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僕の中の二律背反

 昔から朝の光は苦手だった。起きられないほどじゃなかったけれど、正直言うと夜の闇の方が好きだった。僕はいつも夜と朝の隙間で浅く眠り、義務のように毎日学校へ通った。学校では教室の後ろの席で、気だるげに同級生たちを観察して過ごした。

「ねぇアンバー、今日こそ僕の家に寄って帰らないか?」
一歩引いて達観したような僕の姿を遠巻きに見ている同級生が多い中で、彼だけは唯一僕に話しかけてくる同級生だった。
「いや、今日もやめておくよ。」
僕は少し鼻で笑ってそんな彼の誘いを断ると、カバンを持って放課後の教室を出た。
「もう、本当につれないなぁ。」
彼は僕にどんなに拒否されても嫌な顔一つせず、カバンを持って僕の後ろを追いかけてきた。
「まったく、キミは何でいつも僕にまとわりついてくるんだ?」
僕が立ち止まって聞くと、
「アンバーのことが好きだからに決まってる。」
と、彼は笑って言った。
「好き、ね。」
僕が繰り返すと、
「アンバーの赤い瞳、綺麗で好きだよ。」
と、彼が真っ直ぐに僕の瞳を見て言った。
「生まれつきだ。」
僕が少し照れて俯いて言うと、
「アンバーの滑らかな白い肌も好き。」
彼は少し微笑んで僕の腕に触れながら言った。
「・・・うるさい。」
僕が腕を引き抜いて言うと、
「アンバーのその少し怒った言い方も表情も好き。」
と、彼は僕の顔を覗き込んで言った。
「ほっといてくれと最初に言っただろう?」
僕が苛立って言うと、
「じゃあ、ほっといてと言うくせにアンバーの目がいつも寂しそうなのは、なぜ?」
彼は僕を見て泣きそうな顔になって言った。彼の目に映る僕が狼狽していた。
「・・・別に寂しくなんて・・・。」
僕は両手を握り締めて俯くと彼から目を逸らして言った。
「アンバーはどうしてそんなに自分を虐めるの?」
僕が睨むように彼を見上げると彼のブロンドの髪が光を受けて透き通って見えた。彼の瞳が潤んでいた。
「何でお前が泣くんだよ。」
僕が聞くと、
「アンバーのことが、好きだから。」
と、彼は答えになっていないような答えを返した。
「・・・家、行っても良いよ。」
僕がぼそっと言うと、彼は途端に表情を輝かせて、
「本当?」
と聞いた。
「あぁ。」
僕が頷くと、
「なら、早く行こう。」
と、彼は嬉しそうに僕の手を掴んで、急かすように引いた。


彼を好きになりかけていた。一瞬で良いから、彼が僕の孤独を埋めてくれるのではないかと期待した。彼と友達になりたかった。


 それなのに・・・。気がつくと僕は冷たくなった彼を抱きかかえて笑っていた。彼の部屋で、彼の血に唇を濡らして。こんなに寂しいのに、僕の体は熱く滾って、高揚感が止まらない。悲しいほどに彼は人間で、僕はヴァンパイアだった。
百年ぶりの食事は僕の全身を満たしていく。僕の体は不老不死のまま、また百年生き延びて、僕はまた友達を失った。
「僕もキミが好きだったよ。」
呟くように言った言葉は、彼に届いただろうか?せめて、牙を立てた首筋の柔らかさも、恐怖に怯えた最期の顔も、彼の優しい血の味も、彼の事を全部覚えていようと思った。

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