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『秘密の森の、その向こう』

お母さんの小さいときに会えたら、仲良くなれたかなと思ったことがある。なぜかこの映画を観ている間、たびたび泣きそうになった。

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ポスターの左側の女の子、ネリーは、両親とともに亡くなった祖母の家の片づけに来ている。家の近くにはネリーの母マリオンが小さい頃遊んだ森がある。出ていった母と入れ替わるように、ネリーは森で幼い頃の母と出会う。ネリーは幼いマリオンと木で家を作り、ボードゲームで遊び、芝居をする。クレープも一緒に作る。
 女優になりたいというマリオンに、ネリーはきっとなれるよと言う。ネリーは母が女優にならなかったことを知っている。でもそう言う。もしかしたら、マリオンが女優になる時間軸もあるのかもしれない。

 母にも人生があるという当たり前のことを、映画や小説は時々語ってくれない。母が「母」という役に押し込められがちであることを、フェミニズムの文脈でも批判されてきたと思う。映画はネリーの視点で進むためマリオンは確かに「母」として描かれているのだけれど、でも「誰かの母」を描きながら、その人の人生を立ち昇らせるような描き方もできるのだと思った。『秘密の森の、その向こう』は小さい頃の「マリオン/母」がネリーと会うことで、二人の関係をフラットにする。そして、マリオンがネリーを置いて一度出て行ってしまうことを決して非難しない。ネリーはマリオンが悲しんでいることを知っている。
この映画のラストが大好きだ。絶対的に完璧な存在の母ではなく、守られる親子関係ではなく、並んで座って話すこともできる。クレープを作る場面や、ボートを持って坂を駆け下りていく高揚感溢れる場面など、好きなところがたくさんあった。

『秘密の森の、その向こう』
監督:セリーヌ・シアマ
2021年 フランス

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