第五章:迷い森へ5 樫の木庵のマボ-大賢者ニルバーニアと双頭の魔女-
すると、モモはもう耐えられませんでした。履いていたよそ行きの赤い靴を脱ぎ棄てると、リュックから使い古した淡い紫色のシューズを取り出しました。モモはこのお気に入りのシューズをはくと、一目散に森の奥を目指して走って行ってしまいました。
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スタートからして、このように3人が3人ともちぐはぐな有様でしたので、大人たちもハラハラどきどき、先が思いやられる思いで見送るしかありませんでした。結局、ネネはマボに迎えに来てもらい、2人で森に入ることになりました。
しばらく行くとモモは退屈そうに木によりかかり待っていました。
「あなたたち、何してるの!? 早く行かないと日が暮れてしまうわ。ネネ、はっきり言っておくわよ! ここにはあなたの好きなお人形もなければ、あなたを大事にしてくれるお父さんや召使もいないの。自分のことは全部自分でやるの、いいわね!」
モモはネネにお灸を据えたのですしかし、お金持ちの御嬢さんであるネネは、そんなことはとても受け入れられないことでした。というのも、ネネは何十枚も金貨が入った小袋を持たされていました。父親には「いいかいネネ、困った時はこのお金をマボとモモにめぐんであげなさい。そして、召使のように命令するんだよ」と言われていたのです。ですので、召使のようにふるまってくれるとばかりに思っていたモモが、このような生意気なことを言うので、驚いてしまったのです。
「ちょっと、モモ。私はあなたとは違って森に来たくて来たんじゃないの! あなたたちは私の面倒見てくれなくっちゃいけないわ。お金ならたくさんあるのよ」
と小袋を開いて、中の金貨を見せました。
モモはともかく、マボは思わずその黄金の輝きに見入ってしまいました。というのも、マボは金貨というものを見たことがありませんでした。ばあちゃんが戸棚に大事にしまっている袋には、一握りの銀貨が入っているだけです。マボがへとへとになりながらガラクタ集めでもらえるのは、銅貨数枚でした。ですので、金貨など初めてお目にかかったのです。マボは太陽のかけらのようにまばゆく光る金貨から、なかなか目が離せませんでした。しかし、モモは言いました。
マボ:5歳の男の子。少し臆病で控えめだが、優しい子供。家は貧しく、町はずれの傾いた掘立小屋で暮らしている。
モモ:5歳の女の子。おてんば、おしゃべりで元気な子供。施設育ちで、街一、二位を争う金持ちシュールレ奥さんにひきとられている。
ネネ:5歳の女の子。お金持ちの子供で、つんとおすまししたお嬢様。
ニルバーニア:めったに人界に姿を現さない大賢者。若い娘のような顔立ちだが、老婆のような話し方をする。動物(特に鳥族と仲が良い)と話すごとができ、様々な魔法を使うことができる。自宅のログハウスでは、猫のピッピをかわいがっている。
キッチュ:エルフの女の子。愛しのバブバブ坊やを探している。人間の子供を見つけると、虫に変えようとする。