ショートショート¦風の導くままに
部屋の中に散らかっている、無数の瓶と潰された缶を見てため息をつく。わたしはそれをゴミ袋にまとめながら、自分の吐く息からお酒の匂いがすることに気づき、顔をしかめる。
瓶を掴んで、ゴミ袋に入れようとした手を止めた。この瓶は違う。この小さな瓶の中には、透明な液体がゆらゆらと揺れている。これは「風を治すクスリ」らしい。二週間前に心療内科を受診した時に貰ったものだ。風が吹くたびに心がざわつき、なにもかもが崩れていく感覚に襲われるとき、これを飲むことで少しだけ楽になれると、薬剤師さんは言っていた。
でも、薬を飲んでも、心の中の風はおさまらない。彼との距離は縮まらず、言葉を交わすことから逃げている。
わたしは瓶を見つめながら、立っていた。風が窓を揺らし、部屋の中に冷たい空気が入ってくる。「ひぃーっ、寒いっ。」言葉にすると、なんだか少しだけ寒さが和らぐ気がするから不思議だ。
瓶をゴミ袋に入れて、わたしは外に出た。風に身体を委ねてみる。もう、治す必要なんてないのかもしれない。風に身を任せてみても良いのかもしれない。そう思いながら。
Fin-【459文字】
こちらの企画に参加させて頂きました✧*。
季節の変わり目は、どうしても体調を崩しやすくなってしまうね。そんな時は無理をせず。ゆっくりと、ゆっくりと🐢💕