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感動とは「再生したくなる心の録画コンテンツ」

女優・濱田めぐみさんの声を聴くと、いつも頭の中で再生される映像がある。

ミュージカル『カムフロムアウェイ』。9.11の翌日からアメリカ領空が封鎖されたことを受け、アメリカに帰れないたくさんの飛行機がカナダ・ニューファンドランド島のガンダー空港に着陸し足止めを食う。小さな町の住民が乗客に寄り添い、心通わす物語は、世界中のあらゆる場所で上演されている。日本でも2024年、初演の幕が上がった。

普通のミュージカルには主人公がいて、主人公がソロで歌う曲が何曲もある。しかし1人10役以上を演じ分け、目まぐるしく展開する『カムフロムアウェイ』には、主人公らしい主人公が居ない。唯一のソロ曲はアメリカン・エアラインズ初の女性機長ビバリーが歌う「Me And The Sky」。男社会で働き続け苦難を乗り越えたビバリーの後ろに広がる青い空の爽快さと、クサクサモヤモヤしている自分のいまを客席で重ね合わせていた。ビバリーほど気丈でもカッコ良くもないただの会社員のわたしにだって、家庭を持ち、子どもを育てながら仕事を続ける中で色々なことがあった。たくさんの「こんちくしょう」な瞬間を思い出す。涙があふれた。

「はまだめぐみ」という音の連なりを聞くと、ビバリー=「Me And The Sky」と勝手にシナプスがつながって、オートマティックに彼女があの曲を歌う映像が浮かぶ。また、泣いてしまいそうになる。

心の中で何度も再生したくなる「あの瞬間」を、感動と呼ぶ。いや。音、空気、役者、観客、椅子、照明…「あの瞬間」を形づくったものすべてのことを、感動と呼ぶのかもしれない。

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はるまふじ
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