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現帝国劇場ラストを飾る祭典・ CONCERT 『THE BEST New HISTORY COMING』参戦記
注: 本文で、コンサートの内容にだいぶ触れてます。まだ観ておらずこれから観る予定のある方は引き返してください。
帝劇がお休みに入る。
多くの劇場が集まる日比谷界隈でも特に有名な、帝国劇場。日本初の西洋式劇場として誕生したこの劇場が現在の形になったのは、1966年。以来たくさんの作品を見守ってきたが、建て替えのために2025年2月末をもって閉鎖となる。新しく生まれ変わるのは2030年だそうだ。350を超える上演作のうちミュージカルは53作品。そのすべてを最高のミュージカル俳優たちとコンサート形式で堪能する「帝劇最後のお祭り」が2月14日から28日まで行われている。
個人的な思い入れは帝国劇場よりも日生劇場のほうが強い。けれど、帝国劇場に入った瞬間にぶわっと来る独特な感覚とか、幕間に楽しみにしてる売店のサンドウィッチとか、美しいステンドグラスとか、あの場所でないと受け取れないものがある。きちんとサヨナラして来ようと思った。
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そんなこんなで、事前に希望プログラム(AからGまでプログラムが分かれており、それぞれ出演するゲスト俳優が異なる)のチケットを入手しようとすること数回、リセールを駆使して割とすんなりチケットを手に入れることが出来た。参戦したのはAプログラムとDプログラム(それぞれ配信もあった公演)。各々の感想を綴っておきたい。
コンサートと直接関係ない部分:着到板
帝国劇場には、キャストの皆さんが劇場入りしたかどうかを示す着到板がある。なんと太っ腹なことにその着到板を今回のコンサートでは掲示してくれている。大好きな人たちの名前を探す。
井上芳雄さん、あった。
明日海りおさん、あった。
松たか子さん、あった。
特に目を皿のようにして探したわけではないけれど、海宝直人さん濱田めぐみさん涼風真世さん松本白鸚さんは見つけた。白鸚さん、昔は幸四郎さんとか染五郎さんとかの着到版を使っていたのだろうか・・・と要らぬ疑問が頭に浮かぶ。
しかしなぜか浦井健治さんの着到板がどうしても見当たらない。オペラグラスが必要か? まあもう一回来るしその時に探そうといったん引き下がる。
そしてDプログラムで再チャレンジ。高橋一生さんが『レ・ミゼラブル』でガブローシュを演じたことがあるのを思い出し、高橋一生さんの着到板も探す。
あった! 高畑淳子さんの隣!!
そして浦井健治さんの着到板も無事発見。なぜ見逃したのかわからないところにあったけど、見つかったからまあ良しとしよう。
ミッションコンプリート。ぼんやり着到板を眺めていると、甲斐翔真さん松下優也さんの名前を見つける。ところが、ここにあってもおかしくないはずの彼らの先輩・三浦春馬さんの名前がいくら探しても見つからない。当たり前だ。彼は帝劇で上演された作品に一度も出演してない。わたしをここに足しげく連れてくるキッカケを作ったのは彼なのに。チクリと胸が痛む。
イヤイヤ。これからお祭りでしょ、お祭り。楽しまなくちゃ。もう一度「浦井健治」の着到板に目を移す。大丈夫。そうだ、さっき買った豚まんを食べよう。
プログラム共通の個人的刺さりポイント:Act1
「天国へ行かせて」(『天使にラブソングを Sister Act』)より
『天使にラブソングを』のデロリスは、言うまでもなく女優ウーピー・ゴールドバーグの当たり役だ。日本でのミュージカル版『天使にラブソングを』で初演からデロリスを演じているのは、森公美子さん。なんというピッタリなキャスティング。ピッタリすぎて怖いぐらい。
明るいパワーにあふれたこの作品が好きなので、女性キャスト全員でこの曲を歌っているのを観てるだけでテンションが上がる!Aプログラムではモリクミさんが上手く踊れていないのをネタにしていたが、Dプログラムでは瀬奈じゅんさんに代わっていて踊りはピッタリ。Dプログラムで、花總まりさんがあの列の中に入っていることを見られたのが何よりの収穫だった。
「世界が終わる夜のように」(『ミス・サイゴン』より)
テレビ番組とかでもよく歌われる『ミス・サイゴン』の有名なデュエットソング。小野田龍之介さんとAプログラムでは昆夏美さん、Dプログラムでは屋比久知奈さんが歌う。ともに本役。純粋な思いをぶつけ合うクリスとキムの二人がとてもキラキラしているように思えて、素敵だった。
「初めて知る想い」(『ガイズ&ドールズ』より)
『ガイズ&ドールズ』作品中ではネイサン・デトロイト役だった浦井健治さんがスカイとして恋心をあの甘い声で歌い上げる。ど反則である。
上演時、ネイサンにはソロ曲がなく、アデレイドとのデュエットは「Sue me」という彼女からガチガチに攻められるんだけど「俺を責めるがいいさ。でも愛しているよ・・・」という曲で(これまたあの甘い声が「もう許す!」って気にさせる)。
しかしネイサンの甘さとスカイの甘さは全然違う甘さ。何なんだあの人。大人の男の余裕を感じさせるスカイの恋する男としての甘さは、本公演時には感じられなかったものだった。
対峙するサラはAプログラムでは平野綾さん、Dプログラムでは花總まりさん。お二人とも恋するサラの初々しさが可愛らしかった。伸びやかな高音を堪能させてもらった。ともに恋する堅物な女性を演じていたこの二人には役者さんとして大きな違いがある。そのあたりは「秘めた思い」のところで少し詳しく書くことにする。
「シャル・ウィ・ダンス」(『王様と私』より)
昨年の誕生日に日生劇場で観た記憶も新しい『王様と私』のナンバーの中でも、映画『Shall we dance?」で有名な曲が登場。シャム王の役は三浦宏規さん、アンナはAプログラムでは涼風真世さん、Dプログラムでは一路真輝さん。お二人ともダンスが美しい。北村一輝さんと明日海りおさんの見事なステップを思い出した。
「ランベス・ウォーク」(『ミー&マイガール』より)
井上芳雄さんビルを中心にキャスト全員で。客席降りがありむちゃくちゃ楽しい! 客席に降りてきたキャストの皆さんのファンサービスをたっぷり楽しませてもらった。Aプログラムは2階で観たが涼風さん甲斐翔真さん平野綾さんが客席に。Dプログラムではすぐ近くを宮野真守さんが通り抜け、反対に目をやったら三浦宏規さんがビルの帽子をなぜかかぶっていて、かと思ったら芳雄ビルがさっそうと通り抜け・・・みんなみんな楽しそう。
出演者の皆さんのハッピーオーラに、こちらも嬉しくなってしまう。
「君の瞳に恋してる」(『ジャージー・ボーイズ』より)から「フィナーレ」(『ダンス オブ ヴァンパイア』より)まですべてが最高
浦井健治さん小野田龍之介さん甲斐翔真さん宮野真守さんのフォーシーズンズ、デカい! 長身フォーシーズンズが客降りのうえ「君を見つめて~」とか誰かをロックオンしながら歌うなんてもう反則技以外の何ものでもない。ファンサービスが過ぎるというもの。嗚呼プラチナ席の代金をケチってSS席にした自分が恨めしい。わたしもあんな風にロックオンされる人生が欲しかった。
そのあとは井上芳雄さんで「僕こそ音楽」(『モーツァルト!』より)。Dプログラムではこの曲はゲストの中川晃教さんが歌うことになっていたため、小芝居の後「最後のダンス」(『エリザベート』より)に変更になっていたが、いずれにしても井上芳雄さんの芝居歌が刺さるナンバーで、しばらく放心・・・と思っていたら間髪を入れず始まる島田歌穂さんの「オン・マイ・オウン」(『レ・ミゼラブル』より)。歌穂さんが歌うと一瞬でかなわぬ愛に身を焦がすエポニーヌがそこに見えて、息をするのを少しの間忘れた。
そこからの1幕終わりは「フィナーレ」(『ダンス オブ ヴァンパイア』より)。「モラルもルールもまっぴら~」と歌いながら、テンションがおかしなことに。金テープは取れず残念だったが、わたしの帝劇愛が足りなかったせいで頭の上に落ちてきてくれなかったのだと思うことにする。
プログラム共通の個人的刺さりポイント:Act2
「宿敵がまたとない友」(『ナイツ・テイル』より)から「Je m'appelle Lupin」までの流れが個人的に大好き
『ナイツ・テイル』は井上芳雄さん堂本光一さんの組み合わせだが、ここでは井上芳雄さん浦井健治によるバラモンとアーサイト。浦井アーサイト、身のこなしが軽快。わずかな間だけど息のあったコンビを観られて幸せだった。
そして何と島田歌穂アーニャが帝劇に降臨。なんと可愛らしい。島田歌穂さんにアーニャの曲を歌わせることにした人、すごいセンス。驚きそのままに「1番好きなのは…健ちゃん❤️」の流れから浦井ルパンが颯爽と登場。あれ?ルパン出てたっけ?と何の違和感もないことに驚いていると、長い衣装を翻しサッと上手にはけていく。まさに怪盗。東宝さん、次回は古川雄大さんと浦井健治さんとのダブルキャストでお願いします。
「秘めた思い」(『レディ・ベス』より))
『SIX』脳のまま帝劇コンサートに突入したので、彼女の父ヘンリー8世については悪印象しかない。
で、「ヘンリー8世の娘としてだいぶ辛い思いをした後に登場した名君」とすると、エリザベス1世は慈悲深くも大変強い人だったのだろうなと勝手に感じている。そのイメージに平野綾さんがわたしの中でピッタリハマって泣きそうになった。花總まりさんも素晴らしいが気高さが先に立ち、暴君ヘンリー8世の後国を治めるイメージが湧かなかった。とは言え一曲だけでは何とも言えない。それぞれの個性あふれるベスを味わいたいので、是非またこのお二人で再演をお願いしたい。
「ディオの世界」(『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』より)
昨年2月に帝劇2階で観た『ジョジョ』。ディオ・ブランドーが素晴らしくて思わずアクリルスタンドを買ってしまったのを思い出すほどのパフォーマンスを見せてくれた、宮野真守さん。「君の瞳に恋してる」で見せてくれたいい人の印象はどこへやら。こちらも是非再演をお願いしたい。
「揺れる心」(『王家の紋章』より)
浦井健治さんはメンフィスの扮装をしていなくてもメンフィスだった。キャロルへのピュアでまっすぐな恋心を歌い上げる。浦井さんのかたわらにキャロルが見える。歌い終わった瞬間、素の浦井健治さんの輝く笑顔が見られるのもまた良い。
「闇が広がる」(『エリザベート』より)
『エリザベート』の中でトート(死)が皇太子ルドルフを唆し革命に身を投じさせる場面で歌われる「闇が広がる」は、ミュージカルでは少ない男性デュエット曲でテレビ番組でも度々歌われる。
Aプログラムでは井上芳雄トート×浦井健治ルドルフだったがCプログラムで山口祐一郎トート×井上芳雄ルドルフになり、Dプログラムからは井上芳雄トート×三浦宏規ルドルフに。とても素敵なのだが、どこかのタイミングで浦井健治ルドルフに戻していただけると、とても嬉しい。
「ダンスはやめられない」(『モーツァルト!』より)
ヴォルフの妻コンスタンツェが歌う「やってられねえよ」ソング。Aプログラムでは生田絵梨花さん、Dプログラムでは木下晴香さんが歌う。個人的には木下晴香さんの気の強そうなコンスタンツェがとても好きだ。木下晴香さんを観るのは昨年11月の『ファンレター』ぶり。劇場を支配する力が強い彼女に、またどこかで出会いたい。
「私が踊る時」(『エリザベート』より)
トートとシシィが真っ向から対峙する「私が踊る時」は『エリザベート』の中でも屈指の人気曲。Aプログラムでは井上芳雄さん×涼風真世さん、Dプログラムでは井上芳雄さん×一路真輝さん。
このシシィ、どちらも強すぎる。トートが誰でも勝てる気がしない。帝劇の2階席の奥の奥まで強いシシィが支配していた。世代的には井上芳雄さんは一路真輝さんがシシィを演じていたころルドルフ皇太子役のはずで、このコンサートならではの組み合わせ。他ではできない体験となった。
「命をあげよう」(『ミス・サイゴン』より)
『ミス・サイゴン』の中でキムが歌う名曲中の名曲、「命をあげよう」はAプログラムでは昆夏美さん、Dプログラムでは屋比久知奈さんとともに本役が担当。ビッグナンバーだけに、心にグッと込み上げるものが抑えられない。思わず歌い終わった後、拍手を贈りながら「ほう」とため息が出てしまう。
Aプログラム刺さりポイント:鹿賀丈史さんの「Stars」松たか子さんの「見果てぬ夢」大地真央さんの「マイ・フェア・レディ メドレー」
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Aプログラムのゲストで最初に登場したのは鹿賀丈史さん。鹿賀さんと言えば『レ・ミゼラブル』ということで、同作から「Stars」を。歌い始める前のトーク部分ではお年を感じさせる部分も少しあったけれど、歌い始めた後は本当に素晴らしくて、それまでのトークをすっかり忘れてしまった。
松たか子さんは、『ラ・マンチャの男』より「見果てぬ夢」を。お父様である2代目松本白鸚さんの映像に一礼し、歌い上げる姿に「継承」を感じずにはいられなかった。出演されている映画が大ヒット中でお忙しい中、井上芳雄さんと楽しくトークもしてくださって感謝している。歌に感じたことは前にも書いたので、リンクを貼っておく。
そして大地真央さんは「The sound of music」と「マイ・フェア・レディメドレー」の2曲を。「マイ・フェア・レディメドレー」ではわれらが浦井健治さんがフレディで登場。お二人が『マイ・フェア・レディ』で共演したのは観ていないので、貴重な絡みが観られて「本当にありがとうございます」という気持ちになった。
Dプログラム刺さりポイント:中川晃教劇場と育三郎ルキーニと圧巻のトリプルヴォルフ
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『モーツァルト!』初演のヴォルフ中川晃教さんの「僕こそ音楽」を生で初めて聴いた。「僕こそ音楽」は他の方が歌うのを何度も聴いているが、こんな解釈をする人は初めてだ。音楽を愛し自由を愛するヴォルフの高音が、うっとりするほど美しい。帝国劇場の天井に吸い込まれていく音に、消えないで欲しいと願った。
山崎育三郎さんは『エリザベート』より「キッチュ」を。育三郎さんがルキーニを演じるのを観たことは無かったので、とてもありがたかった。客席に降りてなんか配ってたけど、あれは何だったのだろう。
Dプログラムの山場はなんといっても、トリプルヴォルフ(中川晃教さん、山崎育三郎さん、井上芳雄さん)による「影を逃れて」。三者三様のヴォルフが奏でる音の圧がすごい。まさに圧巻だった。貴重な体験にしばし呆然としていると、ゲストトークの最中に、「あの人呼んじゃう?」と呼び込まれたのは浦井健治さん。
そう。井上芳雄さん山崎育三郎さん浦井健治さんといえば、3人で「StarS」というユニットを組み武道館でコンサートを行ったほどの人気者である。ワクワクする観客の度肝を抜く斜め上からの登場の仕方は、どうかSNSでお確かめを。出禁にならなくてよかった。ヒントは「IMY×どぶろっく」。
終わりに
5年後、きっとミュージカル界の中心にいるメンバーは少し様変わりしていることだろう。泣いたり、笑ったり、心を震わせ明日を生きる元気をもらいに劇場へ向かうのも、健康でなければできないことだ。
5年後また、新しい帝劇でまだ見ぬ素晴らしい俳優さんたちに出会い、新鮮に驚きたい。
思い出をありがとう、帝劇。
また元気で会えますように。
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