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占エンタメシリーズ⑤ 望月麻衣『満月珈琲店の星詠み』 〜占星術で開運した作家と猫のマスター〜

星の流れを意識して行動し、作家デビュー

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 『満月珈琲店の星詠み』(2020年7月10日発刊、文春文庫)は、京都の風情と星占いの両方が楽しめる小説です。著者の望月麻衣さんは京都在住の作家で、2016年、『京都寺町三条のホームズ』で第4回京都本大賞を受賞、文春文庫から『京洛の森アリス』シリーズを3巻出版されています。

 この小説、占い師として読むと「あとがき」がとても興味深いのです。望月さんは2013年頃に、たまたま西洋占星術の情報を発信しているSNSの記事を読むようになり、星の流れを意識し始め、星の流れに従って行動するようにしたそうです。

 例えば、『月が獅子座に入ったので自己アピールに適した時期です』、『月が乙女座に入りましたので、今度は、縁の下の力持ちになるように心がけましょう』といったメッセージですね。すると、どんどん開運していったというから驚きです。

 2013年の夏にWEBの小説大賞を受賞し、作品の書籍化、コミカライズ、アニメ化を果たします。それが嬉しくて占星術を独学で勉強し始めましたが、限界を感じて、2015年から占星術講師の元で学ぶようになりました。

イラストとの出会いで占いモチーフの小説が実現

 2016年頃に、一度占星術をモチーフにした小説を書いてみたいと思ったけれど、書けなかったそうです。まだ、自分の中で落とし込みが足りなかったんですね。

 そんなある日、SNSで桜田千尋さんというイラストレーター が描いた、猫のマスターのいる不思議な喫茶店『満月珈琲店』を見て魅了され、『占星術の話を書くなら、この方のイラストがいいな』と思ったそうです。
 
 そこから先が望月さんの素晴らしいところです。2019年の春頃、桜田さんが大阪で同人イベントに出展し、イラスト集を販売すると聞くと、その会場へ行き、私は小説を書いていて、いつか桜田先生とお仕事できたら嬉しいですと、名刺交換をしたと言うんですね。

 その行為って、宇宙に向かって「私はこの人と一緒に占星術の本を出すぞ!!」と宣言したということです。そこで宇宙の後押しを受けることになるのです。

 その年、『京洛の森アリス』の4巻目の執筆依頼に来た文藝春秋の編集者に、望月さんは桜田さんのイラストを見せて、『京洛の森アリス』ではなく、占いをモチーフにした小説を、桜田さんのイラストで書いてみたいと伝えます。すると、「とても素敵ですね!」と、とんとん拍子に話が進み、桜田さんもオファーを受けてくれて、2020年7月10日には本が出版されたのです。
 
 このエピソードを読まれた方はおわかりと思いますが、望月さんは「行動力」と「粘り強さ」を兼ね備えたクリエーターさんなんなのです。占星術を独学で勉強し始めて、それから先生にもついて学び、3年後には小説を書きたくて構想したけれど挫折。

開運には「行動力」と「粘り強さ」も必要

 それでも諦めなくて、さらに勉強を続け、ずっと頭に隅にそのことがあったから、桜田さんのイラストを見てひらめくものがあって、わざわざ大阪まで会いに行って写真集を手に入れた。そのリアル写真集があったから、編集者の心が瞬時に動いたのです。

 西洋占星術で占ってもらう人はたくさんいるし、占いを習う人も少なからずいるけれど、それを活用して仕事や私生活に実りをもたらすには、やはり「結果が出るまで行動すること」が大切なんだなと、改めて教えてくれるエピソードです。

 そして、私が使うのは数秘術、オラクルカード、シャガイ と占術は違うけれど、やはりクライアントさんを本当に開運させてこそ、占いの使命を果たせたと言えるのだなと思いました。そして何より、自分自身が数のバイブレーションを生きて、開運しているのかなと、反省させられもしたのです。

満月珈琲店のマスターは星詠みの三毛猫

 さて、順番は逆になりましたが、どんな小説かと言うと、下記が本の紹介文です。

満月の夜にだけ現れる満月珈琲店では、猫のマスターと店員が、極上のスイーツやフードとドリンクで客をもてなす。スランプ中のシナリオ・ライター、不倫未遂のディレクター、恋するIT起業家…マスターは訪問客の星の動きを「詠む」。悩める人々を星はどう導くか。美しいイラストにインスパイアされた書き下ろし小説。

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 小説は3部構成で、第一章「水瓶座のトライフル」、第二章「満月アイスのフォンダンショコラ」、第三章「水星逆行の再会」(〈前編〉水星のクリームソーダ、〈後編〉月光と金星のシャンパンフロート)。

満月珈琲店ではお客はオーダーできない

 第一章の主人公は、かつてはテレビの売れっ子シナリオ・ライターで、今は落ちぶれて『脇役キャラクター』のソーシャルゲーム・シナリオを書く芦川瑞希。一応、私もライターの端くれだし、この章にはウチでも飼っているシンガプーラが登場するので、一番親近感がわくエピソードでした。

 まず、満月珈琲店のお客はオーダーする権利はありません。2メートルもある、濃紺のエプロンをかけた三毛猫が自分の判断で、そのお客に合うメニューを提供するのです。コーヒーが飲みたかった瑞希(四十歳近い)には、コーヒーは酸いも甘いも噛みわけ、すべてを堪能しつくした大人が飲むものだからと、『満月バターのホットケーキ』と紅茶が運ばれてきました。

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 猫の店長は星詠みでもあります。そして、瑞希の出生図(ネイタルチャート)という「運命図」を指し示しながら、水瓶座の時代に入り、瑞希がかつて得意としていた逆境から這い上がって成功する「シンデレラストーリー」は魚座の遺物だから、水瓶座のテイストを入れて練り直す必要があること。植物で言えば根っこの部分にあたる住環境を整え、自分が好きだと思える、素敵な部屋に住む必要があること。それが出来なければ、今の部屋を快適に整えるべきだとアドバイスします。

自分を理解し、大切にすると、自分という星が輝きだす

 そして最後に猫のマスターは瑞希にこう語りかけます。

「『自分を理解する』というのは、『自分を大切にする』ことにつながります。そうすると、あなたという星が輝き出すんですよ」
「人も一人一人が星なんですよ」

 ふと気づくと、瑞希はホテルのカフェでうたた寝をしていて、満月珈琲店は跡形もなく消えているのですが、そこで起こった出来事や言われたことはすべて覚えています。そして、テレビディレクターに企画はボツになったと言われ、落ち込んでいた瑞希は、希望を胸に、現状を少しずつ、粘り強く変えるために行動を起こすのです。

極上のデザートを堪能できる至福の小説空間

 第二章、第三章の主人公たちは、二人とも芦川瑞希と繋がりを持っています。第二章の主人公は瑞希に企画がボツになったと京都のホテルで伝えた若い敏腕TVディレクターの中山明里。第三章の主人公は瑞希にシナリオの発注をしたIT企業の共同経営者である水本隆。

 この3人は実は瑞希がシナリオライターとして売れっ子になる前、小学校の非常勤教師だった時代に登下校班で付き添っていた生徒たちだったのです。最初は誰もが昔のことは忘れていますが、星詠みで人生を振り返ったとき、お互いの関わりあいやその当時の感情を思い出します。

 そして物語の最後に、なぜこの3人の前に満月珈琲店が現れたのか、その理由が明らかにされるのです。一言でいえば「猫の恩返し」なのですが、そこにはあるピアニストが絡んでいて・・・というのもこの小説の面白いところです。

 『満月珈琲店の星詠み』に悪人は登場しません。仕事上のスランプだったり、恋愛や生き方の悩みを取り上げているので、歴史のうねりとか、宮中の足の引っ張り合いとか、血で血を洗う政争みたいな世界とも無縁です。

 ですが、それだからこそ心地良いのです。自分が満月珈琲店に招かれ、極上のデザートを堪能し、美しい音楽に耳を傾け、美しい満月を見上げているような気分にさせてくれる。ほんのひととき、世知辛い浮世を忘れさせてくれる。それこそ、小説というものの役割ではないでしょうか。

 私も鑑定に来て下さるお客様に満月珈琲店のようなもてなしが出来たらと思います。そしていつか、極上の珈琲や紅茶、絶品のチョコレートをお茶請けに出せるようなサロンを持てたら最高ですね。そんな夢を見させてくれる作品でした。


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