第六章:マボはぐれる4 樫の木庵のマボ-大賢者ニルバーニアと双頭の魔女-
しかし、モモとネネが行った先にとどまっている気配はありませんでした。2人が行った先には2匹の蝶々が楽しく飛んでいるばかりで、マボを呼び返す声などありません。
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マボは不安になって、駆け出して叫びました。
「モモ、ネネ、待ってよ! 僕はここだよ、今行くからね!」
ですが、マボを呼び返す声はありません。
実を言えばモモとネネはマボが後ろからついてきているとばかり思い込み、どんどん先に行ってしまったのです。さらには、奇妙な男などはモモとネネ以上に、マボになんか関心を払っていませんから、待っているはずもありませんでした。
こうなると迷いの森はすっかり姿を変え、マボにはただただ薄気味悪く、恐ろしい森にしか思えません。巨人のように背の高い生い茂った木々に囲まれ、足元ではムカデに毛虫、ミミズがうようよと落ち葉のはざまから這い出して歩いていますし、遠くでは草むらの中で何かが動く気配がします。マボはそれを蛇だとばかりに思えて、ぶるっと体を震わせました。さきほどであれば、リスか小鳥と思い、にっこり笑ってその方角を見つめたものです。しかし、今のマボはそんな余裕なんてありません。だって、森の中で1人はぐれたなんて、これっぽっちも思いたくありませんから!
「モモ、ネネ、おじさん、どこなのー!? 隠れていたずらしてるんでしょ!? 僕は降参するから早く出てきてよー!」
マボはすっかり困ってしまい、探し回ったのです。しかも、悪いことは続き、いつのまにか今自分がどこにいるのかも、来た道がどこかもわからなくなりました。というのは、迷い森とはよく言ったもので、どこもかしこも、似たような景色が広がっています。今は夏から秋にうつりかわる季節で、木々たちの葉っぱは緑色から黄色や赤色に服を着替えている最中です。それが、どれも似たように見えて、目印になるものがなかったのです。
こうなるとマボはお手上げ、森の中に1人取り残されてしまったのでした。
―あ、どうしたんだろう、あの男の子。こんな森の奥で一人でいるよ。きっと、あの子は迷子なんだよ。大変、大変、こりゃ大変。森には悪い妖精や人食い虎もいるよ。デュラハンにでも見つかったら、どうなるんだろう…あの子はもうこの森から出ることはできないよ、ケケケ…。
それがわかると、楽しいはずの小鳥のさえずりが、このような不気味な笑い声に思えてくるではありませんか! マボはもうべそをかきながら、立ち尽くすしかなかったのです。
マボ:5歳の男の子。少し臆病で控えめだが、優しい子供。家は貧しく、町はずれの傾いた掘立小屋で暮らしている。モモ:5歳の女の子。おてんば、おしゃべりで元気な子供。施設育ちで、街一、二位を争う金持ちシュールレ奥さんにひきとられている。ネネ:5歳の女の子。お金持ちの子供で、つんとおすまししたお嬢様。
ニルバーニア:めったに人界に姿を現さない大賢者。若い娘のような顔立ちだが、老婆のような話し方をする。動物(特に鳥族と仲が良い)と話すごとができ、様々な魔法を使うことができる。自宅のログハウスでは、猫のピッピをかわいがっている。
キッチュ:エルフの女の子。愛しのバブバブ坊やを探している。人間の子供を見つけると、虫に変えようとする。