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第五章:迷い森へ8 樫の木庵のマボ-大賢者ニルバーニアと双頭の魔女-

「あのおじさん…いえ、お兄さんは、妖精や双頭の魔女を見たことがあるの?」
こうたずねると男は酒を飲むのをやめ、袖からキセルを出して吸いながら言いました。

「ああ、見たともさ。見ただけじゃないさ。悪い妖鬼なんかは、俺様の魔法でちょちょいのちょいでやっつけたさ」
「魔法を使えるの!?」

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マボは素直な子供ですので、男の言うことを信じてたずねました。

「もちろんだとも、ゴブリンなんかは朝飯前さな。今では俺の姿を見ただけですたこらと逃げ出す程よ。それに、いつだったか、トロルだってやってやったよ、大変だったけれどな、ありゃでかいから!」
「トロルも!?」
マボは目を輝かせました。人は見かけによらないとはこのことでしょうか!? このみすぼらしい男が世にも兇悪で鳴らす巨人トロルを魔法で倒してと言うのですから、驚きでした。
「ああ、そうだとも、お前にも見せてやりたかったな。指の一本でちょちょいのちょいさ!」
調子に乗った男は饒舌でした。
「双頭の魔女だって俺にかかれば3分と持つまい!」

この調子で口がなめらかに滑っています。一通り自分の武勇伝をぶった男は満足そうに、口から煙の輪をぷうと吹きました。しかし、モモはまったく信じておりませんから言ったのです。それは、まだ男のはいた煙の輪がぷかぷかと、淡い藍色の空めがけて上にのぼっている最中でした。
「ねえ、お・に・い・さ・ん! 一つ魔法を見せてちょうだいよ!」
これを聞くと、男は急にキセルを吸うのをやめて、立ち上がりました。
「あ、ああ、みせてやるとも、一つと言わず、二つでも三つでもな。だけど、ちょっと今は先を急がないといけないから、また今度な。お前らおチビ軍団のスピードはたかが知れてるからな。ほら、何突っ立ってんだ、早くついてこい、おチビどもが!」

この名前さえ名乗らない男は、とても奇妙な人でした。名うての魔法使いということですが、手に持っているのは立派な杖でもなければ、分厚い法典でもありません。大事そうに抱えているのは、この男にそれは似つかわしい、ごみ箱から拾ってきたような薄汚れたコウモリ傘なのです。
”こんな人が本当に、偉大なるニルバーニア様のお知り合いなのだろうか”と、子供たちは思いました。しかし、今はこの男を信じるしかありませんから、仕方もなしに子供たちはついていく他なかったのです。

マボ:5歳の男の子。少し臆病で控えめだが、優しい子供。家は貧しく、町はずれの傾いた掘立小屋で暮らしている。
モモ:5歳の女の子。おてんば、おしゃべりで元気な子供。施設育ちで、街一、二位を争う金持ちシュールレ奥さんにひきとられている。
ネネ:5歳の女の子。お金持ちの子供で、つんとおすまししたお嬢様。

ニルバーニア:めったに人界に姿を現さない大賢者。若い娘のような顔立ちだが、老婆のような話し方をする。動物(特に鳥族と仲が良い)と話すごとができ、様々な魔法を使うことができる。自宅のログハウスでは、猫のピッピをかわいがっている。

キッチュ:エルフの女の子。愛しのバブバブ坊やを探している。人間の子供を見つけると、虫に変えようとする。

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