第十章:小人村は大騒ぎ!?11 樫の木庵のマボ-大賢者ニルバーニアと双頭の魔女-(連続小説/児童文学)
多くの大人たちはマボの周りにわっと集まり取り囲むと、早くも胴上げを始めたのです。それから、再び歌い踊り始めたものですから、もう収容もつきそうにありませんでした。しかし、長老が何とかなだめ、小人たちはついに家々に帰って行ったのでした。
マボはチャッピにつれられ、彼の家で一晩過ごすことになったのです。
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チャッピの家は川原広場のすぐそばにありました。お父さんとお母さん、弟の4人暮らしです。
夜も更けたとあって、マボはすぐに屋根裏部屋に通されました。そこはお客さん用のベットが置かれた客室でもありました。ベットは小人用ですが、マボの体がすっぽり入るサイズでした。
マボはすっかり心も身体もへとへとになり、すぐに横になりました。というのも明日はトロルとの約束の日ということで、早朝には小人村をたたなくてはならないのです。どこかしらにいるというトロル兄弟の捧げものになるはずのミィにかわり、マボが向かわなくてはなりません。なぜなら、小人たちはみな、マボが天下無双の妖精の騎士とばかり思っているのです。マボは屋根裏にある小さな丸窓からぼんやりと外を眺めました。
真ん丸に近いお月様の淡い光が、この時ばかりは頼りなく感じました。明日は満月でしょう。マボはベットに座ると、祈るようにメダルに触れてキッチュを呼び出しました。
「キッチュ、今、とても大変な目にあっているんだ。今すぐ来てほしい! キッチュ、どこにいるの。僕は今、小人村にいるんだよ! 早く助けに来て!」
マボは思わず声に出しましたが、まったく何も起きません。キッチュはでたらめを言ったのでしょうか? いいえ、実を言えば満月から前後する数日は良い妖精の力が弱まります。ですので、マボの声はキッチュに届かなかったのです。こんな大事なことを、そそっかしやのキッチュは言い忘れてしまったのでした。
つまり、マボのわずかなのぞみは完全に絶たれたのでした。ですが、マボはキッチュの助けもなしにトロルとの対面にのぞむことなど考えたくないことでした。マボは「きっと、キッチュに僕の声が届いているよ、明日にはきっと来てくれるはずだ」そう自分に言い聞かせました。そして、なかなか寝付けずに何度も寝返りをうっていましたが、いつのまにか眠ったのでした。
樫の木庵のマボ(第1巻 全話完結)|遥ナル (note.com)
マボ:5歳の男の子。臆病で控えめだが、優しい子供。家は貧しく、町はずれの傾いた掘立小屋で暮らしている。
モモ:5歳の女の子。おてんば、おしゃべりで元気な子供。施設育ちで、街一、二位を争う金持ちシュールレ奥さんにひきとられている。
ネネ:5歳の女の子。お金持ちの子供で、つんとおすまししたお嬢様。
ニルバーニア:めったに人界に姿を現さない大賢者。若い娘のような顔立ちだが、老婆のような話し方をする。動物(特に鳥族と仲が良い)と話すごとができ、様々な魔法を使うことができる。自宅のログハウスでは、猫のピッピをかわいがっている。
キッチュ:エルフの女の子。愛しのバブバブ坊やを探している。人間の子供を見つけると、虫に変えようとする。