バレンタインデーにゴディバを買うわけ
今年もバレンタインデーが近づいてきました。30年以上前、アメリカのボストンに留学して、バレンタインデーは女性が男性にチョコレートを贈る日ではなく、男性が意中の女性に花束をプレゼントする日だと知って驚いたものです。
ところが、私が住んでいたアパートの大家さんはなぜか、私とアメリカ人のルームメイト、つまり店子に、毎年ゴディバのチョコレートをプレゼントしてくれたのです。
お祖父さんの代の時にロシアから移民したというユダヤ人の大家さんは50代に見える女性で、全身に派手なアクセサリーを付けた、まるで映画にでてくる占い師のような雰囲気の女性でした(笑)。
当時は今のように日本中にゴディバの売店があるわけでも、オンラインショップで買えるわけでもなかったので、黄金色の箱に入ったチョコレートの1粒1粒が宝石のように輝いて見え、このうえもなく美味に感じられたものです。
帰国して10年以上経った頃、独身だった私は都内に築40年以上たった古びたマンションを購入しました。その後、そのマンションを賃貸に出して大家になった私は、毎年バレンタインデーになると、店子にゴディバのチョコレートを贈るようになりました。
その頃にはゴディバより希少なチョコレートがデパートで販売されていて、ありがたみは薄れていたけれど、350ドルの家賃の支払いにびくびくしていた学生時代に食べた味が懐かしくて、ちょっとした郷愁からです。
今年の1月、新型コロナウイルスによる売上激減で、カナダとアメリカのゴディバの実店舗128店が3月末で閉店するというニュースが入ってきました。あの大家さんはもう天国にいるかもしれないけれど、彼女のようにゴディバを愛するアメリカ人が店舗でチョコレートを買えるのは、今年のバレンタインデーが最後というわけです。
ちょっぴり胸が痛むけれど、日本のゴディバはまだ健在です。近くのショッピングセンターの店舗では、今日も95周年記念の大きな箱を買い求める女性を見かけました。
決して安くはないし、もっと美味しいチョコレートもあると思うけれど、やっぱり私は今年もゴディバを買おうと思います。遥か昔の自分と出会うために。