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すゞめ

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大正は四十七年で終わり、昭咊《しょうわ》になって随分経った頃。コギノ エダさんと私、オオタ メルはお友達でした。 大戦がなかった架空の日本のある港町で、夢を描いた少女の物語。 小…
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#児童

すゞめ-3

夏が過ぎ、新学期が始まって少しした頃のことです。 放課後。村へのバスは本数が少なく、わたくしはよく、図書室や教室に残って、時間を待っておりました。 電気が消され、窓からの明かりだけになった放課後の教室は、お掃除のせいか、風が通ったようにとても居心地がいいのです。借りていた本を読み終わり、バスまでまだ時間があることを確認したわたくしが、図書室に本を返そうと廊下に出た時です。廊下の真ん中に一人、コギノさんが立っておられました。 わたくしは教室の戸口で動けなくなりました。コギ

すゞめ-2

学校は港町に三校あり、地区別に児童は通っております。わたくしは学校の終わった後、母のお使いで干し魚を買い、バスに乗って夜近くに家に帰りました。 「お母さん、聞いてください。わたし、綴り方で一番になったのです。」  土間の台所で夕飯の用意をされていた母は、わたくしの声に「それはよかったですね。」とおっしゃい、それから手を止めて、ちょっと振り返りました。 「一番ですか?初めてですね。いつも、一番はコギノさんのとこの娘さんでしたでしょ?」  母にそう言われて、わたくしはコギ

すゞめ/昭咊異聞/その昔、私たちはお友達でした

 先生が教室の引き戸をガラリと開けられ、わたくしたちはお話をやめました。先生は、分厚いメガネ越しにわたくしたちの方を見渡され、ふむ、と一つ頷かれました。 「全員揃っていますね。今日は点呼の代わりに、この間提出してもらった、綴り方の返却から始めます。」  そう言うと先生は、あいうえお順に児童の名を呼ばれ、赤丸のついた綴り方を返され始めました。三番目に呼ばれたわたくしは、先生の前に出ましたが、先生はちょっと微笑まれてわたくしの肩を掴むと、児童の方へ向けさせました。 「今度の