見出し画像

春の日の午後、下北沢のカフェでミカコさんに会いたくなる Paraviオリジナルドラマ『それ忘れてくださいって言いましたけど。』

プリンが、食べたくなった。

毎週楽しみにしていたドラマが、最終回を迎えた。
Paraviオリジナルドラマ『それ忘れてくださいって言いましたけど。』

ある春の日の、下北沢のカフェ。
そこでは、オーナーのソカベさん(曽我部恵一さん)がギター片手に歌う。
バイトのミカコさん(市川実日子さん)は、ネットで拡散された太陽に関する噂が気になりつつも、プリンづくりに余念がない。

白を基調として柔らかく陽の光が差し込むカフェには、役者さんたちが集まってきて、ガールズトークを繰り広げる。
ソカベさんのつま弾くギターと、歌声と、おしゃべりが心地よい。

ナツさん(夏帆さん)、ヨウコさん(吉田羊さん)、チカさん(唯野未歩子さん)。
ダイさん(渡辺大知さん)もやってくる。
怪しげな学者風(北村有起哉さん)もやってくる。

春の公園の陽だまりのような肌触りを感じながら、心に刺さったちいさな棘を気にするかのように、時計を気にするミカコさん。

チカさんの夫・ケンさん(西島秀俊さん)は何故か、リアルに春の公園にいる。

1話15分、全8話で紡ぐほんの数時間のお話。

クライマックスはない。
劇的な何かは起こらない。
街角で売られる激安野菜が、玉ねぎだけから玉ねぎとキャベツに増えるぐらいだ。

まるで出演者全員が「素」であるかのような錯覚を覚えてしまう空間。そのじんわり温かくほっこりする空間を、女優・市川実日子が見事に構築している。

プリンを作っているだけなのに。
ときどき、時計に視線を投げかけるだけなのに。
会話に相づちを打ち、微笑んでいるだけなのに。

いざ起こってみれば、「なあんだ」という現象だった太陽に関する噂。
なくてもいいものは、やっぱりあったら嬉しいものかもしれないし、なくてもいいもののままかもしれない。

でもたぶん、生きるってそういうことなんじゃないだろうか。
そんな風に思ったらまた、プリンが食べたくなった。

いただいたサポートは、わたしの好きなものたちを応援するために使わせていただきます。時に、直接ではなく好きなものたちを支える人に寄付することがあります。どうかご了承ください。