デネブとスピカ論
デネブとスピカは、完成図のない「パズル」のピースを1つ1つはめていく決心をするまでを描いた曲である。
この「パズル」は様々な対象の比喩とみなすことができて、例えば歌詞中にも現れるような「恋」でも良いし、DIALOGUE+の曲としては「DIALOGUE+のストーリー」でもあるし、もっと広く「人生」と取ることもできる。
〜1サビ
ここでは「パズル」をはめていくことの現実的な難しさを、ファンタジー的、理想的な表現と対比することによって描いている。
冒頭の歌詞は、いま「闇雲」なパズルに向き合っていて、試行錯誤をしていることを表現している。
ただそれは答えの決まっているジグソーパズルを組み上げるのと比べてはるかに難しい。現実の時間は不可逆であるから、一度掛け違えたら、それをまた外してはめなおすということはできないし、ましてやマンガみたいに魔法の杖で苦労せず解決することなんかできない。
僕たちは空も飛べないので地面を一歩一歩歩くことしかできないし、悩んでいたらお腹が減っちゃうような現実にたしかに生きているわけなので、作戦をじっくり立てて、愚直にその困難な問題に挑んでいくしかないのだ。
デネブは夏の大三角を構成する、夏を代表する星の1つであり、一方スピカは春の夜に輝くおとめ座のα星である。まず春にスピカが夜空に現れ、それを追うようにデネブが夜空に現れる。ただ同時に観測できる期間であっても、それぞれ東と西の離れた位置にあって交わることはない。そういう関係にある。「季節が巡ったら さっきまでの君はもういないんだね」というのも、この2つの星の関係を象徴している。
「平行線」の意味は、2者の関係を3次元空間ではなく、そこに時間の軸も加えた4次元時空で捉えると理解でき、互いに交わることはないが時間は同じ方向に流れている2つの直線は確かに平行線を成している。
でも届かないと分かっていても、「僕たち」は宙に右手を伸ばすのだ。
「デイドリーム」は白昼夢や空想という意味があり、1サビの歌詞は全体的に、届かない理想をそれでも追い求めたいという気持ちを描いている。
ただ、空想しているだけでは、僕たちはまだ「はがゆいまま」であった。
2A〜2B
ここでは、この「パズル」に少しずつ向き合って試行錯誤を繰り返す僕たちが、ちゃんとそれに向き合っていく決心をするまでを描いている。
直感、焦り、純粋、そして好きという気持ち、これらはいずれも僕たちを突き動かす衝動のような感情である。
その赴くままに、理想の「パズル」を目指してみよう。
「目的地ルート検索」もしない。「大多数の論理」も気にしない。つまりそのパズルを組み上げるのは、誰かがやってきたような、この地球で正しいとされているような方法じゃなくても良いんだと思い、僕たちは僕たちのやり方でパズルに向き合う決心をする。
2サビ
完成図のない「パズル」を組み上げて行くことは大変な試みであり、そうやって出来ていく絵はちぐはぐなものになってしまうかもしれない。でも、そのちぐはぐさえも楽しんでいけばいいんじゃんないかと僕たちは考えることで、このパズルに向き合うことができたのだ。
「ジュリエットとロミオさえ イブとアダムさえ知らないような 凸凹を楽しもう」という表現は、1番で描いていた現実とファンタジーの対比と対応している。そこでは、現実の問題はファンタジーの世界と違って大変だという感じ方だったのが、ここでは逆に、ファンタジーみたいに全部うまくいかないのが現実の面白いところだからそれを楽しもうという風になっていて、心情の変化が大きく現れている歌詞である。
また、「大人になる頃」「結末」「一生に一度しかないパズル」と時間スケールの大きな単語も複数登場し、このパズルを組み上げる試みに時間をかけてしっかり向き合うという強い決心を感じる。
Dメロ〜ラスサビ
その「パズル」を組み上げることがどんなに大変でも、いま目の前の「パズル」がどんなにちぐはぐになっていても、ちゃんと向き合い続けなければいけないということを「僕たち」が自身に言い聞かせている。
ここで初めて現れるモチーフとして「星座」がある。
デネブとスピカは天球上で離れた場所にあって、同じ星座に属する星でもないが、そもそも星座というのは誰かが決めたものであって、必ずそうでなければならないものでもない。互いに交わらない2つの星でも僕たちが意思を持って結んでみたら、そこに新しい意味を生みだすことができるのだ。
これはパズルも同じで、全然違う色同士を組み合わせたり、きれいにはまらないようなピースの組み合わせ方をしても良いのだ。既存のセオリーにはまらなかった時に新しい物語が生まれる。
どんなにちぐはぐであってもちゃんと向き合うことを決心した僕たちは、ラスサビでまた1サビと同じ歌詞を、一部変えて繰り返す。
これは、僕たちは理想を追い求めている。だからパズルに向き合うのだ。ということを再確認しつつ、「さっきまでの君はもういないけど 新しい星座を作るよ わがままだけどstay dream」という部分には、1番の時点では空想であった僕たちの理想が、現実に向き合ってその理想を目指すことを決心したことによって、現実的な夢へと変わったことが表現されている。
(stay dreamはV Cとして、「(目標を)夢見続ける」のようなニュアンスで取っている。)
最後に冒頭のフレーズが繰り返されるが、歌詞は変わっていて、小難しいことを考えずに僕たちがこうしたいという感情の赴くまま、パズルをはめていけばよいのだ。それでいいだろう?と自分たちの決心を改めて言葉にして終わる。
謝辞
この内容は先日行われた、歌詞会合スペースにて議論した内容を中心にまとめたものである。主催者及び一緒に議論を行なったフォロワーさんに感謝を申し上げます。