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第七章:奇妙な男2 樫の木庵のマボ-大賢者ニルバーニアと双頭の魔女-

奇妙な男はモモの大反撃に驚いたあまり、飲み干したのも忘れ、空瓶を開けて口に運びました。さらには、手元をくるわせて、空瓶を地面に落としてしまったのです。というのも、ここまで大人にくってかかる元気な女の子なんて出会ったことがなかったからでした。

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「ええ、そうね。ニルバーニア様にきっとお伝えしないといけないわね。あなたがマボを放り出して、先に行くって言ったことを。それを聞いたら、大賢者様はきっとお怒りになって、あなたをこらしめるために魔法を使うでしょうね!」

しかも、大人には大人しいはずのネネさえも、モモにこう続いたものですから、男はすっかりおののいてしまいました。今度は懐からキセルを出して吸い始めたのですが、先にはたばこも入っていなければ、火もついていなかったのです。持つ手はかすかに震えていますが、奇妙な男は何とか取り繕って言いました。

「な、な、なんだって! おチビどもが俺様に刃向うんだい! ニルバーニアのばあさんに告げ口するだって、やってみればいいさ! ああ、そうだとも。ばあさんがそれを聞いたところで、命の恩人のこの俺様に何もできるはずもねえんだ! それに、俺様は後生大事なこうもり傘のことをとやかく言う奴だけは許さねえ! 今にこらしめてやるぞ!」

奇妙な男は怒りだして、口から泡を飛ばしながら言い放ちました。さらに腕捲りして、手のひらにつばをぺっ、ぺっとはいて、何かの準備をしています。恐ろしい魔法を使うとでも言うのでしょうか?
ネネは思わずモモの後ろに隠れました。一方のモモはかわいいお目目をつりあがらせて、男を睨みつけて一歩も引くつもりはありません。

「いいか、怖い魔法だぞ、恐ろしいぞ。泣いて謝ったって許さねえからな!」
 男は言います。
「謝るなら今のうちだぞ…怖い、怖い魔法だからなあ!」
モモの後ろに隠れるネネは、おびえながら言いました。
「モモ、あやまった方がいんじゃないかしら。怖い魔法を使うそうよ。ねえ、あやまりましょうよ!」

しかし、モモは思いました。この何かにつけてみすぼらしく、粗暴な男は魔法使いではなく、ただの奇妙な男でしかないと。だから、口ばかり達者で、大げさな物言いをすると。

「ねえ、奇妙なおじさん。早くその恐ろしい魔法を見せてちょうだいよ! 私は待ってるのよ。早くしないと夜になってしまうわよ!」
こう言われたものですから、奇妙な男は魔法を見せないわけにはいかなくなりました。しかし、男は明らかに動揺して、だじろいでいます。
「こ、この生意気なおチビめ! 俺はもうすっかり怒ったぞ、そこを動くなよ!」


マボ:5歳の男の子。少し臆病で控えめだが、優しい子供。家は貧しく、町はずれの傾いた掘立小屋で暮らしている。
モモ:5歳の女の子。おてんば、おしゃべりで元気な子供。施設育ちで、街一、二位を争う金持ちシュールレ奥さんにひきとられている。
ネネ:5歳の女の子。お金持ちの子供で、つんとおすまししたお嬢様。

ニルバーニア:めったに人界に姿を現さない大賢者。若い娘のような顔立ちだが、老婆のような話し方をする。動物(特に鳥族と仲が良い)と話すごとができ、様々な魔法を使うことができる。自宅のログハウスでは、猫のピッピをかわいがっている。

キッチュ:エルフの女の子。愛しのバブバブ坊やを探している。人間の子供を見つけると、虫に変えようとする。

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遥ナル
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