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スマホでこんなことができる――三宮麻由子『わたしのeyePhone』

 iPhoneは世界を変えた、と言えば多くの人が頷くでしょう。機械で人とのつながりが薄くなったとか、スマホ脳とか否定的な意見も飛び交っている。でも、技術は確かに生活を変えていく。特にアクセシビリティを。そう実感したのは三宮麻由子『わたしのeyePhone』を読んだからだ。著者は通信社で翻訳者として働いており、エッセイストでもある。そして視覚障害者だ。著者にとって、iPhoneは革命だったという。写真を撮って送る、郵便物を確認する、買い物をする…..多くのことが、スマホによってできるようになったり、やりやすくなったりした。その体験を伝える本だ。

調理・買い物の大変さ


 どの章も興味深いが、なかでも買い物と調理の困難について書かれた章は特に印象深い。恥ずかしながら考えたことがなかったのだが、中身が分からないまま調理するしかなかったり、賞味期限を把握するのに苦労したりするそうだ。そうしたなか、スマホのスキャン機能がとても役立つという。それでも全ての文字を認識してはくれないようで、キャッチコピーよりも「賞味期限や辛さといった「命にかかわる」情報がはっきりと読めるほうが、実は大切なことなのではないだろうか」と書いている(p.81)。デカデカと書かれたキャッチコピーと対照的に、小さく表示された消味期限などの重要な情報。書いてあるからいいだろう、ではなく、見えない人が必要な情報にアクセスできるようにしなければとの思いが強くなった。

尊厳


 買い物についても、自分で選んだり買ったりできることで「「本当に選ぶ」という尊厳を取り戻し」たと力強く述べている(p.115)。スマホの凄さは私もこの本を通して体験したものの、使える技術の差は人によってかなり大きいのではないかと想像する。スマホやアプリだって安くないのだし。だからやはり不平等な状況なのだ。「選ぶ」「買う」ということは、大切な尊厳で軽んじられるべきじゃない。
 SNSには写真に文字情報を添付できる「ALT」機能がある。何か投稿するときは、面倒に思えても忘れないようにしようと思った。入力すれば済む話なのだから。

 著者のスマホデビューから日食を体験できるアプリまで、スマホの読み上げ機能や視覚障害者への情報保障がどのようにされているのか体験するエッセイだ。技術って革命なんだと思った。スマホをはじめ、新しい技術への反感は、まっとうなところもあるけれど、健常者中心の考え方なのではないかと感じる。

三宮麻由子『わたしのeyePhone』早川書房、2024年


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