第五章:迷い森へ7 樫の木庵のマボ-大賢者ニルバーニアと双頭の魔女-
「ねえマボ、私もう疲れてしまったの」
歩いて10分もたたないうちに、このわがままなお嬢さんは言うのです。
「お願いだから、私の荷物も持って頂戴。そしたら、今度金貨を1枚あげるわ!」
「う、うん」
こうして、マボはネネの分も合わせ、2人分の荷物をもって、ふうふう言いながら歩く羽目になったのです。とにもかくにも、3人は迷い森に足を踏み入れたのでした。
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それから、少し先に大きなモミの木があり、その根元にニルバーニアのあの知り合いが座って、子供たちを待っていました。先に行ったモモはそのそばに立って、男をじっと見ています。ラム酒をごくごく飲んでいた男は、マボとネネも到着し、3人がそろうと口からこぼれた酒を袖でぬぐいながら言い放ちました。
「いいか、お前ら。俺はな、ニルバーニアのばあさんと違って、優しくないからな。お前らみたいなおチビ軍団の面倒を見るなんてまっぴらごめんなんだ。お前たちはだまってついてくるがいいさ。はぐれても面倒なんてみないからな!」
このような物言いの男に対し、モモはもう少し怒っています。
「ねえ、おじさん、ニルバーニア様の本当にお知り合いなの?」
「ああ、そうだとも、知り合いも知り合い、それどころか、あのばあさんの命の恩人さ。ばあさんは俺の方に足を向けて、寝たりなんてできはしないのさ! それとな、おチビ、俺のことはおじさんと呼んではいけない。お兄さんと呼びなさい」
どう見てもおじさんにしか見えない男が言いました。
「私はおチビじゃない、モモよ!」
「なんだと、このおチビめ!」
二人は早くも睨み合っています。二人の間に入るようにマボがたずねました。
「あのおじさん…いえ、お兄さんは、妖精や双頭の魔女を見たことがあるの?」
こうたずねると男は酒を飲むのをやめ、袖からキセルを出して吸いながら言いました。
「ああ、見たともさ。見ただけじゃないさ。悪い妖鬼なんかは、俺様の魔法でちょちょいのちょいでやっつけたさ」
「魔法を使えるの!?」
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マボ:5歳の男の子。少し臆病で控えめだが、優しい子供。家は貧しく、町はずれの傾いた掘立小屋で暮らしている。
モモ:5歳の女の子。おてんば、おしゃべりで元気な子供。施設育ちで、街一、二位を争う金持ちシュールレ奥さんにひきとられている。
ネネ:5歳の女の子。お金持ちの子供で、つんとおすまししたお嬢様。
ニルバーニア:めったに人界に姿を現さない大賢者。若い娘のような顔立ちだが、老婆のような話し方をする。動物(特に鳥族と仲が良い)と話すごとができ、様々な魔法を使うことができる。自宅のログハウスでは、猫のピッピをかわいがっている。
キッチュ:エルフの女の子。愛しのバブバブ坊やを探している。人間の子供を見つけると、虫に変えようとする。