「ガチャ」が生死を左右する　＃書かずにはいられない生活保護①

2025年1月30日 19:22

この本を書いている最中、「役所ガチャ」という言葉を知った。
「親ガチャ」「国ガチャ」のように、自分では親を選べず、生まれる国も選べないことを、運次第の「ガチャ」（ソーシャルゲームやカプセルトイの販売機）にたとえた言葉の役所バージョンである。
（中略）
「最後のセーフティネット」なのに、A市に住んでいる人は助かり、B市に住んでいる人は追い返される。いわば、ある地区に住む人は適正利用という「アタリ」が引けて、ある地区の人は「水際作戦」という「ハズレ」を引いてしまうシステム。そんな当たり外れがあること自体が大問題なわけだが、もっとも問題なのは、このガチャに外れた場合、死に直結する可能性が高いということだ。

雨宮処凛『学校では教えてくれない生活保護』

「自分では選択できない所与の条件」を、「運命」ではなく「ガチャ」と言い換えたことで、私たちが手に入れたものが２つある。

ひとつは、「理不尽への怒りを表立って表明する正当性」だ。

誰もが、千差万別の環境を背負ってこの世に生を受ける。人はそれを「運命」と呼ぶが、そう呼びたくない人たちは、カプセルトイのような「くじ」とみなす。「運命」は本人の努力や周辺環境の変化、セレンディピティとの出会いによって変えることができるが、「くじ」の結果は変えられないからだ。「このおもちゃはほしくない。違うのがいい」。そう言って駄々をこねても、「景品」が交換されることはない。

「運命」が「ガチャ」になったことで、「生まれた環境」はリカバー不能なものとして認識されてしまった。だから「自分は最悪のガチャを引いた」と思った人は、怒りを世間に向けて表明する。受け入れ不能な理不尽さには、腹を立てるしかない。

ふたつめは、「理不尽の甘受」という名の自己防衛力が身についたことだ。

100年続く自分の人生の理不尽さを受け止めきれなければ、人生自体に必要以上の価値を置くのは不毛だ。どんなに重い出来事であったとしても、「何でもなかった」とスルーするしかない。いちいち問題を深刻に捉え、そのたびに深いダメージを負っていたら、心が萎えてしまう。

その点、「ガチャ」は「運命」と呼ぶよりはずっと軽い。辛くて果てしなく重く決して変えられない人生も、「ガチャ」と言い切ってしまえばそれ以上向き合う必要がない。大切なのは「ガチャ」に苦悩することではなく、何ごともなかったように振る舞い、とりあえず明日を生き抜くことだ。

だからせめて、
役所ガチャはなくしてほしいと思う。
個人は「運命」を「ガチャ」と言い換える程度の対処方法しか持ち得ないからだ。

住んでいる自治体によって、生死が左右される。
それはいかにも、苦しい社会だと思うからだ。