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ハシグチリンタロウ「しるしの黎明-dawn of sign-」

年の瀬が押し迫っている中、何とか年内に投稿したいという思いで、年末最後に拝見した「ハシグチリンタロウ個展「しるしの黎明-dawn of sign-」にようやく辿り着きました。

1.出会い

ハシグチリンタロウさんに初めてお会いしたのは、2018年の「ART SHODO TOKYO(以下AST※1)」会場、三鷹市芸術文化センターだったと思います。2017年から作家活動を始めた当時の私は右も左もわかりませんでしたが、リンタロウさんは書道を現代アートとして作品制作を続けているもの凄いワカモノだということは知っていました。2017年、大阪府立江之子島文化芸術創造センターで開催された「GASH!(※2)」で作品を拝見した時から、この人はビッグになるだろうなと感じていました。

(※1)ART SHODO TOKYO
(※1)ART SHODO TOKYO AUTUNN 2018
(※2)GASH

何故そう思ったのだろうか...?
それは、直感という生ぬるいものではありません。八岐大蛇の首のようにも見える太く大きな線からは、雄叫びのように響きわたる声なき声が轟き、私はその世界観にスッと入っていけたからかもしれません。

ハシグチリンタロウ氏のGASH!メイン作品
(筆者撮影)

そしてドローイングとも言えるグラファイトの小品も、支持体が貫通しているのではないか?と思うほどの筆圧で、文字(アルファベット)が書かれていました。自分が米粒ほどの小人であれば、同じように感じたかもしれません。

言葉を変えれば、とても爽快で心地良かったのです。

年が明けて2018年春。無事AST審査を突破した私は、三鷹会場で初めてリンタロウさんにお会いしました。プロフィールや動画を拝見したイメージ通りの作家さんでした。当時からART SHODO Pioneerである山本尚志氏(※3)に次いで著名コレクターがリンタロウさんの作品を青田買いしており、またギャラリストや美術評論家が注目しているという話が耳に入ってきていました。そして、リンタロウさんはあれよあれよという間に一気に手の届かないところへ昇華されていきました。

しかし、私は運良くコロナ前の数年間だけ、グループ展をご一緒させていただくことができたのです!

2.天作会展ー井上有一に捧ぐ「書の解放」展ー

その後リンタロウさんとは、2019年の『第九回天作会展ー井上有一に捧ぐ「書の解放」展ー(※4)』でご一緒しました。何と!私の作品はお隣に展示することになったのです!今でも覚えているのは、リンタロウさんの作品は「GASH!」で拝見した以上の大作だった上に、当時の私にとって大作だと思っていた己の作品が小さく見えたことです。笑

2019年第九回天作会にて
(ハシグチリンタロウ氏と筆者/友人撮影)

当時から、リンタロウさんの大作は手に執るツールだけではなく、文字性・一回性が現代書壇のそれらとは次元が異なっており、また未知の世界へ誘うステートメントは飛び抜けて魅力的でした。

3.〝書家ハシグチリンタロウ“とは

書壇で古典臨書から創作を嗜んでおられる方、また書壇トップを目指し日々研鑽を積んでおられる方、はたまた指導的立場におられる方、そして審査員をしておられる方からすれば、リンタロウさんの作品は「書道」ではないかもしれません。しかし、リンタロウさんは私と同じ「現代アート」の書家なのです。

先ずは、A4大学ノートにリンタロウさんの手で書き連ねられたエスキース、そしてステートメントに至る軌跡を直接見て欲しいです。しかし、今はご本人か所属ギャラリーGallery NAO MASAKIにお願いしないと見れないかもしれません。そこに全てが詰まっています。私は過去Gallery NAO MASAKIでリンタロウさん直筆のA4大学ノートを多数拝見したことがあり、作品集も購入しています。展示会場では、その作品集やフライヤー(冊子になっていました!)を手に取ることができました。その場で購入し、サインをもらっている方もおられました。

そこに明記されていますが、リンタロウさんは言葉の持つ「想像の誘発性」から生まれた言葉の「突然変異体」を、現代の「言霊」的言語観として表象しておられます。それらは「PAPER DRUG(薬にもなれば劇薬にもなり得る)」とおっしゃっていますが、結果的には(書道史における張旭のように)秘めた大きな力を覚醒させる良薬だと私は思っています。

ハシグチリンタロウという書家は、確かに危険な書家なのかもしれません。しかし、危険だからこそ現代アート作家ということになるのでしょうか。

4.しるしの黎明-dawn of sign-

さて、年末差し迫った12月に、リンタロウさんのSNS投稿で個展を開催されることを知り、しかも京都蔦屋書店、これはもう関西在住の私は観に行くしかない!という訳で、早々に観に行ってきました。

いつものリンタロウさんらしいブレのない作品群が、しかも大作が各壁面に鎮座していました!5mにもなる大作を一気呵成に書き上げるエネルギーの源は、リンタロウさんの人生そのものだと思います。そして、中品・小品であっても大作と同じ迫力で迫ってくるのがリンタロウさんの凄いところです。

私の言葉で率直に伝えるならば、

『「文字を書く」ことを「灯す」こととして捉え、失われていった様々なものを文字や絵に起こし、その記号や象徴の原点を「しるしの黎明」として心余すことなく作品を残している。そして2次元でおさまっているはずの壁面の文字や絵が、なぜか宇宙の壁にぶち当たって跳ね返され、現代の鑑賞者にぶち当たって響いてくる。』

そんな錯覚に陥ります。

鑑賞者にぶち当たってきたその黎明期の文字や絵は、必ず現代人に何かを訴えています。それが一体何であり、何をどうすればいいのか、それは鑑賞者自身に委ねられているのかもしれません。

5.最後に

ART SHODO TOKYOが立ち上がって丸7年、芸術運動としてはターニングポイントに差し掛かっている中で、リンタロウさんは初期にズバ抜け、飛び出していきました。純粋に、若いっていいなって思いました。
勿論芸術運動とは、そんな単純なことで継続していく訳ではなく、歴史に残る訳でもありません。
それでも、若手が輝いてくれることで何らかの指標になると思います。

今後もリンタロウさんに陰ながらエールを送りつつ、私は私の残りの人生を考えた上で前に進んでいきたいと思っています。

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(※1) 日本初の現代アート書道専門のアートフェア。国内の現代書道アート作家の育成・紹介をすることを目的として山本尚志氏が設立。2018年の春秋2回開催。秋の第2回目審査員は佐藤辰美氏(大和プレス)、富山剛成氏(ギャラリーNOW)、正木なお氏(Gallery NAO MASAKI)、小田康平氏(「叢」店主)、清水穣氏(美術評論家)、宮津大輔氏(アート・コレクター/横浜美術大学学長・京都造形芸術大学客員教授などを歴任)、山本尚志氏(書家)の7名。2019年にはART SHODO FESTAと名称変更、現在はART SHODO CONTEMPORARYとして継続中
(※2)2017年に開催されたART SHODO作家によるグループ展
(※3)書家・現代アーティスト。ART SHODO PioneerとしてART SHODO TOKYO(現在のART SHODO CONTEMPORARY)を立ち上げる。
以下参照

(※4)かつてウナックトウキョウの美術評論家・海上雅臣と井上有一の間で取り交わされた往復書簡で立ち上がった、書、絵画、写真などジャンルを超えた新しい美術団体「天作会」の書展。井上有一(1916-1985)オマージュ展。
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※終了しています
ハシグチリンタロウ個展「しるしの黎明 -dawn of sign- 」
会期 2024年12月6日(金)~12月25日(水)
時間 11:00~20:00 ※最終日のみ18時閉場
会場  京都 蔦屋書店 5F エキシビションスペース
主催  京都 蔦屋書店
協力  Gallery NAO MASAKI
入場  無料
お問い合わせ  075-606-4525(営業時間内)

京都 蔦屋書店HPより

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