ハードとソフト、先端技術を掛け合わせて リスク計測テクノロジーズ x PLEN Roboticsインタビュー
音声解析技術と顔認証技術を掛け合わせて、顧客の課題解決へーそれぞれの強みとスタートアップの特性を生かして機動的に取り組みを開始したリスク計測テクノロジーズ社とPLEN Robotics社。業務提携締結から介護現場での実証実験、今後の展望についてお話を伺いました。
インタビュイー
リスク計測テクノロジーズ株式会社
CEO 岡崎 貫治氏
金融機関、信用リスクデータベース機関を経て、有限責任監査法人トーマツにてリスク管理・ガバナンス、データアナリティクス等の助言業務に従事。2019年リスク計測テクノロジーズ株式会社を創業。リスク管理に資する人の高頻度センシングを目指し、発話音声解析でモチベーションを可視化するMotivelを開発。また、金融庁在籍時はバーゼル3国内実施、バーゼル銀行監督委員会のリスク計測に関する部会メンバーを担当。
PLEN Robotics株式会社
COO 富田 敦彦氏
バークレイズ証券や野村證券他、国内外の金融機関投資銀行部門で、新規ビジネスの立ち上げ、リスク/リターン分析に基づく金融商品開発及びデリバティブス、証券化商品などのトレーディングに従事。2017年にPLEN Robotics株式会社を共同創業。取締役COOとしてアライアンス、セールス&マーケティング、ビジネス・デベロップメントを担当。
PLEN Robotics株式会社
隅田 夕希乃氏
2019年インターンとしてPLEN Roboticsに入社。2020年より正社員として法人営業、ビジネスディベロップメントに加え、広告や動画などのデジタルコンテンツの制作、実証実験企画/運営、さらにロボットUI/UXのテスト/改善などの業務を担当。Plug and Play Japan Smart Cities Batch1(第一期)アクセラレータープログラムへ参加しピッチや会社窓口を担当。
ピッチイベントから得たつながりを活かして
ーーまずは、協業の背景についてお聞かせください。
隅田氏:Plug and Play Japanのプログラム内イベント「Startup4Startup」*に視聴者として参加した際に、リスク計測テクノロジーズの岡崎さんが登壇されていて、初めて活動を知りました。イベントのネットワーキングの時間にお話できたので、当社の製品『PLEN Cube(プレーンキューブ)』についてもご説明して、翌日、初回の打ち合わせを実施しました。その翌週、当社のエンジニアとも協議して、技術的な連携が可能と判断できたためすぐにNDAを結び、協業に向けて動きはじめました。
富田氏:リスク計測テクノロジーズさんはソフトウェアサービスをお持ちですが、サービスを搭載してユーザーとの接点をつくることができるデバイスを探されていました。我々はハードウェアがあり、既存機能にアドオンできるサービスを求めていたので非常に分かりやすい形で業務提携に至ることができたと思います。
*Startup 4 Startupとは:「スタートアップのためのスタートアップ」というコンセプトのもと、Plug and Play Japan採択スタートアップが、同時期にプログラムへ参加したスタートアップやプログラム卒業生に向けて事業アイデアやソリューションの提案をおこなうことができるプログラム参加企業限定のピッチイベント。ネットワーキングで連絡先を交換したり、各企業への関心度を共有することができる。
ーー連携技術の提供先はすぐに見つかりましたか?
岡崎氏:横浜市にある通所介護施設(デイサービス)を運営する株式会社PRESENCE(以下、「PRESENCE社」)と実証実験をおこなうことができました。PRESENCE社は介護業界における諸課題を感じておられ、横浜市主催のアクセラレーションプログラムに参加されるなど介護業界を盛り上げるための取り組みに積極的な企業でしたので、新しいテクノロジーを取り入れて介護業務を効率化したり、利用者様に楽しんでもらったりする施策にはすぐに関心を持っていただけました。PRESENCE社と当社の出会いも、デモデイでしたね。
PRESENCE社にはこの取り組みの前から、当社のアプリケーション『Motivel(モチベル)』を一年以上にわたって利用していただいた経緯がありましたので、PLEN Robotic社のPLEN CubeにMotivelの機能を搭載するという提案をしたところ、高齢者の認知状態の把握や改善に役立てられるデータが得られそうということで試験的な導入が決定しました。
認知状態を把握するために監視カメラを導入するということは理想的ではなく、高齢者の方がもう少し主体的にかつ楽しみながら利用できる玩具のようなものから行動検知ができるといいなと考えていました。
介護現場での実証実験
ーー実証実験の内容や結果についてお聞かせください。
岡崎氏:PLEN Cubeを通して、音声をきちんと聞き取り精神状態を解析できるかどうか、約2ヶ月間で50名以上の方のデータを取ることができました。結果として、技術的に可能であるという結果を得ることができました。また、タブレットに話しかけてもらうことに比べて人形やロボットのように話しかけやすい機体があることでユーザーの関心を引くことができることがよくわかりました。当社は以前から技術を搭載できるものがあるといいなと思っていたので、このような機会をいただけて非常にありがたかったです。また、PLEN Robotics社の顔認証技術ではスマホで撮影した写真でユーザー登録ができたので、その場で写真が撮りづらい高齢者の方にとっても非常に効率的に実証実験を進めることができました。
富田氏:実証実験で検証すべきことは大きく2つあります。1つは予定していた性能が発揮できるかどうか。もう1つはそれが対象者にとって使いやすいものであるかどうかということですね。
性能については、ちゃんと使えば正しい答えが出るというレベルにあることは検証できましたが、介護施設で使ってもらう上でもっと考えなければいけないことがたくさんあるという気付きが得られました。
例えば、PLEN Cubeで案内をする声が高音域に設定されているのですが、高齢者の方には少し聞き取りづらい傾向にあるので声のトーンを低くした方がいいということがわかりました。PLEN Roboticの設置場所についても気を配らなければ、センサーに反応する設定距離まで近づいてもらうために腰をかがめる負担がかかってしまうことなど、これまで使ってもらってきたユーザーの方々にはなかった、介護施設ならではのニーズを理解することができてよかったです。
隅田氏:ご高齢の声を聞き取りづらい方は、ロボットが話しても聞き取りができてない場合もあるので、ロボットだけではなく一緒にタブレットを用意した方がいい場合など、広い観点で必要なサービスについて考えることができました。
ーー実証実験を経て得られた気付きや課題についてお聞かせください。
隅田氏:新たな実証実験を進めています。PRESENCE社との取り組みに加えて、2つ目の取り組みとして、奈良県三宅町の町営複合施設で実証実験を開始しました。3つ目の取り組みとして、9月に東京都八王子市の調剤薬局に併設の通いの場で実証実験を開始したところです。こちらの通いの場では高齢者が集まり体操をされているのですが、顔認証でユーザー登録をしたうえで参加者の健康状態を計測させていただき、そのコミュニティでの技術検証や使い勝手を確認しています。神奈川県鎌倉市の病院での実証実験も11月開始を控えており、現在準備中です。
富田氏:我々のサービスでこれから乗り越えていかなければいけない課題として、施設運営者としてのユーザーと、施設利用者としてのユーザーという2段階のユーザーへのアプローチが挙げられます。実際に『PLEN Cube モチベーション管理版』を利用する人にとっても、管理者にとっても使いやすいものにしなければならないので、両方の課題や期待に応えていく必要があります。
岡崎氏:システムを担当する管理者にとっては、とにかく起動してすぐに使えるものが一番求められているように思います。今はコロナの影響で施設での人員配置にも余裕がないなかで、新しい機能やサービスを導入する手間がかかってしまうと非効率ですよね。管理者ユーザーにとってはパソコンやスマートフォンの基本動作と同じような感覚で操作していただけるようになっていて、導入の手間が省けるよう工夫しています。省スペースなのも歓迎されています。
スタートアップ同士ならではのスピード感
ーースタートアップ同士での協業における印象はいかがですか?
隅田氏:
とにかくスピードが早かったと思います。4〜5ヶ月程で共同開発から実証実験に至ることができました。大手企業の場合、NDA締結までに同等の期間がかかってしまうこともあるので、圧倒的なスピード感がありましたね。
富田氏:Motivelを当社のPLEN Cubeに搭載した上で性能が発揮できるかどうか、社内の開発者で数百回くらい音声データを取りました。数分間話し続けなければいけない場合大変だと思いますが、Motivelでは、「好きな食べ物は?」というような簡単な質問に一言、二言程度回答するだけで数秒単位で計測データが取れるので、素晴らしい技術だと感じました。
岡崎氏:PLEN Cubeは目についた方の関心を寄せやすく、反響が大きいと感じています。連携することでお互いに企業の認知度向上にも繋げられるように思いますし、これからも取り組みを続けていきたいです。
富田氏:お互いスタートアップだと、良い意味でも悪い意味でも来年はどうなっているかわからないという意識が強いので早く動ける強みは大きいです。当社は大阪に本社があり、リスク計測テクノロジーズ社は神奈川や関東方面でのプレゼンスが高いので、地理的な意味でもお互いに補完しあえるという相性がよかったと感じています。
高齢者にとっても、誰にとっても気軽に利用できるサービスを目指して
ーー今後の展望についてお聞かせください。
富田氏:今後はより多くのユーザーデータを多く獲得できるような実証実験をしていきたいと考えていて、いくつかの自治体との取り組みも準備中です。音声認識の課題は、明るい声を演じることで機械を騙せてしまう点にありますが、Motivelの強みは医療系開発者のデータベースエンジンにあり、声帯の震えを検知してくれるところです。課題感が伝わりやすい介護業界のニーズに応えつつ、汎用性の高いプロダクトとしてさまざまな現場で利用してもらえるようビジネスモデルもブラッシュアップしていきたいです。
岡崎氏:先ずは、発話音声解析の基礎技術に磨きを掛けたいと考えています。その先の用途開発において、将来的には医学的に認知症を判定できる、医療機器として開発を進めることもあるかもしれません。フレイル予防の観点で指摘されていますが、精神的に元気のない方(活動意欲の低い方)は認知機能が低下する傾向にあるとされているため、開発するプロダクトが認知機能低下のスクリーニング機能として活用できるのではないかと思います。介護業界で実績を積み上げることで、「高齢者の方が気軽に使えるプロダクト」=「誰にでも簡単に使えるもの」という印象を持ってもらえるようにしていきたいです。
ーー岡崎さん、富田さん、隅田さん、ありがとうございました!
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