ラグタイム 観劇(おぼえがき)
自分の中で消化するのがなかなか大変な作品だった。ただ、今この時代にこの作品を上演する意義をものすごく感じる。
個人としてはお芝居を観て、こんなに泣いたことはないというほど泣いた。自分が子供を持ったので、未来ある彼らに希望を見出すということが実感としてあるのも関係しているのかもしれない。
とにかく「物語」の力が強い。
それを「演劇」という、生身で観客に真正面からぶつかるような形で上演するという力をひしひしと感じた。
第二次世界大戦前のアメリカにおける人種差別がテーマとして扱われるが、それは今でも根強い。そういう意味で当時と比較して世界が良くなっているとは単純には言えない。
観劇日(大阪・楽)にて井上芳雄さんがカーテンコールにて昨今の世界情勢を踏まえたうえでの作品について語った中でも「もしかしたら、今は悪い方に進んでいるかもしれない。それでも歩まねばならない」というのが印象的だった。
演劇として唸らされたのは、黒人や移民のキャラクターにはそれぞれ個人としての名前があるのに対し、白人キャラクターは「マザー(おかあさん)」「ヤンガーブラザー(おとうと)」など一般名詞にすることで『当時のアメリカにおける一般的な感覚の人』を記号として演出することができるということ。
(一方で他の人種のキャラクターは物語進行上『個人』を打ち出す必要があるので名前があったのだろう。彼らは『一般的な黒人』『一般的なユダヤ人』『一般的なアイルランド人』というより、より明らかな個であった)
そして、演者の肌の色や髪型に関わらず衣装によってキャラクターたちがどのコミュニティ(=人種)の出身かということが明確にわかる点だった。この点は日本におけるラグタイムの上演許可において大切であったと聞いているが、明確に観客の視覚で捉え理解することができることに感動をした。
しかし、キャストさんみんな歌唱力オバケしかいなかった……(音源欲しい)
石丸幹二さんを拝見するのはこれがはじめて。とんでもない美声。震えた。娘を想うひたすらに愛深い父親。
安蘭けいさんは白い衣装も相まって姿が高貴。ただ、マザーという役はともすれば「聖人」のようになってしまう役だと思う。そこに血肉が通っているのを感じるのは安蘭さんの地に足のついた芝居によるものだと思った。
はじめましての遥海さんのソウルフルな歌と、対照的な井上芳雄さんの正統派の歌唱はサラとコールハウスがなぜ惹かれたか・またコールハウスという黒人男性がワシントンを尊敬する教養ある冷静な男性なところをを感じさせてよかった。コールハウスは才能とカリスマがあるけれど、もしかしたらコミュニティでは異端だったのかもしれないと思った。
ヤンガーブラザー・東啓介さんもはじめまして。感情の動きが若さとリンクしてみずみずしいお芝居。とても背が高くて脚が長くてスマート! 長身のはずの芳雄さんが東さんと並ぶと小さく見えるのに驚く……脅威のスタイル!!
子役の皆さんめちゃくちゃうまかった。
カーテンコールにて石丸先輩の前ではただの後輩になる井上芳雄を見て(微笑ましい)、べしょべしょになるほど泣いていた笑いが広がっていたのがまたよかった。個人的に救われた感。
リトルコールハウス役の子役さんが「大人になったらやる」とも話していたし、是非今後何度も再演される作品になってほしい。