ARISE03に行ってきたレポ

5月21日の土曜日に、MESONさんが主催するARISEに参加してきたので、忘れないうちにレポートに残しておこうと思う。
参加した3つのセッションについての概要と感想を残しておく。


1 "メタバース"、"XR"の正体とは

「メタバース」や「XR」と言った言葉は、昨今技術者でなくとも知っている人も多くなってきたが、初めはどのような思想から生まれた言葉なのか。

雑誌『WIRED』の創刊編集長を務めたケヴィン・ケリー氏は、テクノロジーの進化には12の力が作用しているという"テクニウム"と呼ばれる思想を提唱した。
その12の力のうち、XRの進化にはインタラクティング(相互作用する)の力が大きく関わってくる。相互作用しているのは、物理世界とデジタル世界である。
物理世界とデジタル世界が互いに引き合って近づくその過程を表す言葉として「XR」という言葉が生まれた、ということだ。

「メタバース」「Web3」に関しても同様で、こちらはデジタル世界が自ら拡大していく様を表す言葉として捉えることができる。
「メタバース」とは、デジタル世界に新たな世界を創る動きであり、「Web3」とは、デジタル世界に新たな社会を創る動きだ。
デジタル世界が広がっていく過程を表す言葉、と言って差し支えないだろう。

「メタバース」「Web3」という言葉を聞き齧りだった自分は、デジタル世界での交流の場、技術発表・実験の場という朧げな認識をしていたので、新たな世界、新たな社会と言われてみると、仮想通貨の普及や急がれる法の整備についても妙に納得がいくお話だった。


2 各社にとってのメタバースの市場価値

NTTドコモでは、社内ではメタバースに対する認識も浸透してきたが、未だメタバースは成長段階にあり、現時点でマーケティング戦略に取り入れるのは時期尚早という判断。期待値はとても高いので、市場価値も付随してどんどん上がっていくだろう。
NTTドコモとしてはARグラスに注目をしており、次世代のスマートフォンはARグラス化するだろうという予測をしている。アメリカで体験したARグラスに対してはとても好評価だったが、価格や持ち運びにおけるサイズの大きさに不安も残している。
ARグラスのように、視聴覚に対するアプローチに最も大きな価値を見出しており、マーケティング戦略としてはそこが中心か。
メタバースを利用する顧客に対して提供しなければならないのは「幸福度」であり、物理世界とは違ったコミュニティに参加することで幸福を追求してほしい。

KDDIでは、メタバースは課題解決の場として活用している。
現状のARの課題はレンズをかざす1動作をどう失くしていくかにあると考えている。毎回かざす動作を挟まなければならないのは習慣を変えなければならないということであり、その壁は高い。その点ではかけるだけで良いARグラスへの期待値が高い。
KDDIではデジタル世界での衣服の在庫切れを防ぐバーチャルトライオン事業を発表したが、そういったサステイナブルな世界を創ることが大事である。

ソフトバンクでもやはり言葉の浸透が大きな進歩になった。発表からしばらく経ったが、XRに期待できるところと期待できないところをしっかり見極めることが大事になってくるだろう。
現在のXR技術で継続した体験をユーザーに与えられるところまで到達しているのはNianticの例だけであり、基本的にはその瞬間を楽しむ体験がすべてになってしまっている。世界の進歩を目指すには、もっと生活に浸透した体験を増やさなければならない。
また、ユーザーがデジタル世界、メタバースにネイティブかどうか(明るいかどうか)は大事な要素の一つである。現在は認知度から見てもネイティブでないユーザーが大半であり、ターゲットを意識したマーケティングを行わなければならないだろう。
ソフトバンクとしてはちょうどメタバース事業部が設立されたところで、これからメタバースに対する取り組みが始まろうとしている。Web3に取り組む企業にもビジョンファンドとして積極的に投資をしており、バックアップを欠かさない予定。
XRの未来を考えると、メタバースを非ネイティブ層に普及させるためのイノベーションが必至。コストの削減、時間の節約、十分な満足度を提供することがイノベーションの大事な要素となる。

楽天では、VPSと5Gを利用してスタジアムのリアルタイム観戦体験を実施した。デジタルツインのデータ生成はとても容量が大きく、ハードルになってくる。
ARグラスにも期待は寄せているが、課題となるのは視野角の狭さと見ている。少しでも不便な点があると、ユーザーが一度使って飽きてしまうのではないかと思う。
企業としては、先行してメタバースに取り組むのは未だ検討が必要な段階である。個人的には、発表されてからの年月に比べて大きな追加発表がなく、少し周りが冷めてしまっている印象。

各社ARグラスに対しての言及が多く見られて、ARグラスへの期待の大きさを感じた。ARグラスは展示で見たが、想像よりコンパクト(いつもかけているメガネとほぼ変わらない)でとても軽量で驚いた。視野はとても縦長で、上下の視点移動ができるのがとても画期的だと感じた。
「スマホを見て下向きになりがちな現代の人間を、再び前に向かせてくれる媒体」という表現をされていて、とてもユニークで面白いと思った。
写真や映像を撮るのを失念してしまっていたので、Twitterから引用させていただく。

また、NTTドコモの方がアメリカで体験したというMagic Leap2についてもレビューを残している方がいたので、ついでに貼っておく。

メタバースへのアプローチは各社様々だが、やはり言葉の浸透が先行しすぎていてネイティブなユーザーが少ないことが課題であり、ソフトバンクの方が話していたようにイノベーションを進めていくが不可欠だというのが個人的な結論になった。各社が今後どういう動きをして、どういう発表がなされるのか目が離せない。


3 Nianticのリアルワールドメタバース

Nianticは、『レディー・プレイヤー・ワン』のような完全没入VR世界を「ディストピア」とし、目指さないとしている。
『Pokemon Go』のように、現実に寄り添うテクノロジーを重視して、人間が歴史とともに築き上げてきた現実の社会・現実のコミュニティを第一に考えるようにしている。テクノロジーによって人間がこれまで作り上げてきたものを塗り替えるようなことがあってはならず、テクノロジーはあくまで生活の改善の手段として使われるべきものである。

ではテクノロジーを完全に捨てて元の生活に戻るべきかと言われればそういうことでもない。世界の情報を自分の端末で簡単に得られる世界はとても便利であるからだ。しかし、近年それに没頭しすぎてしまうことが社会問題となり、現実でのコミュニティが薄れていくことが問題視されている。
そこでNianticは、現実のコミュニティの繋がりを強くするための手段としてテクノロジーを利用することを推進している。

現実世界でメタバースを創り上げるには、2つの障壁が存在している。
一つは何億人もの人間をユーザーとして同期させること。Nianticはその壁をLightship プラットフォームによってクリアし、全てのユーザーが共有状態となっている。
もう一つはユーザーを現実世界にあるモノに結びつけておくこと。これを解決するにはコンピュータに与える精確な地図が必要。これはユーザーの力を借りることで双方向の情報を得て解決をしてきた。

ユーザー側から情報収集をしている点で、GoogleのGeoLocationAPIとは差別化ができていると思う。Googleは衛星情報を基に情報を収集しているが、Nianticはゲーム内でユーザーから直接与えられる情報に価値を見出しており、そこには衛星情報では得られないデータが存在すると考えている。

Lightship以外では、買収したScaniverseという会社から点群データを受け取って、スマートフォンでも簡単に地図を作成できるようになっている。
8thWallという会社も買収していて、ブラウザ上でのAR体験もすることができる。
Lightshipは英語のサポートしかされていないので、これから各国に広めていくためにサポートも対応していかなければならないのが課題。投資もしていきたいので、日本の企業にも呼びかけをしている。

前のセッションでもあったように、唯一日常に継続する体験を与えることに成功しているのがNianticであり、その考え方を聞くことができたのはとても参考になるお話だった。
これまでXR技術の終着点というのは『レディー・プレイヤー・ワン』のような全人類が共通に認識できる新しい世界を創り上げることだと思っていたが、現実ベースで現実のコミュニティを重視したエンターテイメントというのも、理想の形のように思えてきた。

8thWallはここから。


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