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433.人生初の職質を受けたお話

初めての経験だった。

職質。
受けたことがある方もいるかもしれない。
そんなに珍しいことでもないかもしれないけれど、僕にとっては初めてのことだった。

信号待ちの時に声をかけられたところから始まる。

「お兄さんちょっといいですか?」

二人組の警察官が近づいてきた。
六本木の交差点でのこと。

「ライト付いてるかな?」

どうやら、付いていると思っていた自転車のライトが電池切れだったようだった。
無灯火は危険なので、すみませんすぐ替えますと返事して終わりかと思いきや、警察官はまだ立ち去らない。

「念のため荷物も確認させてもらっていいですか?」

何の念のためかわからなかったが、全然いいですよと返答。

その時の僕は、黒い上着を着ていて全身真っ黒、カバンも黒、自転車も黒、しかもライトが付いてない、場所は六本木。

確かに一声かけたくなるのも無理はないかもしれない、と思った。

結局は印象の世界だ。
そんな怖い顔をしている自覚はないが、黒っぽい人には言う通り"念のため"何かを確認しておく必要を感じるのかもしれない。

しかし荷物まで確認されるのは初めてだった。

交差点の信号待ちのポジションで、荷物確認をされるのはどこか恥ずかしかったけれど、何一つやましいことのない僕は爽やかに応じる。

「すみませんねお時間取って。いろいろ怪しいもの持っている人もいるもんで」

六本木周辺の実体は知らないが、そういう人もいるのだろう。

財布も見ていいですか?
こっちのファスナーも開けていいですか?

立て続けの質問に、僕は努めて爽やかに応じる。

「これは何ですか?」

警察官が僕のカバンから取り出したのは、サプリケースだった。

健康に気を遣っている僕は、複数のサプリを常備して摂っている。

「サプリケースです」
「開けていいですか?」
「どうぞ」
「……これ全部サプリですか?」
「はい」
「何のサプリですか?」
「え? ビタミンとか、オイル系とか……」

警察官にサプリのプレゼンをするのも滑稽だなと思ったが、そうでしかないのでそう答える。

「お仕事は何を?」
「普段IT系で仕事を」
「お仕事帰りですか?」
「いやこれからバーのバイトに」
「IT系で仕事しながらバーでバイト?」
「はい」

怪訝そうな顔をされた。

警察官はパラレルワークという働き方は知らないかもしれなかった。

そんなこと言い出すと、IT系の仕事をしながらごくたまにバーでバイトをして、店舗やサービスのブランディングに携わり、営業代行をすることもあり、SEO対策でブログを複数運用し、小説を書いている。

もっとも警察は副業禁止の世界だろうし、仕方ないのかもしれない。

ITの仕事をしながらバーでバイトしている人は、不自然なのだろうか?

そして、4種類もサプリを摂っていることは不自然なのだろうか?

そうかもしれない。

仮にもブランディングを仕事にする者である。
そういう感覚は常に擦り合わせないといけない。

最後に身体確認で全身をチェックされて、ご協力ありがとうございました、ライトは早めに替えてくださいねと言われて、ようやく僕は信号を渡ることができた。

信号待ちのポジショニングで全身を警察に触られるのも恥ずかしかったが、僕は最後まで努めて爽やかだった。

これは書けるネタが増えてよかったと喜んだまでである。

しかし、服装や印象には想像以上に気を遣う必要があるとも感じた。
白い人より黒い人の方が怪しいらしい。
まあ、人間そんなものである。
きっと僕も、他の場面だとそう思う。

そして、自分が何者なのかを改めて発信し続けることの大切さも感じた。

僕はどうやら、多数派の生き方ではないらしい。
わかっていたけれど、再認識。

貴重な体験だった。

サプリを怪しい薬じゃないかと疑う警察官に、これはビタミンで、オイルで、と説明することは多分、今後なかなか経験できないことかもしれない。

人生ネタづくり。

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