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世界的に広がりをみせるOne Healthとは

One Health(ワンヘルス)という言葉を聞いたことがありますか?これは健康を守る医療は一つという認識です。地球上では様々な生物が関連しながら生きており、ヒトの健康を守るためには動物、微生物、環境などにも目を向ける必要があります。
動物からヒトへ、ヒトから動物へ伝播可能な感染症(人獣共通感染症)は、すべての感染症のうち約半数を占めています。また、抗菌薬の不適切な使用を背景としたヒト、動物、食品、環境等における薬剤耐性(AMR)を持つ細菌の出現が、国際社会で大きな課題となっています。One Health Aproach(ワンヘルス・アプローチ)とは、こうしたヒト、動物、環境の健康(健全性)に関する分野横断的な課題に対して、関係者が協力し、その解決に向けて取り組むことを指します。この動きは世界的にも広がっています(図)。

図. One Healthのイメージ図。ヒト、動物、環境が相互に関連しあっています。

One Healthの歴史は、ドイツ人医師で病理学者のRudolf Virchow(ルドルフ・フィルヒョウ)がZoonosis(ヒトと動物の共通感染症)という用語を作った1800年代に遡ります1)。このRudolf Virchowは、「すべての細胞は細胞から生じる」ということを発見したことで有名です。20世紀には医学と獣医学が協同し、お互いに協力して発展するという医学は一つ(One Medicine)という現代One Healthの認識が確立されました2)。

犬や猫などの伴侶動物で考えると、①伴侶動物の自然発生疾患が人間の疾患モデルになる、②伴侶動物とヒトの共通感染症の制御、そして③抗菌薬の使用制御が関連します。

①に関しては、犬ではヒトと同様にアトピー性皮膚炎を発症することや遺伝性疾患である魚鱗線を発症することが知られています。
②に関しては、狂犬病、レプトスピラ、ブルセラ病、カプノサイトファーガ・カニモルサス感染症、エキノコックス症、トキソプラズマ症、重症熱性血小板減少症(SFTS)、猫ひっかき病などがあり、一部ではワクチンでの対応(狂犬病、レプトスピラ)を、他の疾患では早期の診断・治療(レプトスピラ、ブルセラ病)を行なったり、注意喚起(重症熱性血小板減少症、猫ひっかき病)を呼びかけています。
③に関しては、抗菌薬の慎重使用のガイドラインでは以下のことが定められています。
・単純な風邪では抗菌薬は処方しない
・単純な膀胱炎では抗菌薬は処方しない
・細菌培養で菌を同定して抗菌薬を選ぶ
・最初から強い抗菌薬は使わない

伴侶動物とヒトとの関係でみると、確かに共通感染症というデメリットが存在するものの、伴侶動物との生活が人間の健康によい影響を及ぼすというメリットの存在も18世紀頃から考えられていました3)。
例えば、19世紀には精神病院などで動物が飼育されていたり、ナイチンゲールは慢性疾患を持つ患者に幸福感を増すための小型ペットの飼育を推奨したりしていました 4, 5)。
1970年代に米国ワシントン州立大学学長Leo Bustad博士がニューマン・アニマル・ボンドという言葉を提唱しました。これは。ヒトと動物のつながり(絆)の意味でありヒトと動物の間の精神的なつながりを意味しています。そして現在では、ヒューマン・アニマル・ボンド=ヒトと動物の絆は社会にとっても、そして動物にとってもよいことであると証明されています。例えば、心臓病やがん、またその経済的効果が調査されています。

これからは、医療や獣医療を含めOne Healthとして、より多いな視点での治療が求められる時代となってきています。

参考資料
1) M. Schultz. Rudolf Virchow. Emerging Infectious Diseases.Vol. 14,1480-1481. 2008.
2) Cardiff RD, Ward JM, Barthold SW. One medicine—one pathology': are veterinary and human pathology prepared? Lab Invest. 88(1):18-26. 2008.
3) Lequarré AS, Andersson L, André C, Fredholm M, Hitte C, Leeb T, Lohi H, Lindblad-Toh K, Georges M. LUPA: a European initiative taking advantage of the canine genome architecture for unravelling complex disorders in both human and dogs. Vet. J. 189(2):155-9. 2011.
4) Palley LS, O'Rourke PP, Niemi SM. Mainstreaming animal-assisted therapy. ILAR J. 51(3):199-207. 2010.
5) Nightingale F. Notes on Nursing; Dover Publications: New York, NY, USA, 1969.

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ハル(獣医師)
適切な獣医療の普及とヒトと動物がより良く共生できる社会を実現させるために活動に使用させていただきます!