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ただいま、ずっと一緒だよ。②

半分実話、半分空想、全3話完結の4000字程度の物語です。今日は2話目。

前回のおはなしはこちらです。

◆‥◇‥◆

お正月に彼が再入院した。

翌日、着替えと差し入れのどら焼きをもって病院に行った時のことだ。

彼は自宅に居たときより歩きづらそうな様子で、杖をつきながら待合のロビーにやってきた。

(面会禁止だから、私が来る時間に合わせ、コンビニへ行くと言って病室を抜け出してきてくれた)

「たった一日しかたっていないのに昨日より辛そうだね」

「座っていると大丈夫だよ。でも歩くと足が痛いよ」

「じゃあ、退院したら階段は辛いよね」

「一階に引っ越したいな・・」

「じゃ、引っ越そう!」

その時住んでいた部屋は階段がないマンションの三階にあった。

薬の影響で足が不自由になった彼には階段の昇り降りが大変だ。

退院してから彼に負担をかけないようにと、一階の部屋を探すことになった。

それからひと月もしない間に慌ただしく引越先が決まり、引越業者の見積もりを取った翌週から荷造りを始めた。

「引越まで時間はたっぷりあるから、楽勝!だよね」

「そう、二人分の荷物なんて大した量ではないしね」

そう言ったものの、おしゃれな彼の洋服の量は半端じゃないことを知っている私は不安だった。

実際に荷づくりをしてみると、楽勝ではなかった。

彼の病気の進行は思ったより早く、追加の治療も必要になり一月末の退院は認められなくなった。

そのため二人で分担するはずだった荷造りを私一人ですることになったのだ。

一緒に住めないかもしれないのに引っ越しをする意味は何なのだろうという気持ちが芽生えできた。

私の本音は引っ越しをしたくない。頭では、引越しは必要だとわかっているけど・・

思い出が詰まったこの部屋が気に入っているのに。

そう考えながら一人でする荷造りは全く進まなかった。

彼にはちゃんと私がやっておくから心配しないでと伝えたが、仕事の疲れもありイライラが募る。

・・あ〜あ、私は天使にはなれない、器の小さな人間だ。

◆‥◇‥◆

「無理をしないで。ちゃんと帰って手伝うから」

どこからか彼の声が聞こえたような気がした。

時計を見ると夜の十二時を過ぎていた。いつの間にか半分眠っていた頭の中で彼の夢を見ていたようだ。

朝型の私は夜の十時を過ぎれば瞼が重くなる。

頑張って起きていようとしてもいつの間にか睡魔に負けてソファの上で眠り込んでしまうのだ。

あくびをしながらタオルケットをつかみソファで脱力していく私の様子を見て、いつも彼はニヤニヤしている。

「もう! ちゃんとベッドで寝ない風邪ひくよ」

そういいながら彼は、無造作に私のお腹に掛けられたタオルケットを整えて、足までちゃんと被せてくれるのだ。

完全に眠った私を見届けてからテレビを消す。

灯りも消して彼は自分の部屋へ戻る。

そして彼自身が眠るまで一人の時間を過ごすのだ。ちょっぴり寂しさを感じながら。

◇‥◆‥◇

余裕がないというのは罪なことだ。

二人暮らしを始めて去年の秋に十周年を迎えた。

この頃は辛さを隠せないほど病気の影響を受けていたはずなのに、彼は痛いとか辛いとかはほとんど口にしない。

会社が繁忙期で忙しかった私は、病気の彼をいたわる気持ちの余裕がなかった。

帰宅後すぐ夕飯の支度をして、食べ終わったら慌ただしく片付けをする。

二人分のコーヒーを淹れてやっとホッと一息つく。

疲れていることを言い訳に彼との会話を程々にとどめ、気遣いの言葉をかける訳でもなく、いつものようにソファで眠りかけていた私。

彼はどのような気持ちで私を見つめていたのだろう。

彼は、最後にどうしても私に伝えたかったのだと思う。

入院中の今だけではなく、一緒に暮らしていた時も寂しかったのだと。

亡くなる前日に聞いた言葉は「寂しいよ」だったから。

これが最後の言葉になるなど、その時は思いもせずに、転院予定の病院へ手続きや支払いのことで頭がいっぱいで、彼とちゃんと向き合えなかった。

「明日、また来るからね」って病室を後にしたことは、本当に悔やまれる。

引越が終わった今、あのソファはもうない。

私が居眠りをしてしまわないように処分した。

タオルケットを掛け直してくれる人も、消し忘れた電気を消してくれる人も居なくなってしまったから。

(つづく)

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