伊根・天橋立
迫りくる梅雨の気配。
追いつかれる前のぎりぎりの、でも突き抜けるような晴れの日。
テレビや雑誌で知っているのだよ、あの景色は。
でも、自分でそこに足をつけるのは全然別ものなのだよ。
煙を出す蒼い電車にのって、ぽやんと見つめる先には透明であおい海が光るバスに揺られて、伊根湾めぐり遊覧船に乗る。
かもめとトンビの勢いにあっけにとられて、伊根の舟屋がじっくり観られなかったではないか。
舟屋のある集落まで、歩いて行こうと遊覧船乗り場のおかあさんに道を尋ねたら、なぜか外にでてずんずん進んで行く。そして駐車場の片隅に置かれた自転車を指差して、「これ、無料だから。バスに乗るなら、地図に書いてある置き場に乗り捨ててもらったらいいから。」と。なんと親切。無料レンタサイクルをぎこぎこ漕いで、観光案内所の上の食堂で早めのお昼をとる。
唐揚げ定食。なんとこの日の唐揚げはフグ。食堂のおかあさん達も人間味溢れてて、あわあわしてひとりごと言ってるのになんだか微笑ましい。お会計のときに思わず、「ほんとうにおいしかったです」と伝えずにはいられない。
ぎこぎこと湾の行き止まりまでぼんやりのんびり。潮の匂い、海のひかり、風のさわり心地、五感てやっぱり使わないと、刺激してあげないと、て。
引き返す道のりでも、細い道をゆくトラックと道を譲り合って、バス停近くのベンチでまたぼんやりしたり。ぼんやりって最高の贅沢だ。
そして、あの天橋立を観に、リフトに乗って(ケーブルカーと並走してる)、あしぷらぷらさせて、頂上にたどり着いて、振り返ったらあの景色はあった。風流ていう感じではなくて、会社の慰安旅行みたいなひととか、家族連れとか、カップルとか、賑わっているんだけどきゃっきゃするというよりは、すこしだけくすんでいて、でもそれが何よりいい空気感をかもし出している。集合写真で、ほろ酔いで遅れてくるひととか、記念写真をあっという間に印刷して販売してるブースとか、瓦投げで成功した人の周りの人が「幸せのお裾分けされたみたいー」て言っているのとか、それもふくめてとてもいい景色ではないか。
山を下りて、ソフトクリーム食べながら、お土産のみりん干しが入ったビニール袋提げて、天橋立をあるいて渡る。歩いて渡れるって知らなかった。右も左も海だ。釣りしたり、ビーチバレーしたり、サイクリングしたり、みんな楽しそうだ。ああ、日常にこういう瞬間がたくさん訪れることを願おう。そして、願いは自分で叶えに行こう。そんなことを思う休日。