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部活を続ける理由。

2024年4月27日。私は部活に行くことがどうしてもできなかった。
朝起きると、身体が動かなかったから。

「行かなきゃ。」
と考えれば考えるほど、涙が止まらなかったから。
私はなぜ部活を続けているのだろう。大学生にもなって。

この文章を打ち込みながら、また私の目には涙がたまる。

始まり。

私は人に悩みを打ち明けるのが苦手だ。

しかし、私の人生において今回の出来事は、
どのような形でも良いから残しておいた方がいい、そんな気がした。

もしも、誰かの心に届けることができたなら、私は嬉しい。

以降、私がこれまでどのように部活を続けてきたのかについて綴っていきたい。

期待と不安。

2022年4月。大学生になった。
今思えば、新生活は期待より不安が大きかった気がする。

中学では硬式テニス部に、高校ではバレーボール部に所属してた。
テニス部では個性派ぞろいの同期をまとめながら部長を務め、
都大会にも出場した。
大変な三年間だったが、私自身がとても大きく成長した時間だった。

高校のバレー部は、コロナの影響でほとんどできた記憶がない。
高校三年間の思い出といえば、佐々木福っていう、
子役から活躍してるあのタレントさんを思い出させる名前の女の子と大大大親友になったことしかない。
福ちゃんとは今も仲良し。

あとはそう、
高校の卒業式間近、担任の先生がしていた話。

「大学に入ったら、
とにかくたくさんのコミュニティを作りなさい。
コミュニティが一つだけしかなくて、
仮にそのコミュニティが崩れたら
君は1人になってしまうだろ?」


なぜかこの話だけは一生忘れない自信がある。

それくらい、私の心に響いた。

アルティメットとの出会い。

そんなこんなで、
部活で得るものの大きさと友達の大切さを知ってしまった私は、
大学でも運動部(サークルでもよかった)に所属しようと考えていた。

日差しが強くて4月とは思えない暑さの日、
新歓で誘われたアルティメットの体験会に参加した。
スローの練習をしたり、ミニゲームをしたりした。
知らない人ばかりで緊張したけど、
やはり体を動かすのは楽しい。

先輩たちはみんなにこにこしてて、
やさしかった。
そんなあたたかい雰囲気に魅かれて、
アルティメット部に入部することにした。

体験会の帰り、先輩に買ってもらって食べた
クーリッシュが暑さを忘れるほどキンキンだったのを覚えてる。
冷たさの後のほんのり甘いバニラの味が身体中に染みわたって、新生活への不安を浄化させた。

「アルティメットかぁ。4年間、楽しくなりそうだなぁ。」

ふんわりと自分の楽しそうな姿を想像し、私は期待に胸を躍らせていた。

大学一年の春休み。

辞める理由。

アルティメット部に所属してから、
あと数か月で1年が経とうとしている。
1年ってあっという間だ。

入部当初、同期はプレイヤー12人マネージャー2人の14人だった。

まぁ、過去形なのだけど。
アルティメット部は正直、身体的にも精神的にもやられるものがある。
そのため例年、夏合宿あたりにやめてしまう人が多い。
私の同期も例外ではなく、プレイヤー3人マネージャー1人が辞めてしまった。
同期が辞めてしまう理由は痛いほどわかるから止められなかった。

何がつらいのか。
一つ目の理由は、
練習時間が長すぎること。

週に三回、水、木、土で練習がある。
一回の練習は、短くて3時間、長くて朝早くから日が暮れるまで行われる。
体力が持たなかったり、
長く一緒にいるのには重要な、人間関係がうまくいかなかったり。
さみしいことだが、しょうがない。
合う、合わないに関しては他人から何か言えることでもない。

二つ目の理由は、
遠征が多くてお金がかかること。

バイトをすればよいのだが、大学生活は授業もあるし、遊ぶ時間も欲しい。
時間がいくらあっても足りないのだ。

三つ目の理由は、
運動部特有の完全なる実力主義だということ。

うまくレールに乗れなかった人は、練習に参加する権利を失う。
言い方は悪いかもしれない。
でも、そう感じてしまうことがある。

実は、私もすべての項目に当てはまる。

「つらい。やめたい。」
何度考えたかわからない。

でも、やめられない理由があった。

辞められない理由。

私は「継続は力なり」という言葉を大切にしていて、一度始めたことに対して、
私の中には「辞める」という選択肢は選べないようになっている。
自分の努力でどうにかできると信じているし、
実際今までどうにかしてきた。

そして、もう一つ大きな理由は、
今辞めるには同期を大切に思いすぎているということだった。
自分のポリシーを曲げ、大切な同期との時間を捨てるくらいなら絶対にやめたくなかった。

こういう考えが、自分を苦しめているのだと痛感する。

「あーーー。幸せになりたい!!!!!」

大学の最終レポートを必死に終わらせながら、部屋いっぱいに響き渡る声で叫んでみた。

「わん!わん!」
くるんとした長い尻尾をめいいっぱいに振りながら、うちの柴犬そらくんが私の声に合わせて騒いでた。

明日も部活。もうすぐ1,2年生が主役の新人戦の時期が来る。

私の同期の話。

私の同期は、一人一人しっかり自我があるからわかりやすい。
みんなそろいもそろって、ご飯を食べるのが大好きでずっと食べてる。
そんでもって、忘れ物とか落とし物とか、、だらしない子が多いし、甘えん坊ばっかり。
うん、ちょっぴりおこちゃま集団なのだ。

これを私たちの部活では、赤ちゃんの様であるため「ばぶ味」があると呼んでいる。
お世話したくなる的な?
全員が「ばぶ味」があるわけではないけど、
みんなかわいいのはたしか。
そんな私はみんなの長女のような存在である。

私たちは、週3回の部活で長い時間会っていてもわざわざ休日を合わせて、
10人でディズニーシーに行くほど仲良しである。

しかも、部活後には必ずと言っていいほど誰かしらと夜ご飯を食べに行く。

マックのスパイシーチキンセット。
サイドはポテト。
飲み物はスプライトで、氷なしのLサイズ。520円。安上がりなメニュー。

「部活後のご飯ほどおいしいものはないよね。っていうか、この時間こそ幸せ!」

こんな会話を私は今まで何回交わしたのだろう。
でもほんとに毎回思うのだ。

これはきっと、一緒に部活を頑張った仲間と
一つの机を挟んでご飯を食べているという
この状況がより一層、
ハンバーガーをおいしくさせ、幸せを感じさせてくれるのだ。

この時間がある限り私は頑張れる。

そう思ったのもこれで何回目だ?
まぁいいか。端っこのカリカリで塩のききすぎたポテトを頬張った。

同期の中でも。

アルティメットは前目と後ろ目と大きく二つのポジションに分けられる。
私は前目、別名ハンドラーである。
同期のハンドラーは、私を含めて4人いる。

1人は身体能力がずば抜けて高くて先輩との練習に入って頑張ってる。
その子の名前はゆいちゃん。
ゆいちゃんは笑顔がトレードマークですっごく明るい子。

あとの二人はスローがずば抜けてうまい。
繊細で誰よりも優しい子たち。
少し部活のことで悩んでるみたいだった。
きーたんは楽しいことが大好きで、こころは何だか儚い女の子。

私はこの4人でいる時間が好きだった。
みんな優しくて、落ち着くから。

特にきーたんとこころが辛い思いしてるのに頑張ってるのを見ると、
私も頑張らなきゃなって思ってた。
心の拠り所にしてたんだ。

私はというと、
先輩と練習する中でできたトラウマでコートに立つと、異常なまでに緊張してしまうようになった。
私の取り柄はどこにあるのだろうか。

アルティメットが大好きで、たくさん努力をしている矢先の出来事だった。

もう辞めようと思った。今しかない。
今辞めないともう辞められないだろう。
それでも辞められなかった。

同期が大好きだから。

裏切り。

新人戦の1週間前。
この時期、私は怪我をしてあまり練習に参加できずにもどかしい気持ちでいた。
早くトラウマを無くしたかったのに。

こころも同様に怪我をしていたため、コートサイドでみんなの練習を眺めていた。

トレーナーのヌーさんがこころに聞いた。
「なんでこんなに重い怪我してるのに、新人戦に出場することをこだわるの?来年もあるよ君たちには。」

しばらくしてこころは答えた。
「最後なんです。新人戦が。」

私はその言葉が何を示すのかすぐにはわからなかった。

「辞めるってこと、、?」やっとの思いで言えた。

「うん。私だけじゃなくて、きーたんも。」

もうやってられない。
ふざけるな。
なんでもっと早く言ってくれなかったんだ。
ショックだった。
私はこれからどうすれば良いんだ?
取り柄のない私だけが残される。惨めだ。

もうこれ以上何も聞けなかった。涙も鼻水も顔中ぐしゃぐしゃになるくらい泣いた。

私はその日の練習後、話を聞くためにこころときーたんとマックに行ったが、
ハンバーガーも塩のきいたポテトも全く味がしなかった。

大学2年の夏。

新人戦を終えて、こころときーたんは部活を辞めた。その後、私たちは2年になり後輩もできた。

私はこころときーたん両方を絶対に部活に戻す気でいた。

「最後まで同期で頑張ろう。戻るなら今しかない。」
たくさんたくさん話して、説得し続け、しつこい私の押しに負けて2人は戻ってきた。
それが夏の話。

そんな風に説得していた私だったが、
トラウマは治っておらずコートに立つと緊張のしすぎで過呼吸になることも増えた。

私はこの事実を誰にも話していなかった。

2人が戻ってきてすぐの試合。
1ターンに必要なハンドラーは3人。
私はほとんど試合に出れなかった。
実力主義とはこういうことだ。
きつい練習に参加していなかった2人は、スローが上手い。
きつい練習に参加しててもコートに立つと動けなくなる私を誰が試合に使う?

そりゃ使えない。
それでも辛いもんは辛い。世の中はこういうものなのかと、報われないのが常なのかと。
だから私は実力をつけるため、また努力をする。

1年生のお世話係。

同期は先輩の中に混じって先輩の引退試合の練習に励んでいた。もちろん、きーたんもこころも。

私だけ、1年生と一緒に練習していた。
練習してたというより、教えてた。
コートに立つと動けなる。
つまり、それ以外なら全然教えられる。

なんのために部活入ったんだっけ。
わからなくなる。
その度に、同期で勝ちたいから頑張ろう。
と自分を鼓舞していた。

夏合宿。
練習が始まる時、キャプテンが「上級生はいつものセットで分かれて、1年生は向こうで練習をお願いします。」と指示を出した。

セットにも入ってない、一年生でもない私は、どこに行けば良いのだろうか。

そんなこと考えるだけ無駄か。
自主的に1年生の方へ行くしかなかった。

私は後輩に私のようになってほしくなかったため、できるだけたくさんのことを教えた。
3泊4日。私は常に1年生と共に過ごした。

朝、昼、晩。どのご飯の味も覚えていない。
なんのためにこんなに辛い思いをしているのだろうか。答えなんて誰もわからない。
私にすらわからないのだから。

キャプテン。

私はキャプテンを憎んでいるわけではない。

キャプテンだって、私のことを気にかけてくれているのは知っていたし、辛い思いをしているとわかっていた。
でも一つだけ許せないことがある。

夏合宿後、部活に行こうとすると気持ち悪くなってしまい、初めて部活をサボった。
それだけ気持ちが落ちていた頃、違う日の練習で、キャプテンと話す機会があった。

その時、
「辛い思いさせてるのはわかってるけど、私も考えてやってることなの。だから私たちが引退するまで、あと2ヶ月だけ、我慢してほしい。」
と言われた。

1番言われたくなかった。
私がどれだけ我慢していたのか知っているのか?
2ヶ月がどれだけ大きな時間なのかわかっているのか?

つらかった。
私を思って言ってくれている言葉が、受け入れられなかったことが。

あみ。

あみは、私の妹のような存在で同期の中では1番仲が良い。
あみとは誰よりもご飯を一緒に食べて、誰よりもたくさんの話をしてきた。

「宵ちゃんが辞めるなら、あみもやめるから。」
そんな風に言ってくれたこともあった。冗談でもうれしかった。
私はしばらくの間、ずっと孤独だったから。

あと少し頑張れば、先輩は引退して、同期と一緒にプレーができる。新人戦予選が迫ってきていた。

この日は駅のスタバでフラペチーノを飲みながら、同期との未来の話をしていた。
どんな風に私たちの2年後の引退試合でメダルを取れるかどうか。

久々に頼んだキャラメルフラペチーノは最後まで甘ったるくて、コップの内側にはキャラメルがこれでもかというくらいこべりついていた。

どんな境遇でもあきらめの悪い私の様だった。

二回目の春休み。

新人戦予選。

先輩の引退試合の1週間後に新人戦予選が待っていた。
つまり私がみんなと練習できるのは、1週間だけ。なかなか緊張する。
ただでさえここまで誰よりも練習時間が少ないのだから。

でも、みんなとアルティメットができると思うとわくわくして部活に行く足取りも軽くなった。

新人戦予選で、私が唯一活躍できた試合があった。
監督やコーチに
「宵のおかげでこの試合は勝てた。よく頑張った。」
と口々に言ってもらえた。
あみも宵ちゃんすごいねって言ってくれた。

私は嬉しくて嬉しくて、1人こっそり嬉し泣きをしてた。
やっと報われた。これからみんなと練習できる。
みんなと試合に出れるんだ。
やっと部活後のご飯が、また美味しくなる。

しかし、そんな気持ちを抱くなと言われているかのように、
私は本戦出場を決める最後の試合の、最後のターンで胸骨を骨折した。


あー神様。私のことをどうしたいのですか。
どれだけ地獄を見れば良いのですか。
どうして、幸せのまま生きさせてくれないのですか。

こうして、私の新人戦予選は終わった。
本戦まであと4ヶ月。

私のコミュニティ。

私には幼なじみというか親友が3人いる。
最初に書いた福ちゃんやぴーちゃん、しおんだ。
親友たちとは2人でご飯に行ったり、カフェに行ったり定期的に会って近況報告をしている。

あとは大学。
いつも一緒にいる、のほほんとしたみきちゃん。
ヘンテコな男子3人組ともよく話す。
他にも何人か仲良くしてる友達がいる。

あとはそうだなぁ、お姉ちゃんともすごく仲が良いし、弟とはたまに近況報告してる。
犬のそらとも話してる(?)

今までお世話になった先生ともたまに連絡を取ったり、ご飯に行ったりする。

ざっとこんな感じのコミュニティがある。

ここで、私が伝えたいのは私の人生のコミュニティは部活の同期だけではないということ。

宵ちゃんの幸せ。

私は数々のコミュニティがあるが、どのコミュニティでも

「宵ちゃんが、幸せになってほしい。」

って口を揃えて言ってもらえる。
みんな私のことを考えて、言ってくれる。
「部活、辞めなよ。」
何回言われたんだろうな。

私が頑固で何を言っても、納得するまでやり続けるのを知ってるから、みんなそこまで強く言ってこない。
優しい友達がたくさんいる私は幸せ者だ。

「宵ちゃんは何で部活を続けてるの?」

なんでだっけ?

そういえば最近は、マックに行ってないな。
何がそんなにおいしかったんだっけ。

いちご味のアイス。

骨折が治ってすぐに1ヶ月のオフシーズンに入った。またまた、私はついてない。

オフが明け、一発目にごちゃ混ぜセットで出る試合があった。
もちろんごちゃ混ぜだから、私も入れる。
私は久しぶりにアルティメットができて嬉しかったし楽しかった。

その日の夜。
きーたんとこころと3人でアイスを食べていた。
みんないちごが好きなので、いちご味のアイス。
バニラアイスの周りにパリパリのいちご味チョコがコーティングされてて、
甘くてちょっとだけすっぱい。

おいしいおいしい。と食べている私の横で、きーたんとこころは美味しくなさそうな顔をしてた。

「どうしたの、?何かあった?」
はぁ、また嫌な予感がする。

「アルティメット、つらいんだ。」
ポロポロと涙を流しながら、話してくれた。

うん。そうだよな。ってもう驚きもしなかった。

そのあとは、何が辛くて、これからどうしていきたいのかを2人に質問し続けた。 

一通り聞いたあと、
「そんなに辛い思いをしてまで続けてほしくない。2人が幸せな選択をすればいい。」
そんな風に伝えた。

だって、私が部活に戻したからこんなに辛い思いをさせているのだ。ほんとに申し訳なく思っていた。

それでも、私は心の中で乾いた笑い声をあげていた。
もううんざりだ、と。

じゃあ、私は?私の幸せな選択は何?

モチベーション。

私にとってこの一年、数ある大会の中でまともに出れる大会は新人戦しかなかった。

だから、頑張るモチベーションは新人戦。
みんなと一緒に試合に出たい。
みんなと一緒にメダルを取りたい。
そんな思いで頑張っていた。
たくさんたくさん、練習の動画を見てダメなところを直そうとした。

そう、頑張っていた時。 
神様は再び、私に試練を与えた。

練習試合中にちょっとした事故があったのだ。
説明は難しいが、衝突しそうになって私は瞬時に避ける態勢を作った。
相手を守るために。
足首が変な方向のまま、地面に身体が打ち付けられた。

その瞬間、身体が全く動かなかった。
足首が痛すぎて声が出ない。
周りの声すら聞こえなかった。


おわった。

もう終わりだ。

レントゲンの写真、足首の骨が通常の位置から横に数ミリ、ズレていた。
よーく見なくてもわかった。重症だと。

全治1ヶ月。

新人戦本戦まで残り1ヶ月半しかなかった。


新人戦本戦。

やっとの思いでここまで来た。
誰もがお察しの通り、私はまだ諦めていなかった。怪我も3週間で動けるところまで治した。

同期が大好きで、同期とプレーするといつもの倍以上、アルティメットが楽しくなる。

そんな感覚を私は忘れられずにいた。

ここまで辛いことは山のように経験してきた。
そして、辛いことを乗り越えてきた事実がある。
どうしても、新人戦本戦で同期とプレーする楽しさを味わいたかった。
だから、頑張れた。私の原動力。

こころときーたんはこの大会で最後にするらしかった。
正直、理解なんてできなかった。
アルティメットがみんなとできて、試合で活躍できているのに、同期との時間を捨てること。
また部活に戻ってくる可能性があることも。
でも、私の辛さを理解しろと言っても誰1人として、理解できないのだろう。
だから、受け入れるしかなかった。

そして、新人戦本戦は始まった。
アルティメットの大会は、全国規模のため泊まりで二日間を通して行われる。

1日目の1試合目。
私は試合に出るより、コートサイドに立っている時間の方が長かった。
あれ、おかしいな、出れると思ってたんだけど。

2試合目。
試合に出た記憶がない。
それぐらい一瞬の時間だけ、コートの中を走った。

私は2試合目、同期が戦っているのをコートサイドでぼーっと見ていた。
野鳥を眺めているかのように。

気が付くと私は泣いていた。自分でもコントロールできないくらいたくさんの涙が出た。

ああ、もう頑張れない。
こんなのあんまりだ。
ボロボロになる私を同期は、見て見ぬ振りをした。

1日目の終わり、同期のマネージャーのひよが私のところに来てくれた。
本当にいつも、ひよには助けてもらった。
1番辛い時に近くにいてくれるのは決まってひよだった気がする。
ひよには
「辞めないでほしい。宵ちゃんと最後まで一緒にいたい。」

そんな風に言ってくれたひよに私は、もう限界だと伝えた。
ここまで、これでもかと頑張ってきた部活をもう頑張れないと言うことを。 

私は、部活を辞める。

2日目。
もう覚えていない。

結果は5位だった。メダルは取れなかったが、優勝したチームに一敗しただけで、他の試合は全勝したということで輝かしい結果だ。

同期はみんな笑顔で、やり切ったと言う顔をしていた。
私だけだろうか。全く嬉しくないのは。
もう私にとってこの同期で集まるのも最後なのか、と私は漠然と考えていた。

帰り道。
あみにだけ、もう次の練習から来るつもりがないことと今までの感謝を伝えた。
あみは信じてない様子で、差し入れでもらったクッキーをおいしそうに食べていた。

母と食べた親子丼。

新人戦本戦の2日目。
私の母は忙しい仕事を休んで、応援に来てくれた。
初めて応援に来てもらえたのに、私はいいところどころか情けないところしか見せられなかった。

試合後、
「私、もう頑張れないや。」とだけ伝えた。

帰り道の東京駅で、夜ご飯を食べて帰ることにした。
私は食欲が出なくて、すぐにでも帰りたかった。
母はそれでも絶対に食べて帰ると言って聞かなかった。

人が多い東京駅で、空いてた地鶏のお店に入った。
親子丼がおすすめにあったので適当にそれを頼んだ。

母はなにも話さない私に、
「宵ちゃんはもうやるだけやったよ。辞めていいんだよ。そんな辛い思いする必要ないんだよ、もう大人なんだから。」
と言ってくれた。

私は、その言葉だけで肩の荷が降りた気がした。
ぐっと喉が苦しくなる、目頭は熱い。

親子丼が目の前に置かれ、蓋を開けると温かい湯気と共にほんのりと醤油タレの匂いが広がり、一気にお腹が空いた。
その日食べた親子丼は、何だか温かくて、懐かしくて、身体に、いや心に沁みた。
私はこの親子丼の味を今でもたまに思い出す。

新人戦が終わり、1週間。

私は新人戦本戦が終わってすぐに、監督のアキさんに部活を辞めたいという趣旨の連絡をした。
もう、練習に参加するつもりがないと。

しかし、次の週の練習に絶対に来て欲しいと連絡が来た。
私は行かないと何度も言ったが、しつこいので最後だと思って行くことにした。

ほんとは同期に、もう会うつもりがなかったので、絶対に行きたくなかった。

はぁ、いつになったら私は幸せを掴めるのだろうか。

渋々、練習場所へ足を運ぶとアキさんに呼ばれた。
アキさんは、宵が何が辛いのか大体わかっているつもりだけど、宵の口から教えて欲しいと言ってきた。
私は今まで辛かったことを全て話した。

「宵が今までたくさんの壁にぶつかって、そのたびに乗り越えきたのを知ってる。
どんなにつらくても休まなかったのを知ってる。頑張りたくても、コートに立つといつもしないミスをしてしまうくらい緊張しちゃうのもわかってる。けがもしたね。
もう、解放してあげたい。そう思ってる。」

私は、やっと終わらせられるんだ。とアキさんの話を聞いてて思った。

しかし、まだアキさんの言葉は続いた。

「でもね、宵は、宵だからこそ、もうひと頑張りできると思うんだ。
宵が報われないまま終わるんじゃなくて、ちゃんと頑張った、やりきった、って思ってほしい。
だから、俺たち監督陣に宵の3か月をくれないか?」

「は?」
何を言っているんだこのおじさん。(アキさんごめんなさい)
絶対に嫌だ。
もうやめさせてくれ。

3か月をくれというのは、
私のスローの数を増やすことと、
私に足りていない身体能力を高めるメニューを今の練習にプラスαでやっていくというものだった。

私は、「やりません。」言い切った。
アキさんは、「大丈夫、できるから。」こっちも言い切った。

全く通じていない。

こうして私の、きつすぎる3か月が始まる。
やってみよう。と思ってしまったのは、拒否権がなかったのが一つの理由。
あとは、独りで頑張らなくていいんだと、諦めの悪い私が期待してしまったから。

私の幸せ。

このメニューが始まって3週間。
私は、毎日のようにアルティメットについて考えなければならない日々を過ごしている。

新人戦を終えて、私のモチベーションは一度ゼロになっている。
ゼロに何をかけてもゼロのように、まだ部活から離れたいと思っている。
あの時の温度感でだ。

この話も、誰にも言えてない。

しかし、監督陣の期待に応えたいという気持ちはある。
だから、言われたことを律義にもやり続けている。
今のところ、コートに立つと動けなくなるのは健在である。
そして、そんな自分が大嫌いで、
モチベーションもない私は、部活に行くのが無意識のうちにストレスになっているようだ。

そう、ここで冒頭につながるのである。

私は、部活の日になると起きれなくなる。
あと2か月。
このメニューは続く。

私は、生きていて後悔することはほとんどない。
しかし、この部活に入ったこと。
同期に期待しすぎてしまったこと。
諦めが悪すぎること。
すべてに後悔してしまいそうである。

今、みんなと食べるご飯を、おいしいと言えない私がいる。

2か月後、私は笑っているのだろうか。
このままだと2か月後、私は部活を辞めてしまうだろう。

あー、私の幸せはどこにあるのだろう。

この文章を打ち込みながら、私の頬を涙がつたる。

春キ宵



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