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「薬物依存症ミーティングに潜入してみた話」

来なけりゃよかった。

会議ホールを開いて俺はすぐに思った。

ここは俺の来る場所じゃない。絶対。

ここにいるやつらは真剣に薬物依存から抜け出そうと必死に自分と戦っている奴ら。
それに、こう…歯がボロボロだったり肌が灰色になってたり、発展途上国の犬みたいな顔してたり、眼の焦点があいまいかつ、鋭くギラついていたり、と、完全にどう見たって負け犬の薬に破れたヤク中にしか見えない。その全員が断固とした意思で薬を絶とうとしているオーラを全身の毛穴一つ一つから滲み出していて、そのオーラを纏った空気が扉を開いた俺の肺に入り込んだ瞬間鳥肌が立つほどの嫌悪感を感じた。同属嫌悪か?絶対違う。

今の俺はというと確かついさっきまで踊りまくってたレイブで酒やら大麻やらLSDやらコカインやら、何がどれでどれが何だか誰一人として分かっちゃいなかったけど、大量に回ってきたドラックでいまだに体中の血液はドラックで汚染されている。
寝てないし、酔っぱらっているし、イライラしてる。俺という存在はこの場に相反してんの。葬式でダブステップ流すようなもんだ。さらに言っちゃえばその悪質なレイブ酔いを中和させるために、このミーティングに来る途中ジョイントを吸って来た。ような気もする。
多分服とかもクサの匂いでプンプンさせてると思う。だけど、俺は俺なりに最善を尽くしてんだよ。来ただけでも偉いと思いやがれ。

とかなんとか色々考えているうちにババアに案内されたイスに座っちまった。

俺たち2人は入り口の一番近い席に案内された。会議ホールには60席ほどの椅子が用意されていた。そのほとんどに人が座っている。
そいつらは落ち着きがなさそうに手元のパンフレットを読んだりヒラヒラさせたりしているフリをしながら決して友好的ではない眼差しでこちらの様子をうかがっているか、あるいはガン見しているか、ぼーっとしているか、各々の禁断症状に身を任せてそわそわしている様子。

 居心地がクソみたいに悪い。

そもそも俺がこの「薬物依存症ミーティング」なんかに来る必要なんか全くもってなかった。俺は依存症なんかじゃない。利用してるんだ。ドラックを。そこの違いだ。こいつらと、俺との、差。

俺はこいつら負け犬らなんかと心を打ち明ける気なんて無い。訳あって来てるだけ。

俺の左隣に座ってる保釈中の友達の奴が、どうしても一緒に来てくれとうるさいからついて来てやっただけで、何がなんだって別に関係ないんだ。
 友達だから、しょうがないと思っただけ。
友達の奴は先月、コカインの所持と使用、それから売り捌く用の覚醒剤300グラムの所持で警察に逮捕された。
俺は前からこいつに忠告をしていた。
「お前、シャブ売るのはいいけど、メンヘラ女には売るなよ。絶対だ。メンヘラ女には売るな」散々言った。
友達の奴は「わかった」と言っていた。
ある日、こいつの買い手の女が駅前の公園で変死体として見つかった。
死因は覚醒剤のODだった。女は子供達が遊ぶ砂場の上で、白目を向いてヴァギナに大根を挿入していた状態で息絶えていた。
後で聞いた話によるとその膣に挿入されていた大根には友達の奴の名前、住所、電話番号、家族構成の詳細とそして「私はこの人からシャブを買っていました」というメッセージが彫刻されていたようだ。
こいつはまんまとパクられて2ヶ月留置場にぶち込まれていたが保釈申請が降りて一時的に外へ出て来た。友達の奴からはすぐに連絡が入った。
 「ほらな」
俺は言ってやった。当時のこいつはめちゃくちゃ焦りまくっていた。
「やばい罪状に営利目的がついた。売買してんのがバレた。ヤベエ。クソ。執行猶予がつかねーかもしれない。どうしよう、やべえ。やべえ。」とかなんとか言ってパニクってた。
詳しいことはよくわからないが、とにかく執行猶予付きで晴れて自由の身になるか、実刑判決を食らって刑務所にぶち込まれるかは来月に控えている裁判の判決で決まるようだ。
留置場の中で焦りまくっていた友達の奴に国選弁護士はこうアドバイスしたようだ。
「すべてはあなたの心証にかかっています。少しでも反省の色を示すために、薬物依存症の方たちが独自に開催している自助グループミーティングに参加して「出席スタンプ」をもらって来てください。それを裁判で提出すれば裁判官も心が揺らぐはずです」
 で、
こいつはそれに一筋の希望の光を見出したらしい。でも一人じゃ不気味すぎてそんなカルトミーティングに行けないからって俺を、しかも大切な日曜日だっていうのに、誘い出した。

「ね?頼むよ。ついて来てくれよ。わかるだろ。刑務所行くか行かないかの瀬戸際なんだ。少しでも支えてくれよ。お前の友達が困ってんだから。それにさ、何、お前、最近ちょっとやりすぎだろ。ちょーどいいっつうかさ、なんかいい機会だと思うんだよ。最近お前なんかちょっとおかしいだろ…?だからー」

「うるせーそれ以上喋んな。いいかそのヤク中ミーティングには行ってやるけど、それ以上俺のこと干渉するとお前のことぶっ飛ばしたくなるから喋んな。わかったか?」

「いや……俺はただお前のことも心配して……」

「うっせーな!!!黙れっつってんだよ!!!俺の言ってる意味わかるか……お前はお前の心配してればいいんだよ」

「わかったよ、わかった……、鼻に白いの付いてるよ」

当時俺はうんざりしていた。どいつもこいつも、余計な心配ばっかりしやがって。本当によ。俺は大丈夫だっつってんだろ。俺は…
俺は目の前にいるこいつらボケとは違うんだよ。 正常なんだ。

俺はいつだって正気だ。多分。
イライラして来た。

一人の男が咳払いをし、立ち上がった。肌の浅黒い高身長のおっさんだ。そいつが中央のホワイトボードの前に歩み寄る。マイクを持った。
「みなさん、こんにちは。えー、今回司会役を務めさせていただくアルコール依存症の「アインシュタイン」と申します。よろしくお願いいたします」そいつがそういうとメンバーが拍手をした。

なんだ?アインシュタイン?

そいつの手元の資料がブルブル高速で震えまくっている。
「えー今回初めてのご参加ということで、そちらにいるお二方が来てくれました」そういって俺たちの方を指差した。「みなさん、新たなる同志に温かい拍手で迎え入れましょう」

まばらな拍手が起こった。俺はメンバーを礼儀正しくいちべつすると、雑に会釈した。
「みなさん、よろしくお願いします!」隣の友達の奴がはっきりと返事する。

ハハッーー。見ろよ。こいつ、更生を目指してそれに全生命力注いでますって表情してやがる。
ここに来る途中聞いたんだけど友達の奴が言うには、このミーティングで意思の強さが認められると「優良スタンプ」とか言うクソくだらないやつがもらえるらしい。こいつはこれを狙っている。本当面白い奴。

アインシュタインとかいう奴が続ける。「えー、初めての方もいらっしゃいますので、このミーティングのルールを軽く説明させていただきます。このミーティングは自助グループであり互いに励まし合いながら自己の問題と罪を自覚し、幸せを探求する目的があります。ここでは、個人情報を守る意味で皆さんにはニックネームで呼び合ってもらいます。本名をいう必要はありません。互いにその名で呼び合います。ちなみに私のニックネームは「アインシュタイン」です。いや、特に深い意味はないんですけどね、昔、相対性理論の研究をしていたもので、何か、お決まりですか?」

俺はさりげなく着ているパーカーの匂いを嗅いだ。
やっぱし、めちゃくちゃマリファナ臭せ。これ、大丈夫かな、とか思っていると視線を感じて右隣の男と目が合う。
そいつからは俺への軽蔑の表情が伺えた。そのチンピラ風の男は明らかに俺の匂いに気づいている。クソが。そんな目で見るな。

「あのー」友達の奴が不安そうに新人らしく言った。「その、名前はなんでもいいんですか?」
「はい。なんでも大丈夫。深く考える必要はありませんから」
アインシュタインの奴が言った。なるほど、了解。
「ハイ」俺が手をあげる。
「はい、どうぞ、お決まりでしょうか」とアインシュタイン。
体の不調やイライラは一種のエネルギーだ。これは、マイナスのエネルギーだからプラスに転化させる必要がある。とにかく、イライラには他人に不快な思いをさせることが一番の特効薬なのは俺は知っていた。
「ハイ、えーっとー」俺がちょっと考えてから、一番最初に浮かんだ言葉を言う。「じゃあ僕の名前は中国産梅毒マンコです」俺は言った。
「えっと…中国…そのー」アインシュタインがたじろぐ。
会議室が静まり返った。メンバーの顔を見る。
こいつらは俺をこの薬物依存症ミーティングのがん細胞予備軍だと勘付き始めただろう。
 それでいい。
数人のメンバーが眉間にシワを寄せて俺を見ている。誰かが舌打ちした。

「え、ダメすか?」と俺。
「いや、はい、そうですね。ちょっとこの場にはふさわしくない名前と言いますか、みなさん真剣に取り組んでらっしゃるので、できればほかに案があればそちらにしていただきたいのですが、ファーストネームの方もいらっしゃいますので…」
お前がなんでもいいっつったんだろうが。喉元まで出た声を飲み込んで、
「あ、っそーすか、じゃあ、アルバートホフマンで」
「ええ…はい、アルバートホフマンさんでいいですか?はい、これで、えー、よろしくお願いいたします。よろしければ、アルバートホフマンさんから皆様へ一言あればお願いいただいてもよろしいですか」
「あ、はい」俺は立ち上がって言う。
「えーみなさんおはようございます。この度はみなさんのような底無し地獄の禁断症状と日々戦い、絶望し、奮闘されている終わりなき旅路を進む方達と話し合える機会に感謝します。以上です」沈黙が気持ちよかったが1、2人が気を使ってパチパチ拍手をした。俺は座った。

そうしたかったんだけど、全体的に友好的じゃない雰囲気がやっぱ気にいらない。こいつらはユーモアもクソもない。真剣な姿勢はいいがユーモアが無くなったら死んだも同然だろ。俺もこいつらを軽蔑するが、それらは表面的な言い訳に過ぎず、俺はそれ以上にこいつらと敵対したいという念が自己の中にあることに気づき始めた。

「 …………えー、では、続いて、お隣の方ニックネームはお決まりでしょうか?」
「はい」友達の奴がそう答え立ち上がった。「皆さん初めまして。私はスカイブルーと申します。よろしくお願い致します」
「スカイブルーさんですね!いい名前です。よろしくお願いします」

待て待て今なんつった。
スカイブルーだと?クソだせーぞ、お前はあれだろ、ほら、いつもキャバクラでクソ酔っ払った時に叫ぶやつ、ほら、あれ、俺はクンニギャングスターだ!!!だろ??違うのか?え?

アインシュタインが続ける。「ではスカイブルーさん、みなさんに一言あればお願いできますか?」
友達の奴は、はいと返事をすると慈悲深く訴えかけるような表情を作り、それから
「今回皆様方と自己の幸せのために話し合えることを心より光栄に思います。私自身、薬物依存症であり、長らく暗い海底のような人生をおくってきました。そして、愚かにもこれまでその日々から抜け出そうとも思わず、自分から目を背け、幸せになる努力もせずにいました。しかし、そんな私にも人生を見つめ直すきっかけがありました。それは私にとってのチャンスでした。それから私は人生をやり直して必ず幸せになると決意しました。そんなある日、私はこのような素晴らしい会の存在を知りました。私は勇気を出してこの隣にいる悩める友人を連れ、参加することに決めました。私たちには皆様の助けが必要です。正直私の心は綺麗に澄み渡っているとは言えません。ですが、皆様のように、自己を救い、互いに助け合い、幸せを目指す心の穏やかでキレイな方達と一緒に私もスカイブルーのようなキレイな心を目指して行きたいと思います」

会場には力強い拍手が巻き起こった。友達の奴は満足そうな笑顔を見せて着席した。

 こいつは完全に道化だ。

「素晴らしい」アインシュタインが感銘を受けていた。「自分の過ちを認め、理解することは簡単なことではありません。その上で、向上心を持ってミーティングに挑むスカイブルーさんの態度はとても素晴らしい。私たちも新たなる同志の強い意志の力と初心の心を学び、私たちも最初はそうであったように、温かい目で迎え入れましょう」

アインシュタインがそういうと最後にもう一度歓迎の拍手を受けて最初の洗礼は終わったようだ。

俺はその間ずっとズボンの右ポケットに入っているコカインのパケをもみほぐしながらもてあそんでいた。
俺は最近こいつに頼りっきりだ。昨夜から夜通し遊んで一睡もしてないんだ。俺は早くこいつを吸いたくてしょうがなかった。この世のほとんどのものは俺を裏切るが、こいつだけはそんなことはしない。俺に力をくれる。多少の弊害はあるにしろ、人生を前進させるための原動力と考えればそれは大したことじゃない。それに俺はこの、目の前の奴らと違ってドラックに飲み込まれていない。俺はドラックを利用してんの。ドラックを支配してんの。こいつらはドラックに支配されちゃってんの。つまり、それは、こいつらと、俺との、差。

……歯キシキシしてきた。

「それではみなさん、ミーティングを始める前に神聖なるパワーを授けてくださる偉大なる力にお祈りの言葉を捧げましょう。まだ暗唱できない方はパンフレットを見ながらで結構ですのでご一緒に唱和ください。失礼」アインシュタインの奴が俺たちにパンフレットを渡す。
俺が受け取るとパンフレットの表紙には十字架とその下で笑う子供達が印刷されていた。
 なんだこれ。
表紙の隅に乾燥したハナクソがこべりついている。世界で一番クソパンフレット。
「では、今日は第12章「受け入れる力。信じる心」をお願いします。えー、今日の担当はどなたでしたっけ」アインシュタインの奴が言うと、一人の中年男が恐る恐る手をあげた。
「そうでした。では、今日は「総理」さん。よろしくお願いします。それでは総理さんの後に続きご唱和下さい」
アインシュタインの奴が言うと、その酷い顔をした中年男が何やらボソボソと言葉らしきものを唱え始めた。
「…ぜ、全能なる神よ。我々に、じ、自助の力をください。我々が決して変わることのできない事実を受け入れる力をく、下さい。我々が、め、目を背けたくなるような自己の過ちと向き合える場と平穏を与えてください」
「ー全能なる神よ。我々に自助のー」

 まて。
何が始まったかと思ったら、「全能なる神」だと?初っぱなから神頼みすんのかよ?冗談だろ。
「ぜ、全能なる神が我々に手を伸ばすかぎり、わ、我々の前には救いの道があり、た、た、た、た、た、た、たとえその道が厳しく険しい道だとしても常に希望の光を心に灯し、ぜ、全能なる神の導きによって幸せな世界に移行できることを強く信じ、我々は全能なるー」

ムリ。
やってらんない。
俺の内なる不信感がむくむくと体をゾクつかせる。
友達の奴を見る。こいつは作文発表してる小学生のばかだ。こいつまじで。俺には耐えらんねーよ。でも、いいんだ。こいつは今「優良スタンプ」というクソめがけて必死なわけで、それはいいことだし、友達だったらこんくらいは協力するけど、どうも神だ何だってなってくると、俺は、
「ーさ、さ、さ、更なるゆ、勇気を………あ、あの、す、すいません」吃音の酷い顔をした中年男が、祈りを中断した。
「あ、あのアアアアルベルトホフマンさん…..」

「……あ?」

「な、なな何かふ、ごごご不満でもあるんですか」
なんだお前。

俺はうちわ代わりに煽いでいたパンフレットを隣の友達の奴に渡す。
「い、一緒に、よ、読んで頂いてもいいですか…。こ、ここここのル、ルールなので…僕の後にー」
「その前にちょっといいすか」俺が言う。
会場のメンバーの目線が俺に集中する。敵意の目。それでいい。
「本来ならば、祈りの最中や人が話をしているときに発言するのは認められませんが、今回は特別にいいでしょう。どうかしましたか、アルバートホフマンさん」
アインシュタインが割って入ってきた。
あっそ。
「なら言いたいんすけど、あんたらがやってんのは自助グループですよね?自らを助けることに意味があると思うんすけどね、誤解を恐れずに言うと、あんたらが言ってる全能なる神だか何だか非現実的なことにすがってたら本質的なところを見失ってしまうんじゃないんですか。俺は思うんすよ。どーでもいいけど。どーも胡散臭いね」 

向かいの女が驚いて口をふさいだ。
「……あのね、アルバートホフマンさん。初回なのでご存知じゃないかもしれませんが」俺に近寄って「いいですか、神を信じ、スピリチャルに目覚め、過ちと向き合い、自己を肯定するプロセスを経て皆様は薬物から離脱していくのです。あなたの意見は今はただの一部の狭い見解に過ぎないんですよ。あなたの気持ちもわかります。実際、最初の頃は疑心的な方も多いのです。ですが、あなたのようにそれを全面的に示してしまうのはよくない態度です。最初はそうだった方も、受け入れる力を身につけ、このプロセスの中で救われて来ました。あなたにも受け入れるという勇気が必要です!あなたは歪んでいる!!」
アインシュタインとかいう肝硬変男は自分の立場を利用していかにも正論って感じの相手の意見をねじ伏せるときの口調を極力紳士的な態度で隠し覆って言った。
こいつは、俺を見て、それからメンバーをさりげなく見回した。
会場に「そうだ、そうだ」と声が上がった。
「いけません、皆さん。そのような高圧的な態度は認められません」アインシュタインが言う。「お分りいただけましたでしょうか、アルバートホフマンさん。これはプロセスなのです。信じることから始まります」
奴は勝ち誇ったような顔つきを見せた。

     こいつらはカルトだ。

俺は今最強にイラついている。何で俺がこのヤク中の負け犬どもにのけもの扱いされてんだ。今世紀最大納得がいかねえ。俺はこいつらを嫌でも納得させたいだけで俺は納得したくねえ。

「俺にはよくわかりませんね。だって、ほら、その、あんたらの信じてやまない全能なる神がもし本当にいるのならば、そいつはあんたらをこうやって分量もわからないボケヤク中になるように創り上げたワケでー」

ここで友達の奴に強引に口をふさがれた。 

「いま、なんと……………」パンフレットを床に落としたアインシュタイン。

あわてた友達の奴。俺は友達の奴の手を口から振り払う。俺は確信を突きつけて最高に気持ちが良くなる。友達の奴、
「すいません、すいません!今、彼はちょっと私生活でとても精神的な負担を抱えていまして、とても神経質になっているんです。でも、彼は彼なりに努力しているのです。現にこうやってここに参加しているわけでして、彼はなんというか、まだ受け入れるのが難しいようで反発してしまったようです。彼はいま、とても反省しています」

予定よりも早く休憩時間に入った。
一旦喫煙所にずらかる。

「頼むよ」友達の奴が言う。「おとなしくしてくれよ」

「だってクソばっかじゃん」

「お前がそんな態度とるからだろ?…いや、お前が一緒についてきてくれたことには感謝してるよ。でも俺の執行猶予がかかってんだよ。わかるだろ。お前が俺の立場だったら、そう思うだろ?」

「そうかもだな」

「マジで刑務所なんか行きたくねんだよ」

「それは俺もだ。おとなしくする。約束する。だがこれだけは言っとくが全体的に気に入らねんだ」

「気にすんな。あいつらはみんな人生終わってんだ。な?だからこんなとこに来てんだ。ここはヤク中の、あれだよ、なんて言うのー」

「デビスモンサン空軍基地?」

「は?、まーそんなとこだ、でも俺らは終わってない。な?奴らのことは気にするな。でも刑務所いったら終わる。人生台無しだ。人生おじゃーん!!俺はその瀬戸際なんだよ。わかるっしょ」

「わかるよ。でも、俺は神は信じねー」

「俺もだ」

それから俺らは景気付けに6、7本のコカインを吸った。シャキッとしないとな。友達の奴が大変なんだし、協力してやらなくちゃいけない。友達の奴に協力する。OK。
会議ホールに戻る途中俺は思った。  

      ーいいネタじゃんー

俺はこいつの、友達の奴の、隣で、脇役に徹していれば良い話であってさっきそんな話して俺はボケっと座ってれば良いわけであっておとなしくしてりゃ良いんだけどそれは頭で分かってんだけど、どうやらさっきのコカインは上物らしくて脳みそと口が別々の生き物になって乖離して俺は、俺の口は、俺の口の中は今ずーっとずーーーっと喋りたくてしょうがないし、現に喋ってるし、無性になんでも良いから声もでっかくなってきて友達の奴が俺のパーカーの袖を引っ張り込んで俺に座れよと強引にひっぱる。

「なんだよ?俺は今喋ってんだろ?俺は喋ってんの。俺はこいつらに、じゃなくて、この人たちに、俺のことを。いやちょっと個人的かも知んないけど知ってもらうために喋ってんだろ、俺のことをよく知らないでこいつらに、この人たちになんのアドバイスができるって言うの?いや、そうか、お前の脇役に徹してればいいんだってさっき話したばっかだったな!!なのに俺は喋りたくてしょうがないっていうのはわかってるだろ。な!!!!!俺の過去はそんな単純じゃない俺の親父はアルコール中毒で処方箋薬中毒でもあってほらいつだっけかお前が俺のうちに遊びきた時、トイレでゲロ吐いてたおっさんいるだろ、それが俺の親父で断酒の処方薬飲んでるのにも関わらず奴はあーなって安定剤でもラリってて俺は当時ほんとムカついてたんだけどな!!!え?あれは兄貴じゃねえ。俺に兄貴はいねえ俺の親父が惨めすぎて嘘ついただけだ、で、そういうのとかあんだろ?依存しやすい体質っていうの?遺伝だよ、まーそういうのを子供の頃から見ているワケ幼少期の頃の人格成形には親の影響は大きいだろ?だから、俺はそうゆうのを見てきたワケで俺が縄跳びやってるようなガキの頃から。そう、俺はガキの頃縄跳びが得意なガキで学校の体育の授業で縄跳び連続何回跳べるかっていうやつで優勝したんだ。そん時賞状貰って親父に見せたら親父は大喜びで大酒飲み始めてそれから俺は小学二年生、違う、一年生の時だったっけ、一升瓶の半分飲まされたはずなんだがいやまて、あれは「ロシアの酒だ」と親父が叫んでたからウォッカかもしれないけど、いや、待て、幼稚園の頃だったっけ、俺はそんな感じで、あれ?なんだ、クッソ」

   ーおとなしくしろおとなしくしろー

「アンドレイチカチロ?あれ、違う、ハハッ。えー、アインシュタインさん、俺たちは今なにについて話し合ってるんでしたっけ?あー、クッソ」

ダメだ。色々。でも俺と俺の口が乖離して勝手に喋り出してー
「・・・・・・はい、今日は未来の幸せについてです」アインシュタインの奴が言う。

「あーそうそうそう、そうそうそうそうそれ、それで、それで俺が何が言いたかったっていうとですね、俺は今が充分幸せだって事です。俺はなにもあらがったりしてないんですよ。ポンポンポンと行くんす。好きな時に寝て好きな時に起きてドラック使ってセックスして仕事して、仕事って言っても、その、詳しいことは言えないんですけど自由なものです。みなさんはヤク中でそこから脱しようと必死にあらがってるんです。そんなのではいつまでたっても幸せになんかなれないんすよ。あらがうから辛いわけであってそれを受け入れることと、使うなら使うでパクられなきゃいいんですよ、そこがバカなヤク中とちゃんと考えるヤク中の違いでそれちゃんと考えなきゃいけないしそれできないならあんたらは不幸な人間なわけで好きなことやんのに何も考えないで思考停止してるからこんな負け犬じゃなくて、苦しいんだよわかりますかみなさん。  あ?おい、やめろっつってんだろ。俺が今喋ってんだろ。な?え・・・?多分、うん。約束した。そーだなそっか座るわ。ハハ。すいませんちょっと熱くなってしまいました。これも皆さんが発する負のエネルギーが僕の琴線に触れたからです。こいつが、俺の売人で最高の友達の奴が、あ? そっか今はブルースカイの奴が落ち着けってうるせーから、やめろっつってんだよ!!!!こいつは俺のダチで最高な奴だよみんなよろしくしてくれよな、うるせえなそこの女!!!!俺が今喋ってんだろうが俺は今喋っててお前が手を上げる番じゃねんだよ、黙って聞けよ、それで、そうこの友達の奴は最高な奴で、まあ今は完全に道化だがまーしょうがねーんだよ今切迫した状況だからな、どうしても優良スタンプがねーとこいつは刑務所にブチ込まれて人生おじゃんだからな!!おじゃんだ!!俺はおじゃんじゃねえ!!俺はお前らと一緒で人生終わってねんだよ!!!!!!」

ー俺は彼は俺は彼は俺は彼は俺は俺たちはいや違う俺は終わってなんかー

「・・・・・アルバートホフマンさん、鼻血が・・・・・」

「俺は大丈夫だっつってんだろ!!!!!!どいつもこいつも俺が狂ってると思ってるんだ俺の母親も周りの連中もこの隣の道化の野郎も俺がドラック漬けの廃人だと思っていて俺に大丈夫かって言ってくるがそいつらは俺がそいつらにドラックを売ってるから自分のためで俺がとち狂って自首なんかしないか心配してるだけで俺はそんなことにはかっまってらんなー」

ここで友達の奴が俺の顔面をぶん殴り抑えつける。

俺は友達の売人の奴の顔面を殴る。

俺は中央の机の上にパケから5g以上入っているコカインをぶちまける。
粉まみれの机に俺は顔面を突っ込み吸い込んで叫ぶ。

俺はこれがあれば大丈夫だああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!

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