電流戦争と編集戦争で韻が踏める【エジソンズ・ゲーム】
お久しぶりです。宮本晴樹 a.k.a. 八朔です。
今日は映画『エジソンズ・ゲーム』の感想です。
原題のThe Current Warとは
そもそも原題の『The Current War』ってエジソンVSニコラ・テスラの電流戦争(お互いにウチの電流方式のほうが優れている!と世界初の電気のシェアを競っていた)のことでして。
たまたま去年くらいにNHK(Eテレだったかも)でニコラ・テスラ特集見てて、電流戦争もちょっと知ってたのですが「コレ、エジソンいいとこナシなお話なのでは?」と思ったら案の定エジソン氏が怒り妬み嫉みによって一人で負けていくストーリーでした。私は一度トップを飾った人間が負けていく物語というのはそれはそれで好きなのですが、本作はあんまり気持ちのいい負け方ではなかったですねえ。
感想(贔屓俳優メイン)
クライマックスでテスラとウェスティングハウスの華々しい未来への光がシカゴの街を包む時、エジソンの妬みによって一人の死刑囚が電気椅子で焼かれる、というとってもドラマチックな対比でしたね。
それでも「あなたと働く方が楽しいからです」とエジソンとご飯食べてるインサルくんがエジソン陣営の良心であり、癒し担当ですね。ぶっちゃけた話、この作品、誰にオススメしますか? と言われたら真っ先に「はい! トム・ホランドくんのファンたちにオススメします!」とクソデカ大声で宣誓しちゃうな。ミセス・ウェスティングハウスに「12歳かしら」と呟かれながらコンペに挑むインサルくん可愛いですよ。だいたいいつも大きな荷物を抱えさせられてるのとか、本当に制作陣はトム・ホランドの使い方をよくわかってらっしゃると思います。
ニコラス・ホルトのニコラ・テスラもよかったですね。ニコラス・ホルトは私はマッドマックス怒りのデスロードしか観たことないのですが、すごく顔が整っているのにどこかエキセントリックで孤独なキャラクターが似合う不思議なオーラの持ち主ですね。
そして「二人の間にあるものは?」「電線か?」「必要だと思う?」というウェスティングハウスとのやり取りでもしや……? と思って調べてたら……そうだったー! この人無線で電気送ろうとした人だったー! これもNHKで特集してたけどすっかり忘れてたー!
余談ですが、このニコラ・テスラの不遇で誰にも理解されない奇才の感じ、きっと10年前ならそれこそベネディクト・カンバーバッチが演じていたんじゃないかなと思います。もちろんエジソンという既に立場あるエネルギッシュな役柄も生まれ育ちの良さを窺わせる彼が演じるのは非常に説得力があります。
作中でエジソンはインサルくんに向かって「君にはヒューマニティがあるからな」と言うのだけど、それ自体が彼のヒューマニティなんだと思います。ベネディクト・カンバーバッチは本当にそういう役が得意ですよね。
それから、最後に紹介されるエジソンの偉大な功績の一つ、映画に続く道を開いたこと。私たちは彼の歩んだ道の先に立っている、というのが感じられてとってもよかったです。映画の歴史、学生の頃に勉強してたのですが結構忘れてるのでまた改めて触れてみようかなと思いました。
VSワインスタインの編集戦争、そして3年遅れの公開へ
作中でエジソンが何度もウェスティングハウスを陥れようと印象操作をする(その結果が電気椅子の爆誕)ストーリーをトレースするかのように、現実ではあのハーヴェイ・ワインスタインがめちゃくちゃ編集に口出してきていたという話らしいじゃないですか。まさに電流戦争ならぬ編集戦争。っていうかワインスタイン氏セクハラだけじゃなかったんすね。まあでも(ワインスタイン氏の真相はさておき)セクハラをやる人はパワハラもやるだろうしなあ、みたいな謎の納得感もあります。
結局ワインスタイン氏に言われるがままにアルフォンソ・ゴメス=レホン監督がぐぬぬとなりながら作ったワインスタイン版の後に、セクハラ告発騒動でダメになって権利問題など二転三転しながらなんとかゴメス=レホン監督がもう一回作り直したディレクターズカット版があって、今公開されてるのはディレクターズカット版なんですよね。その他にも制作総指揮にマーティン・スコセッシ氏の名前があったり我らがベネディクト・カンバーバッチも製作にも関わっていたりと、とにかくいろんな人たちが集まって協力してなんとか形に仕上げたのがディレクターズカット版、という感じがします。
そのディレクターズカット版ができるまでのハリウッドNo.1プロデューサーという権力・権威に振り回される製作者たちの物語の方がむしろ俄然気になってしまうんですが、ハリウッドはいつ「衝撃と感動の実話」をやってくれるんでしょうかね、楽しみにしておきます。