にムチ打って1週間働いた反動だろうか。
2020年春、大竹しのぶさん主演で上演されるはずだったチェーホフの『桜の園』。演出も主演も違うが、新生パルコ劇場で上演すると聞いてチケットを取った。2020年はコロナで全公演が中止になり、持っていたチケットを泣く泣く払い戻した。
2023年の今年上演される『桜の園』は、『セールスマンの死』のショーン・ホームズ演出、主演は原田美枝子さん。2020年に上演予定だった『桜の園』は演出がケラリーノ・サンドロヴィッチさん。なのでおそらく全然違うのだろうなと想像しながら、渋谷のパルコ劇場へ行くのを楽しみにしていると、X(旧Twitter)で以下のようなポストを見かけた。
『アステロイド・シティ』はウェス・アンダーソン監督の最新作である。
ウェス・アンダーソンと言えば独特の色づかいとカメラワーク、シンメトリーな画づらなどが特徴だ。作品で描かれる登場人物たちのなんとも言えない可笑しさというか、愛おしさが個人的にとても気に入っている。
昨年公開の『フレンチ・ディスパッチ』もワクワクするほど楽しかったけれど、わたしは『グランド・ブダペスト・ホテル』が好きだ。最新作が公開されることは知っていたが、たまたま観劇予定の劇場がある渋谷パルコで、こんなイベントが開催されるとあっては行かないわけにいかない。
自宅を早めに出て、ハチ公口からわたし史上最速でパルコにたどり着く。地下1階の小さなスペースで開催されていたイベントは、ウェス・アンダーソンの世界に彩られていた。
もうこの訳の分からない機器たちが、映画への期待をマシマシにしていく。で、やっぱりなんだかシンメトリー。
興奮しつつTシャツを2枚買ってしまい、ショップで一定額以上買うともらえる特典も頂き、同じく地下1階のレストラン街で昼食をとった後、エレベーターで8階のパルコ劇場へ。
おっと。その前に同じ8階にある映画館・渋谷ホワイトシネクイントさんで、『アステロイド・シティ』の前売り券を買わねばと向かうと、映画館が『アステロイド・シティ』仕様になっていた。
売店のお姉さんに「限定Tシャツ付きのと、どっちにしますか?」と訊かれうっかり限定Tシャツ付きの前売り券を購入してしまったので、都合Tシャツは3枚に・・・テンションが上がりすぎてしまった(こんなに買ってどうする自分)。
気を取り直しつつ、パルコ劇場へ。
パルコ劇場の座席数は636席で、ふだん良く行く帝国劇場や日生劇場、東京国際フォーラムホールCあたりと比べてだいぶ小ぶりである。ミュージカルを上演する劇場は大きい傾向にあり、ストレートプレイと単純に比較は出来ない。と考えると、比較すべきはストレートプレイをよく上演している新国立劇場中劇場や東京芸術劇場プレイハウスあたりか。それでも、小さい。
そしてこの日の席は、何と前から4列目。座ってみて分かったが近い。近いのに4列目から段差が大きめになっていて非常に観やすい。むちゃくちゃ良席ではないか。ウェス・アンダーソンの世界に触れて興奮気味のわたしのテンションが、さらに上がる。
原田美枝子さんは声が舞台向きではないものの、良席だったために人の言うことを聞かなくて、でも可愛らしいラネーフスカヤの細やかなお芝居をしっかり観られた。脇を固める村井國夫さん、八嶋智人さん、成河さん、安藤玉恵さんが大変素晴らしかった。予想以上の楽しさに心が弾む。
終演後もまだ暑い。これはもうPOP UP CAFEへ行くしかない!ということで1階まで降りて、POP UP CAFEで『アステロイド・シティ』という名前のかき氷をいただく。
もう色合いがウェス・アンダーソンの世界。いや、アステロイド・シティの世界すぎて、写真を撮らずにはいられない。
下の方にあるミルクティーがとても美味しかった。
映画に興味があるのかどうかは分からないけれど、POP UP CAFEで提供されている3種類のかき氷はどれも「映える」ものばかりで、たくさんの若い人が列をなしていた。特典でランダムに頂けたコースターはスカーレット・ヨハンソンのもの。エドワード・ノートンやティルダ・スウィントンが出るまでうっかり買い続けそうになったが、そんなことをしたらお腹を壊してしまうので、我慢した。あまり映画に興味のない友人を連れて行ったら、譲ってもらえたかしら。ちょっと欲張りな妄想をする。
公園口側の入り口横にあるエレベーターが、『アステロイド・シティ』でラッピングされてる徹底ぶり。最新作は、9月1日公開だ。
いつもは劇場にまっすぐ行って、まっすぐお芝居を見つめて、ただ帰る。この日はウェス・アンダーソン監督の世界観にもひたれて、美味しいかき氷も食べられて、こころがいつもよりたくさんの幸せで満たされた。
電車の中でまた原田美枝子さんのラネーフスカヤを、八嶋智人さんのロパーヒンを、村井國夫さんのフィールスを、成河さんのトロフィーモフを思い出し、『アステロイド・シティ』の衣装や備品を思い出し、映えるかき氷を思い出す。
スマホの中の写真たちと、鞄の中のパンフレットと、新しいTシャツ3枚とに、夏のウキウキするような1日の記憶をしまい込んだ。
見るたびに、今日の電車のゆれと、汗で背中に張りついた服と、渋谷パルコで感じた高揚感をわたしは思い出すだろう。
あー、楽しかった!