第七章:奇妙な男3 樫の木庵のマボ-大賢者ニルバーニアと双頭の魔女-(連続小説)
「ねえ、奇妙なおじさん。早くその恐ろしい魔法を見せてちょうだいよ! 私は待ってるのよ。早くしないと夜になってしまうわよ!」
こう言われたものですから、奇妙な男は魔法を見せないわけにはいかなくなりました。しかし、男は明らかに動揺して、だじろいでいます。
「こ、この生意気なおチビめ! 俺はもうすっかり怒ったぞ、そこを動くなよ!」
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いつまでたっても魔法をみせるといってみせないこの男は、やはり奇妙極まりない男でした。怒った男は魔法を使う代わりに、背にしていたモミの木を力任せに拳を握って思い切りドンと叩きました。子供たちをびっくりさせて、脅かそうとしたのです。
しかし、男の行動にモミの木もすっかりあきれはてて、怒っていたのでしょう。叩いた拍子に、男の頭に何十もの毛虫がぽとぽとと落ちてきたのです。奇妙な男は細い目を目いっぱいひろげ、ぶるるっと体を震わせました。身体のあちこちに、毛むくじゃらの毛虫のお友達が這っているのだから当然です。赤い鼻の上にも一匹、毛虫のケムちゃんが止まって、奇妙な男にご挨拶しています。男はそのケムちゃんと目があったからもう大変です。
「お、おたすけ~!」
奇妙な男は何mもぴょんと飛び跳ねたかと思うと、一目散に森の奥へと逃げ出していきました。あれほど後生大事にしていると話していたこうもり傘も置いたままです。
モモとネネは腹をかかえて大笑いです。しかし、しばらくたってすっかり静まり返ると、途端に周りの木々がよりいっそう背が高くなったように感じました。モモとネネも迷い森に、2人きりで取り残されてしまったのですから。
マボ:5歳の男の子。少し臆病で控えめだが、優しい子供。家は貧しく、町はずれの傾いた掘立小屋で暮らしている。
モモ:5歳の女の子。おてんば、おしゃべりで元気な子供。施設育ちで、街一、二位を争う金持ちシュールレ奥さんにひきとられている。
ネネ:5歳の女の子。お金持ちの子供で、つんとおすまししたお嬢様。
ニルバーニア:めったに人界に姿を現さない大賢者。若い娘のような顔立ちだが、老婆のような話し方をする。動物(特に鳥族と仲が良い)と話すごとができ、様々な魔法を使うことができる。自宅のログハウスでは、猫のピッピをかわいがっている。
キッチュ:エルフの女の子。愛しのバブバブ坊やを探している。人間の子供を見つけると、虫に変えようとする。