
生き物と暮らす
社会人になって、実家を出て一人暮らしを始めた。
その時は狭い部屋に人間が一人だけという生活だった。
せっかく一人暮らしを始めたのだからいい部屋にしたいと思ったのと、コロナ禍で家にいる時間が増えるタイミングが重なった。
DIY好きな友人の影響で、なにかやってみるかと思い立った日があった。
こういう時は物事が上手く進む。歩いて行ける距離にホームセンターがあることが分かったので行ってみたのが全ての始まりだった気がする。
DIYはもちろんして、部屋はある程度満足のいくものになった。
しかしそれと同じくらい満足度があったのは、観葉植物との出会いだった。
部屋を作るにあたってPinterestで集めたいい感じの部屋には、観葉植物があった。
観葉植物はホームセンターにあって、そんなに高くない。
24歳の僕にとって買わない理由がなかった。
それから、人間一人と植物がいくつかという生活が始まった。
観葉植物を置いたスペースはどこか華やかで、動かないのにずっと見ていられる気がした。
そしてある日引っ越しをして、人間二人と植物がいくつかの生活が始まった。
引っ越しの日に妻が実家にいた植物をいくらか連れてきてくれたので、植物が増えた。さらに、家が広くなって部屋が増えたので、調子に乗って植物を増やしたり比較的大きめの植物を招き入れたりした。
この勢いは植物に留まらない。
妻が実家で熱帯魚を飼っていたので、その熱帯魚を分けてもらって飼いたいと言い出したのだ。妻は生き物が好きで、とても大切にしている。留学先のオーストラリアを愛している理由の一つも魅力的な動物たちなのだろう。
それは理解しているものの、多分それなりに世話をしないといけないし、正直にいうと面倒だという気持ちが少なからずあった。
それでも成り行きで熱帯魚を飼うことになった。
人間二人と、植物たちと、魚たちで暮らすことになった。
魚たちとの暮らしは、思ったより楽しいものだった。
感情があるのかは分からないけれど、エサをあげる前には水面に上がってくるし、そのへんをゆらゆら泳いでいる姿は見飽きない。
言い忘れてはいけないこともあって、魚は人間に比べるとそんなに寿命が長いわけではないので、もちろん別れもある。その時にはちゃんと悲しい。
悲しんで、思い出を共有して、植物のもとに埋葬する。僕らと一緒に時間を過ごしてくれたことに感謝をして、残った生き物たちで明日を生きる。
生き物と暮らしていると、思いもよらない歓びを感じることもある。
植物が寒くなって少し葉を落としてしまったと思ったら、夏になり新しい芽が出ることもある。その時には自力で調べながら株分けをしたり水耕栽培したりと、新しい工夫が生まれる。
その歓びは植物だけではなく、魚もそうだった。
ある日突然、水草に模様があると思って目を凝らしてみたら稚魚だったことがあった。何の気なしに飼った熱帯魚からベイビーが産まれたのだ。
せっかく産まれたのだから稚魚を分けるための囲いを付けてあげると、すくすくと育っていった。
三匹しかいなかったミッキーマウスプラティという熱帯魚が、十五匹くらいになった。ちゃんと数えたことがないので、もしかしたらもっといるのかもしれない。
当然一つの水槽では狭くなってしまい、今では水槽が二つになっている。
魚たちは、違う種類の魚同士でもあまり干渉せずにうまくやっている。
中には同じ種類でも特徴的なものがいたり、仲がいいペアがいたりする。
魚は当たり前に水の中でしか生きられないので人間や植物とは全くの別世界にいるけれど、その分観察のしがいがある。
魚は喋らないので、観察のついでに水温や水草の具合を見ていい感じに世話をしてやる。
生きているのだから必ず汚れる。
水槽の掃除をした後に喜んでいるのかは分からない。だけど、せっかく一緒に暮らしているのだから魚たちも僕に感謝をするべきだと思っているので、感謝をしてくれたことにしている。どういたしまして。
今のところ、こんな感じで生き物と暮らしている。
うちで暮らしている生き物たちは、妻以外は喋らない。
しかしそれぞれに可愛げがあり、生き生きとしている。
このくらい静かな生活の中に生き物たちがそっといてくれる暮らしが、心地よく感じる。
はじめはいい風景を作るために生き物を利用しようとしていたけれど、今では家の一員として共生している気持ちが大きくなっている。
妻が映画のポスターになりそうな写真を撮ってくれた。
たくさんのミッキーマウスプラティを産んだプラティママとお別れをした。
その二つのきっかけがあったので、生き物との暮らしを書いてみた。
植物や魚なんて好きな人が飼ったらいいだけなので、この文章を読んでいる人が飼っても飼わなくてもどちらでもいい。
僕も今のところは哺乳類を飼うつもりはないので。
ただ、もし飼うのであれば白コリドラスをおすすめしたい。
植物は何でもいいけれどハンギングプランツか葉が大きい植物がいいと思う。
ちなみに、写真左はネオンテトラ、右は白コリドラス。
いいなと思ったら応援しよう!
