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ミュージカル『ザ・ミュージック・マン』感想ー嘘の中の真実ー

ヒュー・ジャックマンが演じた話題の作品

 日生劇場でミュージカル『ザ・ミュージック・マン』を見てきたので、その感想です。『ザ・ミュージック・マン』は1957年に上演された作品です。舞台は1912年、アイオワ州のリバーシティという田舎町です。第一次世界大戦や世界恐慌の前の、古き良き時代です。なので、全体のテンポはゆったりしていますし、ミュージカルとしてはきわめてオーソドックスな構成です。

 この作品をなんで日生劇場60周年の幕開けに持ってきたかといえば、2021年12月からブロードウェイで大スターのヒュー・ジャックマンが『ザ・ミュージック・マン』に主演して、1年以上のロングランを続けて話題になったからでしょう。
私が見たいと思ったのも、YouTubeでヒュー・ジャックマンがこの作品のワンシーンを演じるのを見て、そのリズム感の良さとパワーに度肝を抜かれたからでした。それと、日本のキャストの多くが馴染みのある俳優さんばかりなので、このカンパニーで演じるとどうなるのか見たかったというのもあります。

キャスト
ハロルド・ヒル教授 坂本昌行
マリアン・パルー 花乃まりあ
ミセル・パルー 剣幸
マーセラス・ウォッシュバーン 小田井涼平
ジョージ・シン町長 六角精児
ユーレイリー・マッケクニー・シン 森公美子
ザニータ・シン 水嶋凛
チャーリー・カウエル 藤岡正明
トミー・ジラス 山崎大輝

日生HPより

田舎町で詐欺師と司書が繰り広げるラブコメディ

 『ザ・ミュージック・マン』 は詐欺師の話です。音楽教授を名乗るハロルド・ヒル(坂本昌行)はペテン師で、スーツケースを持って行く先々でマーチングバンドを編成しようと提案し、大量の楽器・制服を売りつけ、そのお金を持ち逃げしています。リバーシティという田舎町に降り立った彼は、昔の詐欺仲間マーセラス(小田井涼平)と出会い、町長のシン(六角精児)やその妻ユーレイリー(森 公美子)といった町の住民たちを騙していきます。図書館の司書でありピアノ教師でもあるマリアン(花乃まりあ)にもアプローチするのですが、彼女はハロルドが詐欺師であることを見抜き、町長に忠告しようとします。ところが、マリアンの内向的で吃音の弟ウィンスロップがハロルドと出会い、音楽の才能があると言われて変わっていくのを見て、ハロルドの正体を暴くのをやめることにします。そして徐々にハロルドと心を通わせていき、ハロルドに恨みを持つセールスマンのチャーリー(藤岡正明)が、ハロルドの素性を町中にバラすために乗り込んでくると、マリアンはチャーリーを止めるために、彼にキスまでして体当たりで阻止しようとするのです。ハロルドは詐欺師ではありますが、田舎町にいない抜けた大人の男であり、どこか憎めないチャーミングなところがあります。マリアンはいつの間にかハロルドに恋していたし、ハロルドもまた、マリアンに本気になっていました。マリアンの愛を得るためにはこのままではいられないと悟ったハロルドは、自分は詐欺師だと本性を明かすことを決意するのですが、最後に奇跡が起こり、制服を身につけたマーチングバンドが入場してきて・・・。

坂本くんと花のちゃん、美男美女ののラブコメが楽しい

 日本版を見て思ったのは、キャストがピタッとハマっていたこと。坂本くんはイケメン詐欺師にピッタリでした。V6の元リーダーですが、ミュージカルでは
最初から主演というわけではありません。脇役の舞台も見ていますし、「ZORRO THE MUSICAL」も見ましたが、オーディションで勝ち取った主演だったはず。歌もミュージカル俳優としてきちんと成立していますし、ダンスもしなやかで上手なので、安心して見ていられます。
 マリアンの花乃まりあちゃんは品の良いコメディエンヌぶりがとても可愛くて好感が持てました。美人でスレンダーでヒロイン力が高いですし、宝塚時代よりずっと歌が上手くなっていて、高音がキレイに出てました。やはり宝塚でトップになる人は努力家なんですね。ブロードウェイ版はコメディ色が強いのですが、この二人がやると、美男美女のラブコメといった感じでした。
 元純烈の小田井涼平さんは初ミュージカルとのことですが、歌も踊りも上手くて、根っからのミュージカル俳優に見えました。長身なので目立ちます。
町長の六角精児さん、その妻の森公美子さんは芸達者でもっぱら笑いをとる役ですが、こちらも存在感が半端なかったです。特に森公美子さん、舞台にいるだけで笑えました。

子役たちは全員がプロだった!!

 それから、このミュージカルを語る上で欠かせないのが、子役の存在です。子供たち、青少年のマーチングバンドですから、子役がたくさん出てくるのですが、歌、踊り、演技と三拍子揃って達者なのです!! テレビでを見ていても思うのですが、日本の子役は層が厚くなって、みんなプロなんですよね。最近は小学生からボイトレに通いますし、ヒップホップ教室とか、子供むけのダンス教室もたくさんありますし。あんな子供の頃から舞台に立っていれば、第二、第三の海宝直人や笹本玲奈がたくさんでてくるに違いありません。日本のミュージカル界の未来は明るいと思いました。

嘘でも言葉で人は変わり、行動する

 『ザ・ミュージック・マン』は古いミュージカルなので、先日宝塚で見たフレンチミュージカル『赤と黒』のような現代性はないですし、少々まどろっこしい展開ではあります。冒頭の列車の車内でセールスマンたちが歌う場面はいささか長く、しかも「信用(ツケ)じゃなくて、キャッシュでとれ」という部分は、いまや電子マネーの時代なので笑ってしまいました。ですが、占い師としては、興味深い話でもあったのです。

 ハロルドは町長の妻ユーレイリーに「踊りの才能がある!」と言い、マリアンの弟ウィンスロップには「体型が管楽器に向いている!」みたいなことを言うんですよね。町中の多くの人に思いつきの褒め言葉を言ってその気にさせるのですが、それでユーレイリーは踊りに打ち込み始めるし、ウィンスロップは楽器を手にして、話ができるようになる。自分が気づかなかった長所や才能を指摘されてマインドが変わり、行動が変わり、変わった人たちが溢れて、町全体が活気づくのです。

 マリアンは最後にこう言います。ハロルドは詐欺師かもしれないけれど、彼が町に来なかった方が良いと思う人はいますか?、と。ウィンスロップはハロルドに会わなかったら、永久に話せなかったかもしれません。ハロルドが本当に音楽大学出の教授かどうかなど、どうでも良いとマリアンは思うようになったのです。要は良い方に現実が変われば良い。その方が大事なのだと。

人生が好転すれば「嘘から出た真実」でOK

 人は誰もが可能性を秘めています。例えば、手相鑑定をしたあるお客様に「あ、左手に芸術十字(太陽十字)線がありますよ! これ、ピカソにもあるんです。芸術的なセンスが優れた方ですね」と言った途端に、その線がくっきりしたことがあるのです。で、その方は「子供の頃、イラストレーター志望だったんです。また描いてみようかしら」とおっしゃったのです。もちろん、その方には本当に芸術十字線があったから指摘したのですが、たとえそれが嘘だったとしても、その方が本当に自分がやりたいことを思い出して、イラストレーターになったとしたら、それは「嘘から出た真実」になるのです。

占いは当たるよりも活用することに意味がある 

 よく「当たる占い師はいますか?」という人がいますが、「来年事故にあって死にますよ」と言われて、本当だとしても嬉しい人がいるでしょうか? 未来は決まっていないから、変えられるから占う意味があるのです。占い当たる当たらないより大切なのは、占いを活用して、より良い人生を歩むことです。

 言葉の持つ力、そして、可能性を信じることの大切さ。『ザ・ミュージック・マン』はそれを教えてくれた、とてもハッピーになれるミュージカルでした。

 

 

 

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