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スターであり、スターでない 俳優・浦井健治の魅力
わからない。
彼の出演作は、けっこう観た。
だがどんな演じ手なのか?と問われたら、答えに詰まってしまう。
浦井健治とはどんな役者なのか。見つめれば見つめるほどに、わからなくなっていく。
ルックスの話や技術の話はできる。イケメンだし手足は長いし、等身バランスを見ているだけでうっとりしてしまう。役者としての身体性に優れていて、立ってるだけで画が持つ。ただ歌が上手いだけでなく、七色の声を持っており使い分けることで表現に幅を持たせてる。
ミュージカル界のスター、と言って良い。
だがこれだけなら、他にもあてはまる役者さんはいる。
何故わたしはこれほど浦井健治さんに惹かれてしまうのか?の答えになっていない。
理由にようやく思い至ったのは2024年9月、ミュージカル『ファンレター』を観てからだ。
もともと、幅広い役をこなす役者さんだと知ってはいた。
出会った時、彼は劇団新感線の作品『薔薇とサムライ』のシャルル・ド・ボスコーニュだった。爆笑した。王子だが王子様ではない。残念で愛すべき役どころ。
ドラマ『MOZU』のスピンオフ『大杉探偵事務所〜砕かれた過去編』の佐藤。サイコパス。普通に怖い。身体性が映像でも存分に堪能できる衝撃作。
ミュージカル『アルジャーノンに花束を』のチャーリイ・ゴードン。知的障碍をもつ青年から天才へ。そして・・・。ジェットコースターのように感情と知力が乱高下する。観客の情緒も乱高下。
シェイクスピア劇『尺には尺を』『終わり良ければすべて良し』。情けない役も最低男も、シェイクスピアのセリフ回しで体現。必死すぎる姿が笑いを誘う。
『キング・アーサー』ではアーサー王。先王の落胤は意図せず王となり、苦悩しつつも王様となっていく。屈託のない青年は姿を消し、「民のために存在する自分」になるにつれ声も立ち姿も変わっていく。
笑えるおバカ王子からサイコパス、シェイクスピア劇、アーサー王まで。彼が役を纏うとき、シャルルが、佐藤が、バートラムが、アーサー王が確かにそこにいる。
スター性を持った役者さんの演じる役は、似通って見えることがある。あたかも役がスターに引き寄せられて輝いてるかのように。だが彼の演じる役はどれも似ていない。いや、「演じている」ように見えないというべきか。そこにいるのは「物語の中の誰か」でしかない。
先日行われたファンクラブ向けコンサートでは、カッコいい衣装のままどんどん役が入れ替わっていった。浦井健治さんコンサートのゲストとして、さまざまな役たちが盛り上げにやってきた、という感じ。
韓国ミュージカルの日本初演、『ファンレター』。
肺結核を患い余命いくばくもない天才小説家・ヘジンが現れた時、「誰?」と疑問符が頭に浮かぶ。「天才」というキーワードにキラキラした姿を想像していたわたしの目に飛び込んできたのは、病で老成した小説家。病身の天才が、純粋にひたむきに文学を愛した姿が胸を打つ。あまり聞いたことのない低音が立ち上らせる旋律は、落ち着きと強い決意をこちらに届けてくれた。
帝劇の0番がよく似合うスターから、オーラは消えていた。孤独のただなかでひたすらヒカルを愛し、愛を支えに命を燃やして創作活動に打ち込む狂気と喜びと絶望と、絶望の後の温かくやわらかな歌声に、じんわりとする。涙が勝手に頬を伝う。
時には舞台の真ん中で観客の視線を釘付けにするスター。
時には静かに鮮烈に板の上に存在し、観客の奥深くを直接揺さぶる。
光と影がひとりの俳優の中で溶け合う刹那、板の上には何が乗るのか?
予測不能。
まだ、知らないところに引き出しがあった。
彼がくれる驚きを味わってしまったら、好きにならずにいられない。
次は、どんなものを魅せてくれるのだろう。
いつものワクワクを飛び越える瞬間が、またやってくる。
見逃すわけには、いかない。
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