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第六章:マボはぐれる1 樫の木庵のマボ-大賢者ニルバーニアと双頭の魔女-

この名前さえ名乗らない男は、とても奇妙な人でした。名うての魔法使いということですが、手に持っているのは立派な杖でもなければ、分厚い法典でもありません。大事そうに抱えているのは、この男にそれは似つかわしい、ごみ箱から拾ってきたような薄汚れたコウモリ傘なのです。
”こんな人が本当に、偉大なるニルバーニア様のお知り合いなのだろうか”と、子供たちは思いました。しかし、今はこの男を信じるしかありませんから、仕方もなしに子供たちはついていく他なかったのです。

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男はすたこらと足早に先に進んでいきます。もちろんラム酒を水のように飲む手は休めません。後ろも振り返らずに、まるで何か用事があって一人で先を急いでいるような歩き方でした。
子供たちはといえば最初は並んで歩いていました。というのも張り切り屋のモモも、森の中に入るとさすがに1人では不安だったのかもしれません。

森には古いオークやイチイ、モミの木もありました。落葉樹であるハンノキ、トネリコ、シラカバ、カエデなどからは、たまに葉っぱがひらひら落ちてきます。ハシバミや野イチゴの木などもあります。その木々たちの間に隠れるように、遠くで動物がちらほら顔を出していました。リスはどんぐりを口に入れ、ほほをふくらませてほおばっています。いったいなんでこんな小さな男の子と女の子が並んで歩いているんだろう…不思議そうに首をかしげて見つめています。子供連れの野うさぎ親子も、思わず足を止め、鼻をひくひくさせながらマボたちを珍しそうに見ています。”お子さんたち、この先はとっても長いですよ、気を付けていくのですよ”、うさぎのお母さんがそう言っているかのようです。

まだ時刻はお昼前、暖かな日差しが木の上には届いています。迷い森でもこの辺りは木がわさわさしておらず、日差しが十分にさして、のどかに思える場所でした。木の上で豊かなひと時を楽しんでいる小鳥たちはさえずり歌い、素敵な一時を満喫しています。しかし、子供たちを見つけると、すっかり心配になり”ピイチク、ピイチク”といっせいに鳴きはじめました。

マボ:5歳の男の子。少し臆病で控えめだが、優しい子供。家は貧しく、町はずれの傾いた掘立小屋で暮らしている。
モモ:5歳の女の子。おてんば、おしゃべりで元気な子供。施設育ちで、街一、二位を争う金持ちシュールレ奥さんにひきとられている。
ネネ:5歳の女の子。お金持ちの子供で、つんとおすまししたお嬢様。

ニルバーニア:めったに人界に姿を現さない大賢者。若い娘のような顔立ちだが、老婆のような話し方をする。動物(特に鳥族と仲が良い)と話すごとができ、様々な魔法を使うことができる。自宅のログハウスでは、猫のピッピをかわいがっている。

キッチュ:エルフの女の子。愛しのバブバブ坊やを探している。人間の子供を見つけると、虫に変えようとする。

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遥ナル
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