一章/9話 商都ライネリー
「ねね、正体って?一体その人は何者なの?ねえねえ、お~い。ねえってば!」
う、うるさい。こうなるなら言わなければ良かったかな…いやべつに言ってもいいんだけどね?ただ説明がめんどいというかなんというか…っていうかそもそも絶対信じてくれないだろうし……
「皆さん、そろそろ街に到着致します」
「わ!ほんとだ!もう見えてきましたね!」
あ、ボルジアさんの発言のおかげで何とかなった。ふう、ありがとう、ボルジアさん。
窓を見ると、坂の下に大きな街見えた。その向こうには日の光を反射してがキラキラ輝く港が見える。
「あ、海…」
「サクラさんは海を見るのは初めてですか?」
わ、ローズさんが急に質問してきた!
「え、えっとあの、はい、初めて見ました、です」
「あはは!サクラくんめっちゃ緊張してる~ってかいつも通りか~」
うう、否定できない。
それからすぐに、馬車は街の中心部に位置する大きな屋敷の前で止まった。
「それでは、私はここで。ボルジア、お二人に街の案内をお願いしますね」
え、案内?別にそこまでしてもらわなくても…
「大丈夫です!ぼるじあさんも忙しいでしょうし、私たちは自分で何とかしますよ」
ラメもそう思うみたい…あれ、ボルジアさんが凄く暗い顔してる?
「いえ、その、私最近お嬢様の仕事を邪魔してしまい、ちょっと…」
ああ、なんか…そっか。
「えっと、じゃあやっぱりお願いします」
ラメもちょっと空気を読んだみたい。
さすが商都ライネリー、大通りに出ると、大きな武器のお店や少し小さめな魔法の杖や本、道具を取り扱う専門店(ラメは目を輝かせていたが、僕には全くわからないものばかりだった)、それらの間のほんの少しの空間に配置されている露店、とにかくたくさんの、幅広い種類のお店が立ち並んでいる。
そんな街中をラメ、ボルジアさん、それと僕の三人で歩いている。そう、歩いているのだ。いや、ついさっきまで馬車に乗ってたわけだし、その馬車を運転してくれてた運転手のボルジアさんもいるんだから馬車に乗せてもらえばいいじゃん!…って思う?僕は思う。でも何でこんなことになってるのかというと、
「せっかく大きな街に来たんだよ?なら自分の脚で歩いてこそだよ!」
と、隣にいるとんがり帽子のやつが言ったせいで、徒歩での移動になった。
いや、別にそんなに歩くのがいやなわけではないけど、なんにせよ、朝から歩きっぱなしだし――あ、馬車に乗ってたからそれは違うか――人が多いから、そう、人が多いから!とにかく馬車のほうが目的地にも早く着くし…思えば徒歩の良いとこなんて無くない?
「わかってないな~サクラくんは。歩きなら、馬車じゃあ通れない細い路地とかに行けるでしょ?それから、この街は至る所にお店があるから歩きながら気になるものが見つかるかもしれないでしょ?」
なるほど、確かにそうかもしれないけどさ、ずっと歩いてて疲れるし人が多いし…
「わぁ!見て見てサクラくん!この帽子かっこよくない!?」
はなしきいて。
「それなに?」
ラメが、いかにも”魔法使い”って感じのする、今被ってるのと同じ形のとんがり帽子を持ったラメに聞いてみる。よく見ると、直径4センチくらいの濃い赤色(臙脂色?)の宝石みたいなものがはめ込んである。
「ここのお店で見つけたの!綺麗な宝石が付いてるの!」
「見ればわかるよ。で?それ買うの?今被ってる帽子もかわいくていいと思うけど」
ラメが今被ってるのは、普通の(普通といっても”魔法使い”っぽい)紫色のとんがり帽子に、左右で大きさの違う赤紫色のボタンを、不器用に縫い付けて目…?のようにし、糸で口…?みたいなものを描いて、なんかやる気のなさそうな顔をしている帽子。まあ確かにこっちの宝石が付いてるほうがかっこいい…のかな?今被ってるほうも不格好といえばそうかもしれないけど、芸術的といえばそうも見える。
「むう、やる気のなさそうな顔って言ったな!サクラくんのほうがよっぽどやる気なさそうだよ!それに不格好だとか芸術的だとか、褒めてんのか貶してんのかわかんないこと言うのやめい!」
「あーはいはい、わかりましたよ。てか別に文句を言う気はないよ。それで、買うの?その帽子」
「いや~なんかピンと来たし!買っちゃおうかな!?すみません、これいくらですか~?」
帽子をもって、ラメはお店の奥へと歩いて行った。