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『ほぼ命がけサメ図鑑』これが世界でただ一人、サメ専門ジャーナリスト・沼口麻子の生きざまだ! その② 

さて、その①では「シャークジャーナリスト」という仕事についてうかがいましたが、今回はサメそのもののおもしろさを中心に、沼口さんとお話を続けます。

シャークジャーナリスト・沼口麻子さん

サメには第六感がある!

塩田 :ご著書『ほぼ命がけサメ図鑑』を読んで、サメすごいって思ったところがいろいろあって。

そのひとつが「サメの第六感」と言われる、ロレンチーニ器官。人間にないからわからないんですが、どういうものなんでしょうか?

沼口 :そうですね、たとえば砂地の下にカニがいるとして、人間だったら気がつかないで通り過ぎちゃいますよね?

塩田 :そうですね。

沼口 :それが、サメの場合、ロレンチーニ器官で生物の出す微弱な電流を感知できるんです。つまり見えていなくても、その近くを泳いだだけで、そこにカニがいるなって感じ取ることができる。

塩田 :イルカのエコロケーション(※自分の発した音の反響によって相手の位置を知ることができる機能)などとはまた違う?

沼口 :はい、サメ自体は発してないです。向こうが発するものを、感じ取る。

塩田 :それで、方向までわかったりするんですか?

沼口 :ロレンチーニとか側線とかで地磁気を感じ取ったりできるって説もあるようです。

塩田 :確実じゃないのか。じゃあ、私にロレンチーニ器官がついていても、結局遅刻しかけた可能性はあるわけですね(笑)。

でも、不思議な器官ですよね。もし人間にそれがあったらどんな感じなんでしょうね?

沼口 :「見えないけど、いるーっ!」て、感じ?(笑)

塩田 :全然、わかんないです(笑)。

 

サメの赤ちゃんは子宮の中で共食いをする?

塩田 :もうひとつ、本を読んでびっくりしたのが、サメはよく胎生だって言われますけど、シロワニは母親のお腹の中で稚魚同士が共食いをするんですか?

シロワニ

沼口 :そこ、すごく細かいけどおもしろいところなんです! まず、「卵生(らんせい)」と「胎生(たいせい)」というのがあります。ふつうの魚のように卵を産むのが卵生で、サメのなかで3割くらい。そのままポンと赤ちゃんを産むのが胎生で、7割くらいといわれています。

卵生はわかりやすくて卵を産むわけですが、ただ「偶発胎生」というのもあって、何かのタイミングでお腹の中で赤ちゃんが卵から孵ってしまって「あれ、卵生のはずなのに今回は胎生?」ってこともありえます。

つまり、卵生と思われていたものが胎生になると「偶発胎生」とよばれるわけです。でもそれもじつは、いつも私たちが見ているのがたまたま卵生だっただけで、本来は胎生で「偶発卵生」を見てたのかもしれない(笑)。

塩田 :なるほど(笑)。

沼口 :一方で、胎生はより複雑です。基本的に排卵されて卵殻ができて子宮で発生するんですが、ただ、もともと卵殻をつくらない種もいます。お腹の中で赤ちゃんがどういうふうに大きくなるか、全部がわかってるわけじゃないんです。

胎生でも単純なものは卵生とほとんど一緒で、自然界で卵から出るか、子宮の中で卵から出るかだけの違いです。でもさらにそこからまた何パターンかに分かれます。そのひとつが、シロワニを含む「食卵タイプ」です。

たとえば卵が300グラムだとすると、生まれる時点で300グラムを超える子にはならない。母親としては自然界で生き残るのに有利なように、大きくして産みたい。それで、お腹の子のエサとして、卵を子宮内へ次々と排卵していくんですよ。

塩田 :えっ、じゃあ、最初に生まれた子が有利ってことですか?

沼口 :シロワニは、最初に生まれたのが大きくなります。ほかの子を食べちゃう。

塩田 :いっせいにお腹の中で孵った子どもたちが共食いをして、いちばん強いのが生き残る、というわけではなく?

沼口 :シロワニに関して言えば、排卵のタイミングがちょっとずつ違うので、やはり最初に発生したのがいちばん強いのではないでしょうか。

塩田 :1匹だけ生まれてくるわけですか?

沼口 :シロワニの場合は、1子宮1匹です。シロワニ以外の、たとえばホホジロザメだと、1子宮あたり2~10匹と言われています。

共食いが「発生したものを食べる」って定義であれば、お腹の中で共食いするのはシロワニだけ。でも、シロワニの子の共食いも妊娠初期だけです。はじめは子ども同士が食べあいますが、そのなかの1匹が大きくなると、あとは排卵された卵のままで食べてしまいますから。

シロワニと同じネズミザメ目のアオザメやホホジロザメは、はじめから最初の子のエサとして排卵するんですが、シロワニもそれに近い形になるわけです。

メジロザメの胎盤概念図(イラスト:寄藤文平)

塩田 :胎盤で母体と繋がってるタイプもいるんですよね?

沼口 :はい、胎盤型は卵黄の吸収が終わるころに、卵黄が胎盤に変化するらしいんです。

塩田 :卵黄が変化するんですか?

沼口 :ええ、子どもがいて、卵膜に包まれていて、卵黄がついている。その卵黄がほぼ吸収されたら、胸ビレと胸ビレの間から、卵膜を通って胎盤がにょきにょきと伸びて、子宮壁について、母親から栄養を吸収する。

塩田 :じゃあ胎盤タイプは、いわゆる共食い的なことは、お腹の中で起きていないと?

沼口 :いわゆる共食いをするのはほぼネズミザメ目で、胎盤形成タイプはメジロザメ目なんです。

謎の巨大古代ザメ

塩田 :なるほど、目(もく)で違うんですか。……サメにもいろんなタイプがいるようですが、絶滅してしまったサメもたくさんいるんでしょうか?

沼口 :種(しゅ)って大昔に爆発的に増えて、それが大絶滅して今に至っているので、多分いろんなサメがいたと思います。

塩田 :巨大な古代ザメとして人気のメガロドンなんかも、大絶滅期に滅んだ?

沼口 :メガロドンは、中新世あたりといわれているので2000万年前くらい。比較的、新しかったと思います。あと、メガロドンは歯の化石しか見つかっていないので、じつは全体像は不明です。

その歯の化石が巨大だったから「すごい巨大なサメがいたんじゃないか?」と想像しているだけで。もしかしたら、歯だけが巨大な、小ちゃいサメだったかもしれない(笑)。

メガロドンの歯の化石(中央)。他のサメの歯と比べると、その巨大さがわかる

塩田 : あはは、歯だけが他のサメの何倍もあって、体はすごいちっちゃい!?(「ハダケデカチビザメ」か……。あ、ちょっとハダカデバネズミっぽいな!)

沼口 :そうそう(笑)。化石で出てきたメガロドンの歯が18センチあって、それを現生種のホホジロザメに当てはめて計算したら、全長30~40メートルになるんです。

だから、みんなメガロドンには「謎の巨大な古代ザメ」というロマンを感じます。さらに「ホホジロザメみたいだったら、カッコいいな」って願望もあり。

塩田 :なるほど。

沼口 :ただ、最近の研究では、メガロドンはホホジロザメの直系ではないし、せいぜい16メートルとか、ジンベエザメくらいだったんじゃないかと言われはじめています。

塩田 :それでもじゅうぶん大きいけど、もとの半分以下ですね。

沼口 :ただ、メガロドンがホホジロザメの巨大な祖先だと想像したら、楽しいですけどね。「もしかしたら、まだどこかにいるかもしれない」って思ったりして。だからみんな、「巨大であれ!」と(笑)。

塩田 :想像と願望……ロマンですね(笑)。メガロドンの他にも、こんなのがいたんじゃないかって古代ザメには、どんなものが?

沼口 :いろいろいますけど、メガロドンの次に人気があるのは、ヘリコプリオン。それも多くは歯しか見つかっていなくて、その歯が渦巻いているんですよ。

塩田 :歯が渦巻いてる? カタツムリみたいな形になってるんですか?

沼口 :そう、もしかしたらイノシシの牙みたいに伸び続けてクルクルなったのかもしれないし、よくわかってないんですけど。「ヘリコプリオン」で検索すると、いろんな復元図が出てきます。でもそのクルクルが顎だったのか、背中にあったのか、わからない。

塩田 :つまり、歯だったかどうかもわからない?

沼口 :そうかもしれません。皮膚表面にある楯鱗(じゅんりん)も、歯と同じ成分ですし。

塩田 :もしかしたら、全身それに覆われてたかも……?

沼口 :ええ、ただ最近の研究では、ギンザメに似てたんじゃないかと言われています。

塩田 :わからないことで、かえって夢がありますね。


その③「サメは安全? サメはおいしい?」に続く。 

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