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年齢はただの記号?

 心屋マスターコース同期のMちゃんを恵比寿のクンビラでヒマラヤ鍋を食べないか誘った。彼女はその日は終日心屋初級セミナーを受講するということで、食事をするとなると夜8時近くになるという。わたしは開始時間を8時にし、同日の昼は暇だということもあったので、初級セミナーを受けることにした。彼女が受講するセミナー講師は満席だったので、別の人を申し込んだ。
  心屋マスターコースを卒業すると特典で、卒業一年間は初級セミナーと上級セミナーを各一回無料で受けることができる。
 初級セミナーでは、自分が自分に制限していることを見つけ、自分に許可をすることを行う。
  その初級セミナーのワークのひとつに互いの第一印象から、年齢、出身、家族構成、卒業、趣味などを決め付けて伝えるというものがあった。このワークが伝えたいことは、人は勝手にいろんなことを思っているということである。
 ワークを行った。ちなみに、わたしの年齢三十一歳である。夜には恵比寿のウェスティンホテルでジャズを聴く予定だったので、上品な格好をしていた。白いVネックのブラウス、花柄のエーラインスカート、白いバッグ、シルバーのパンプス、髪はバレッタでまとめ髪をしていた。
  ワークは人を替えて二回行われた。女子大生からは三十四歳と言われ、同じ歳の女からは三十九歳と言われた。
  とてつもなくショックだった。わたしは身なりに気を使っている。それなのに、なぜ年齢が上に見られたのか、わからない。わたしは食い下がった。
 「ねぇねぇ、ちょ、ごめん。わたしが実年齢より上に見える理由って、何?肌荒れてる?髪傷んでる?ねぇ、後学のために教えて!」
  わたしは早口でワークをともにした彼女たちに尋ねた。
「うーうん。見た目じゃないよー。しっかりしているからさー」
「うんうん。落ち着いてるー。悪い意味じゃないよー」
  悪い意味で三十九歳ではない?落ち着いてる?しっかりしてる?なんだそれはぁぁぁあ!!!
  わたしは混乱した。初級セミナーが終わった後も混乱していた。Mちゃんと食事をしていても、
「ねぇ、わたしって年齢老けて見える?」
 と尋ねた。
「うーん。わたしはもうはるちゃんの年齢知ってるから、なんとも言えないなー。服だって似合ってるよ」
  その夜、わたしは納得のいく答えを得ることができずに夜がふけていった。
   翌日、わたしはひとつの結論を出した。きれいになるために、やれること全部やろう!思い立ったが吉日。わたしはすさまじい勢いで行動にうつした。
 まずはまつエクをした。手塚治虫先生の漫画からはじまり各種漫画における女性と男性の描き分けはまつ毛の長さだ。手塚先生の『バンパイア』でロック・ホームが女装するときの様を思い出してほしい。まつ毛がばっさばさである。まつ毛が長いことは女性の象徴だ。わたしもまつエクして女になる。
  さらに、いつもお世話になっている自由ヶ丘の美容院に行った。「助けてください。三十九歳と言われました」と助けを求めた。プロフェッショナルの美容師は力強く「お任せください」と言い、はさみを入れてもらった。
  さらにさらに、ファンデーションを買うことにした。第一子を妊娠した際、つわりがひどく、化粧をする気力を失ったわたしはノーファンデ主義になっていた。しかし、もしかしたら毛穴が目立つから、三十九歳と言われたのかもしれない。すぐさま伊勢丹新宿店に走った。はるかは走った。毛穴レスの肌が待っている。   ETOVOSのファンデーションを買った。
 まだわたしの躍進は続いた。ボディーラインがピタッと出て膝上のワンピースを買うことにした。MICHEL KORSの今季のものだ。二十代の女の子が着るデザインだが、三十一歳が着て悪いものだろうか、いや、悪いものではない(反語)。
 三十九歳と言われてから、三日でやれることは全部やった。やり切った際に、ふと冷静になってみた。はたしてわたしは何歳と言われたら、喜ぶのだろうか。今回のケースと逆に、実年齢より若く言われたら、どうだろうか。まさかの嬉しくない。身なりが悪かったかしら?と落ち込んだだろう。では、ピタリと実年齢で言われたら、どうだろうか。嬉しくない。年相応なのね。特別なわたしじゃないのね、などと拗ねただろう。結局、わたしへの年齢あてゲームは正解がない。「年齢はただの記号だ」と夏木マリさんは言っていた。しかし、わたしの場合は、年齢に美醜の意味をおいてしまったがために、怒り、右往左往したのである。年齢をただの記号だととらえることができれば、穏やかな日々が過ごせそうだ。ただ、怒ったからこそ、すさまじい行動力を発揮することができた。うっすらと心の奥底でやりたいと思いながら、やっていなかった、まつエクやミニスカワンピース。それらをすることができたので、とても心が満たされた。振り返れば、わたしを三十九歳と言った女に感謝である。彼女がわたしの地雷を踏まなければ、心の底に眠る「きれいになりたい」という願望に気づくことはなかっただろう。怒りは行動の源になる。


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