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大賞がくれたもの【第24回グリム童話賞】
こんにちは。
菜花あさとです。
このたび、
第24回グリム童話賞一般部門にて、
「ショーウインドウがとけた夜」という作品が大賞をいただきました。
この童話賞は、皆さまご存じの通り、毎年テーマが設定されるのですが、
今年は「窓」でした。
私は、ある店のショーウィンドウを舞台に設定し、子ぎつねの成長の物語を書きました。
自分が好きな世界を、こころをこめて書いたつもりです。
ただ完成した時には、どうにも地味な話になったなぁと思いました。
きらめくような鮮やかな着想や、すぐれた表現力を持った応募者の方たちの中に入れば、確実に埋もれてしまう作品だとも感じていました。
それなのにある日、結果通知がやって来ました。
大事件勃発。
家族は喜んでいます。
でも私は正直なところ、首をひねるばかりでした。
た、た、大賞?
あの作品のどこが、どうして?
理由が飲みこめないと、人ってこんな風になるんだと初めて知りました。
頭は、理解しようと懸命に動いているのに、嬉しいという感情がついてきてくれません。
やったぞ!とか、どや!みたいな気持ちにも、もちろんなれない。
なんだかエライことになってしまった。
どうしよう、どうしよう。
困惑しているあいだに、どんどん授賞式の日が迫ってきます。
一番喜んでいい時期だというのに、気持ちはどよーん。
とにかく服を準備し、宿泊予約をし、こそこそとスピーチメモを作りました。
そして迎えた、授賞式当日。
会場には、入賞作品が大きなパネルに貼られ、展示されていました。
イラストレーターの方が描いてくださった、可愛らしい挿し絵も添えてあります。
審査員の方の講評も書かれてあります。
そこに、
見過ごせない一文が。
「話の展開に少し不自然なところはありますが(以下略)」
その瞬間でした。
モヤモヤイジイジしていた気持ちが、ぴかーんと晴れたのは。
思わず、笑みがこぼれてきたほどでした。
なーんだ、やっぱりそうなんじゃん!
いくら大賞といったって、あのお話が手放しで褒められていたのではなかったんだ。
ちゃんと、おかしなところがあった。
ちゃんと、見抜いていただいていた。
どこがと、明確に指摘されてはいません。
でも私にははっきりと、あそこだと分かりました。
推敲の段階で見て見ぬふりをした、本当はずっと胸にひっかかっていた、あそこ。
未熟な私が気づいていたことを、百戦錬磨の先生方が見逃すわけがありません。
けれど。
それを差し引いたとしても、
他に良いところがあるよ、と寛大に認めてくださった。
「大賞」という場所へ、引き上げてくださったのです。
どれほどありがたいことが、自分に起きたのか。
とんでもない周回遅れで、嬉しさが込み上げてきました。
身体とこころの緊張が、すごい勢いでほどけていきます。
これで、いいんだ。
今は堂々としていよう。胸をそらしすぎない程度に。
安堵した私はマイクに向かい、何とかスピーチをすることができました。
書いて、書いて、書き続けて
式が終わり、審査員の先生方とお話をさせていただきました。
どの先生もお優しく、口を揃えておっしゃいました。
「良かったですよ。とにかく書き続けてください」と。
私には、こうきこえました。
「創作とともに、生きていくんだよ」と。
気分の良い時も、そうでない時も。
どしゃぶりの雨の日も、こごえそうな雪の夜も、ひたすら書き続ける。
物書きを志す以上、ここで終わりということはありえない。
たとえ大賞を取ろうが、落選しようが、
それはもうすぎ去ったことで、大切なのは今。
明日、あさって、何を書くのか。
一文一文をおろそかにしないこと。
おかしなところを見て見ぬふりなんて、とんでもないことだと思い知りました。
真摯に、謙虚に書き続けていきたい。
すっかり日がかたむき、しんと静まったグリムの館を後にする時、
ここまでの道のりを思いました。
長かったな。
ここからは、もっともっと長いのだろうなあと。