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この文章は、2007年6月に「プロメテウス」と言う冊子掲載の為、私が書いた文章です。この頃私は、師匠(梅崎幸吉氏)から哲学を学んでおり、難しい哲学書の説明を、例え話しとして、教えて頂いた話を文章化したものです。

 むかしむかし、あるところに、1人の女の子がいました。女の子の住む村では、年に一度カーニバルが開かれます。今年もカーニバルに向けて、準備が始まり、女の子もカーニバルの飾り付けを作るのに、大忙しでした。 そんなある日、カーニバルの準備の為「村長の樽に、コップ一杯のワインを入れて下さい」と張り紙が出ました。カーニバルの10日前、村長さんの自宅には、大人も子供もコップ一杯のワインを持って樽に入れました。 皆んなが一生懸命ワインを持って来てくれたので、樽が、一杯になり、村長さんも一安心しました。 ところが、樽にワインを入れてからというもの、女の子は胸騒ぎがして、何だか悲しくなり、カーニバルの飾りを作らなければならないというのに、病気で倒れてしまいました。 
 倒れて三日目の晩、女の子は不思議な声と共にベッドから起き上がりました。不思議な声は、男の人の声とも女の人の声とも判別が付かない声で、こう言いました。
「お前は、ワインに水を混ぜた。一人だけ水を混ぜても誰にもわからない、と思った様だが、多くの人がお前と同じ様にワインに水を混ぜたらワインがワインでなくなってしまう!」 
 女の子は、稲妻が落ちた様なショックを受けました。実は、女の子は、ワインは、高価な為ワインに水を混ぜて樽に入れていたのです。

「こうしては居られない、直ぐに謝りに行こう!」 
と思いましたが、やはり怖くて恥ずかしくて身体が動きません。なぜなら、ワインに水を混ぜたことを、村長さんに話したら、女の子は、どんなに叱られるか、そして皆んなの前でどれ程恥ずかしい思いをするか想像がついたからです。 
 しかし、女の子は、不思議な声を思い出し、決心して村長さんの家に行きました。 村長さんは、村の人たちとカーニバルの打ち合わせをしていました。
「本当の事を話したら、村長さんだけでなく、村の皆んなからも大目玉だわ!どうしよう!」
そう思うと悲しい気持ちになり、逃げ出したくなりました。しかし、勇気を振り絞り本当の事を話すことに決めました。 
「ごめんなさい!ワインがとても貴重だったのでコップに水を混ぜて樽に入れてしまいました」
 女の子は、叱られる覚悟をして話しました。 ところが、村長さんは、怒らずに
「勇気を持って本当の事を言ってくれて有り難う!」
と言ってくれました。女の子は、キョトンとしてしまいました。暫くしてから
「村長さんは、なんて良い人なんだろう」
と改めて知り、とっても嬉しくなりました。 それを見ていた村の人たちは、恥ずかしそうに言い出しました。
「村長さんごめんなさい、実は私もワインに水を混ぜました」
一人の村人が言いました。すると、「実は私も」「私も」、、、
村の人々は、次々に村長さんに謝りました。聞いてみると、村のほとんどの人は
「自分一人がワインに水を入れても大丈夫だろう、誰にも分かりは、しない」
と思い、コップに水を混ぜてから、樽に入れたのでした。 全てを知った村長さんは、もう一度張り紙をしました。
「コップ一杯のワインを樽に入れて下さい」

これをきっかけに皆んなは、反省し「自分くらいやらなくても、、、」という考えをなくす事にしたのです。 村では、晴れて何の混じりけもないワインの樽と女の子のカーニバルの飾りも何とか完成し、カーニバルの当日となりました。女の子と村の皆んなは、楽しいカーニバルを過ごしたそうです。この事が、きっかけとなり不思議な声は、何かある度に女の子に語りかけ、女の子は、その都度正しい道に導かれるのでした。

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