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暇つぶしが負けず嫌いを作る
小学校1年まで、今のとうきょうスカイツリー駅近くの線路沿いに住んでいた。家の隣に砂利置き場があって、しょっちゅう誰かが置き忘れた軟式野球のボールが転がっていた。
祖父と保育園から帰ってきた後、そのボールを線路沿いの壁にぶつけて遊ぶのが日課になった。母が帰ってくるまでの暇つぶし。そのうち男の子たちが謎に集まってきて、「俺の方が速い」「わたしだよ」「もうわかんねえから続けて同じところに当てられるか競争しようぜ」とちょっとしたゲームが始まる。負けるものか。スピードでもコントロールでも。幸い小学校が終わるより保育園のお迎えの方が早い。線路沿いの壁に、ボールの跡が増えていく。父にグローブをねだってみた。そろそろ左手が痛いのだけど。なんとかオモチャのグローブを買ってもらう。ところで父よ、なぜあのグローブは赤だったの?
少し年上の子になら対抗できる程度になった頃、家族で少し遠くへ引っ越した。また、線路沿い。また、壁。しかも今度の壁はデコボコしている。投げたボールが、まっすぐ返ってきてくれない。あらぬ方向に行ったボールを斜め後ろへと追いかけ、捕球する。時々、フライにもなる。ひとり100本ノックを続けるわたしに、母はあちこち探して、入れる少年野球チームを見つけてきてくれた。
ひとりじゃない野球は、楽しかった。
ひとりじゃなくなってもひとり100本ノックは続く。練習した。足が速くなるように。思ったところにボールを投げられるように。狙ったところに打球を飛ばせるように。
6年生のわたし。マウンドに立っていた。隣町のチームとの練習試合で三振と凡打の山を築く。試合が終わった後、トイレから出てグランド整備に戻る途中、相手チーム数人とすれ違う。
「立ちションもできないくせに」
すぐには意味がわからなかった。ひどい言葉を投げつけられたのだと気づいた時、すでに彼らの姿はトイレの中に消えていた。
うわあ。なに今の?カッコ悪!
早く戻ろう。さっさと片付けて、帰って、素振りしなくちゃ。
体力で男の子にかなわなくなるのはもうすぐだと知らなかったあの日のわたし。頑張れば甲子園にも行けると信じていたわたし。世知がいくらか増え、見えなかった天井が見える。けれど好きなことに一所懸命な自分はずっと、変わらないことも知った。
いくつになっても、このままでいたい。
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