100年の歴史を持つ画材店 銀座 月光荘
5月の連休中、2年ぶりにやっと友人と銀座で会うことができた。情報通の友人が選んでくれた抽象画の展覧会を見に行き、その後、行ってみたい画材店があるというので友人について行った。
間口の狭い入口から店内に続く短い通路を数歩進むくと、こじんまりとした空間が視界に入って来た。右側の壁には、色鮮やかな絵具のチューブがまるで壁画のモザイクのように陳列されており、その中には画材店のオリジナルカラーがあるという話だった。たとえば、コバルト バイオレット ピンクの ”月光荘ピンク” がそれだ。
たまたま、知人がアメリカから仕事で来日しており、築地にお寿司を食べに行くことになった。知人の要望で、もし銀座に絵筆を売っているお店があったら、陶芸の先生に買って帰りたいので立ち寄りたいと言われた。絵筆を売っているお店、それも銀座で。。。鳩居堂、伊東屋。。。あ、そうだ、この間、友人が連れて行ってくれた画材店があるじゃないか!
ネットで検索したところ、残念ながら営業時間に間に合わないことがわかったのだが、ウエブサイト上に月光荘にまつわるエピソードというのを見つけ、ここではじめてこの画材店のユニークな歴史を知ることになった。
1917年(大正7年)創業。絵具や絵筆などの画材を自社工場にて親子三代に渡り製造し続けること100数年。政府からの命令で戦争画を描いていた藤田嗣治ら画家たちへ、戦争中も絵具を製造、提供し続けていたことから、藤田と共に戦犯として名を連ねることになる。
藤田嗣治らが描いた戦争画の多くは、米軍によって日本からアメリカ本国に持ち去られた。輸送時の乱雑な扱いから、大半の絵画は修復が必要となったが、皮肉なことに修復に必要な絵具がアメリカにはなかった。そこで、画家と一緒に戦犯として名を連ねることになってしまった月光荘に、マッカーサー司令部が絵具を注文することから話は意外な方向へと進む。続きはこちらから。
https://gekkoso.jp/special/douglasmacarthur-gekkoso
他には、ビートルズが来日した際のエピソードが紹介されていた。メンバーが外出すれば熱狂的なファンたちに取り囲まれ安全が確保できないことから、やむなくホテルに缶詰状態になり、退屈し切ったメンバーは、絵を描きたいという要望をスタッフに伝える。スタッフは早速、必要な画材を月光荘で買い揃え、ホテルに届けた。その後、4人はコンサートが終われば、ホテルに戻って絵を描くことが楽しみになったという。ウエブサイト上では、当時の貴重な写真が他にも掲載されている。
https://gekkoso.jp/special/beatles-and-gekkoso
未だ、アーティストたちのために色、品質にこだわり画材を作り続ける月光荘。日本にもまだこういったお店が残っていることを嬉しく思うのと同時に、連れて行ってくれた友人に感謝したい。
Photo Credit:
写真家ロバート・ウィテカー(Robert Whitaker)
月光荘のウエブサイトより転写。