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トラブルシューティング
【三菱電機】
「攻撃されると復讐が合理的か否かに関わらず
徹底的に刺してしまうんだけど
これは異常なのかまあそうなのか」
自分を正当化する数々のツイートを吐きながら、彼女は自分が辛いと思っていることに気づいた。理屈をこねて感情に目を向けないようにしていただけなのだ。
はぁ。
恋人に言われた無神経な一言を注意(というか尋問)したら怖くて話せないと言われてしまったのだ
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送信取り消し内容は話すのが怖い、である。
どうやら尋問が効きすぎたようだ。彼女は口が達者である。それがゆえに、傷つけようと思えばいくらでも拳で殴ることなんかよりも何倍もグサグサと刺してしまうことが出来てしまっていた。今回は気をつけたつもりだったが、普段非常に穏やかであるが故に尚更怖さが増してしまうらしい。
しかしそれにしても彼の発言は許しがたかった。尋問の際、「意図的でない無神経な発言なら仕方ない」などと述べたが意図的な可能性が大きい。彼女は性格は良いとよく言われているのだが、将来性に関しては酷かった。大学の授業に怖くて出れず、休学をしたものの復学の見込みはなかった。一応今日精神科に行って(しかもとても良い)回復の見込みがなくはなかったが、それでもまだ怪しい。彼は彼女のそんなところを疎んでいたし忌み嫌っていたとも言える。なぜなら忌み嫌っていると受け取れるような言動を何度もされたからだ。それに耐えられず、そして何も言わずに耐えることは良くないなとなるべく感情を抑えながら発言したのだったが、その努力さえも無駄だったようだ。
彼女とその恋人はこういったことを何度も繰り返している。原因はいつも美香の将来性のなさを責める恋人とその態度に堪忍袋の緒が切れた美香の分裂だった。彼女は何度も恋人に「将来どうするの?」と聞かれるのを何よりも疎んでいた。彼女は彼女なりに頑張っているつもりだったのだ。成果が出なければ意味が無い世界は知っていたが、それを彼女と彼の関係に持ち込んで欲しくなかったのだ。それに、彼女が決して頑張ってないように見えたとしてそれを攻撃していいという権利は誰にもない。攻撃は許されない。彼女はそう考えていたため、彼を許すことも難しかった。彼女は女性にしては珍しく早期結婚願望がなかった。両親の影響なのか夫婦が幸せだという幻想も家族が幸せという幻想もとっくの昔に打ち捨てていたため、永遠を誓う結婚などという世俗的な体裁のために自由を奪われるのは好まなかったのである。それに彼女は元々一人の時間を非常に好んでいた。願わくば、一生誰とも結婚せずに、とても素敵な人と出会ったら関係は維持したいしそばにはいたいけれども、それには結婚という形式的な契約は不必要と考えたのである。形式的なものほど形骸化していくという知恵は親を見て学んだ。契約というものの重さが言わんとするところは、離婚したくても一方の同意が得られないが故に苦労していた、彼女の両親の一方を見て学んだ。人は変わるのだから誰にも運命は預けてはならぬ。
そういった経緯のため、彼女は結婚を想定して未来を強制してくる恋人に正直うんざりしていた。しかしそれでも役に立ちたいという思いが強く、もしかしたら助けてあげている自分に酔っていたのかもしれないが、恋人の役に立ちたいと思って恐ろしいほどの出不精であるのにほぼ全てのデートの誘いは受け、恐ろしい面倒臭がりなのにメイクをし、寒くても安心感が欲しいとねだる恋人のために鋼のメンタルを心の奥底から引っ張り出して他人から受ける羞恥の目を避けつつ膝枕を外でやってあげていた。くだらない。
こんなにもやってあげたのに!
彼女の心にはそんな惨めな思いが込み上げてきた。もしかしたら見返りを求めていてしまったのかもしれない。苦々しい思いでその予想を握りつぶしかけた。まさか!そんなばかな!この賢い私が他人に見返りを求めるなんて!しかしそうとしか思えなかった。見返り?見返りは要らなかった。彼女は修正を入れた。せめて攻撃されたくなかった。もしかしたらありがたみが失われていたのかもしれない。マンネリ化というか。ありがたさを感じてもらう必要があったのか。数回の誘いは断るとか。彼女は自責思考に転じた。しかしそれは不可能だ。断るのは無理だ。自分の負担になることよりも彼が心配である。彼は精神に余裕がなく、弱い。彼女は彼には死んで欲しくなかった。手伝いたかった。思いついた解決策はすぐに水泡に帰した。つまり彼のために身を粉にしていたわけではないのだ。彼女は自分のために会いに行っていた。これは有効かもしれない。彼女は解決策を一筋見いだした。あとはアサーションの勉強不足である。