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カシミールに想いを寄せて

カシミヤのセーターの「カシミール」

カシミヤのセーターやマフラーとか、高級品だけど、そのカシミヤ(カシミア)繊維はカシミア山羊の毛で、元々はカシミールと呼ばれる地域に生息している山羊のことだ。そして、カシミールとは、インド北部とパキスタン北東部にわたる山岳地帯のことだ。
恥ずかしながら、行こうと思うまで知らなかった。

インド側ならジャンムー・カシミール州にあたり、ここはインドだけどイスラム教徒の方が多い。2016年のゴールデンウィークに訪れたラダックはこの地域の東側を指すが、チベット系が多い。
一方、パキスタン側ならギルギット・バルティスタン州にあたる。カラコルム山脈や、昨年2018年のゴールデンウイークに訪れた桃源郷とも、風の谷のモデルとも言われるフンザ地方はここに含まれる。

ちなみにフンザから北上するとカラコルムハイウェイを通って、半日ほどで中国の新疆ウイグル自治区のタシュクルガンに、そこからさらに半日ほどで喀什(カシュガル)に至る。
カラコルムハイウェイは中国とパキスタンとをつなぐ主要道路で、絶景を拝めるのだそうだ。(私は国境越えまではしていない・・・)なお、カラコルム山脈を越えると、タジキスタン、中国にまたがるパミール高原になる。

だいたい位置関係はこんな感じ。

カシミールは天国に近い。
周りを囲む雪帽子を被った山々は殆どが天にも届きそうな6000m7000m級のビッグなマウンテン。人を寄せ付けないほど神々しく畏怖を覚える。

▲ここはカリマバード(パキスタンのフンザ)

山間に広がる平地は荒涼としていて、なんとも胸に迫るものがある。目にした時は、まばたきする瞬間すら惜しいくらい魅入ってしまい、身動きもできず。絶対的、圧倒的、崇高、無謬。そんな光景を前にして、どうしょうもない無力感を感じるのだ。嗚呼、人間て傲慢。ひれ伏したくなる、そんな感じ。

▲ラダック(インド)の街から街への移動にて。

だけど、まっすぐと空に向かって伸びたポプラの木は、毅然として見える。
ここに生きる人たちもそう。

▲ゴジャール地区のシムシャール村(パキスタンのフンザ)

そして広く青い空。
いったい空の境目はどこだろう。
街中で標高が3000m超えていたりするから、もう空の中だろうか。そしたらもう天国じゃないか。そんなロマンチックなこと考えたりする。

▲ゴジャール地区のパスー氷河付近(パキスタンのフンザ)

まさに天国と言ってもいいくらいに、とても美しい。
陳腐だけどそうとしか言えない。

だけど、このカシミールは以前から両国が領有権を争う、丁度実効支配線(停戦ライン)なのだ。そしてここ最近の衝突と緊張状態は、私にとって外国の由々しき出来事という以上に胸の痛む事態、いや事件だった。

チベット仏教の息づく聖地ラダック

私が初めてラダックを訪れたのは、2016年のゴールデンウイークだった。実効支配線というのを知ったのはこの時で、それまで全く知らなかった。
Googleマップを開き、ラダックの道路や山、街などを眺めながら、パキスタンとの国境、中国との国境、位置関係を調べた。
無論、大まかの位置関係は分かるのだが、いざこざのある地域だから、ちゃんと知っておこうと思ったのだ。もちろん外務省の危険指定エリアも合わせて確認する。間違っても行かないようにだ。

地球の歩き方のインド編にも、あまり情報は載っていない。
しかし、行ってみるとなんの心配もない。タルチョのはためく蒼い空にそれと大地をつなぐかのような山岳、荒々しいインダス川、そして優しい人々の暮らす、空に近いのどかな場所だった。ラダックの中心のレー(Leh)という街は殆どがイスラム教とチベット仏教、少しのヒンズー教徒とシーク教徒の人達が混ざり合って暮らしている不思議な街。

中心にはポタラ宮のモデルになったと言われるレー王宮が鎮座し、街を見下ろしている。

▲レー王宮

▲こちらはレーで出会った人がFacebookのメッセンジャーで送ってくれたラダックの写真。レー王宮?

▲レー王宮のさらに上にある寺の上から町を見下ろす。

私はいっぺんにここに惚れた。

数年前に行った中国の東チベット(四川省のチベット自治州)は文化大革命で伝統的なチベット文化の殆どを破壊されてしまっていたが、ここでは今もなお、色濃く息づいている。
ちなみに、後で知ったけどここは小チベットといわれるそうだ。

▲チベット仏教の歓喜仏。

にもかかわらず、ここはインドだしイスラム教の街でもチベット仏教の街でもある。それが不思議であり心地よかった。

▲ラマユール(ラダック)の不思議な地形。緑の向こうは黄土色の地形で月の世界と言われたりもする。

風の谷、フンザ

ナウシカの風の谷のモデルと噂されるのが、パキスタン北東部に位置するフンザだった。私がそこを訪れたのは、2018年5月のゴールデンウイークで、杏の咲き乱れる季節は過ぎてしまっていた。

フンザを訪れる前のこの年の冬、2017年から2018年にかけての年越しはこのフンザから近い、中国側のカシュガルとタシュクルガンで過ごした。そしてここフンザはカシミールの一部だからラダックにも近い。

圧倒的な山と空の大地の力に気圧されて以来、すっかりこのエリアの虜になってしまっていた。だから、行けるのだと知ったらもう行くしかなかった。
タシュクルガンはタジク族の街で、国は中国だけど明らかに私の知っている中国人ではない顔立ちの人たち。タシュクルガンはパキスタンの国境のすぐそばの街で、タジキスタンとも近い。カシュガルからはカラコルム山脈の道、カラコルムハイウェイを通ってここに至る。そして、このカラコルムハイウェイをさらに行けば、パキスタンなのだ。

年越しの休みを終え帰ると、すぐにパキスタン側を調べた。そこがフンザだった。
フンザを調べれば、風の谷のナウシカのモデルになったと言われていて、日本人の旅人もそこそこ訪れているという。
私は次の目的地をフンザに定めた。

そして、ゴールデンウイーク。
フンザにはパキスタンの首都、イスラマバードから入った。だいたいバスで20時間くらいだったか。
ラダックを訪れた時期と一緒なので、ラダックで心を打たれた杏の花を期待してたけど、それはどうやら遅過ぎた。残念ながら散ってしまった後だったのだ。(北部のゴジャール地区では見られた!)

第一印象は岩山の世界!
だけど、灰色の岩の大地とそれを削り取る中荒々しい川を背景に、ポプラの緑は鮮やかで、そして清涼な風がこのフンザには吹いていた。

フンザにはチベット仏教は微塵もないが、フンザの中心、カリマバードにあるかつてフンザ藩王国の居城だったバルチット・フォートは、ラサのポタラ宮やラダックのレー王宮と似た作りでチベットを感じた。

▲山の陰に静かに沈むバルチット・フォート。綺麗に撮影できなかった。

このフンザはイスラム教だけど、戒律のゆるいイスマイリー派なる宗派のため、女性の教育や社会進出が進んでいる。
フンザのゴジャール地区で出会った10歳の少女は英語も堪能で、パキスタンの文化やこの辺りの歴史について説明してくれた。英語がろくにできない私には半分も分からなかったが、事前知識でなんとなく把握。この子すごい。

人懐っこい子供達との出会い、そして彼女たちの家に招かれたことは、宝物だ。

▲ゴジャール地方のパスー村で出会った子供達。

ラダックもフンザも、胸いっぱいの思い出をくれた場所だ。
一度旅したところは訪れない主義だけど、何度でも行きたいところだ。会いたい人たちも沢山いる。とても大好きな人たち。


今、この私の愛するカシミールは、インドとパキスタンの両国の係争地で、今まさに軍事衝突している。
2月末頃にインドのカシミール地域でテロがあり、それを受けてインドがテロ組織の拠点として攻撃した所は、私の訪れたフンザの中心地ではないけど、そこに至る道からそう遠くない。
今も緊張状態にある。

ここで暮らす人々はどう思っているのか、この争いをどう捉えているのか。伝わる情報はパキスタン側、インド側でそれぞれ違うだろう。

なんであれ、ただ私が願うのは、みんなが無事であり、この素晴らしいカシミールが平和であり、暮らす人々の安寧のみだ。
思いを馳せれば、胸が痛む。

多くの人にこの素晴らしいカシミールを知っていてほしいと願い、どうかこの争いが収束することを願う。

インドの本土も旅したし、パキスタンの人たちとも親交を深めた。
この両国のカシミールの争いは根深いものなのは承知しているが、ここで暮らす人々にはなんの罪もない。
無知で無力な自分にはできることなんて少ないけど、このカシミールのことをせめて知ってもらいたいと思うのだ。

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未熟ですが書くことは好きです。もっとたくさん書いていけるよう頑張ります。