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JR有楽町駅を出て、日比谷方面へ向かう。

ビックカメラを右に見て横断歩道を渡り、左へ。もう一つ横断歩道を渡って右へ往く。ミッドタウン日比谷とシャンテが並ぶ左手へ、オートマティックに足が向く。劇場と映画館がひしめくこのあたりに来ると、いつも少しだけ歩くテンポが速くなる。TOHOシネマズも、東京宝塚劇場も、シアタークリエも、今日は素通り。

帝国ホテルが目に飛び込んできたら、右へ。2024年がスタートして4か月の間に、もう10回。見慣れた赤い劇場旗が出迎えてくれる。

日生劇場。

入口を進み、チケットを係の人に手渡す。「2つ上のフロアになります」「はい。ありがとうございます」。短いやり取りの後、エスカレーターを横目に階段を一段ずつ昇る。大理石の床にフカフカの赤いじゅうたん。踏みしめるたび足裏から「おかえり」が伝わってくる。心拍数が上がっていく。客席フロアのトイレには、いつものように長蛇の列。

席に着く前に、必ず天井を見上げる。建築家・村野藤吾の代表作とされるこの劇場は、とにかく内装が美しい。アコヤ貝があしらわれた天井が、鈍色の海に見えてくる。ガラスモザイクが施された曲面の壁が、わたしたちを包み込んでくれている。今日は、海が遠い。板の上が遠くなるほど海が近くなるここでは、どの席に居ても良く観え、どの席に居ても心地よい。これから始まる旅の前に、「ただいま」を伝える。

携帯は圏外。「帰ってきた時ぐらい、スマホ見るの止めたら?」と言われているよう。パンフレットを買いにちょっとだけ客席の外へ。今どき現金払いのみ。異世界へやってきた感が、ちょっぴり増す。

席に戻る。また天井を見上げる。板の上を見つめ、手の中のパンフレットに目を落とす。ページをめくるごとに、ワクワクが加速する。

ブザーが鳴った。あと5分で、旅が始まる。


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はるまふじ
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