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【感想】逆噴射小説大賞2024に参加しました【ライナーノーツ】


はじめに

 昨年に引き続き今年も逆噴射小説大賞に参加しました。これはその応募作のセルフライナーノーツです。ライナーノーツを読むのが大好きなので他の方にもどんどん書いていただきたいのですが要求してばっかりじゃ良くないと思ったので自分も書くことにしました。

自分の応募作はこれです。

 結論から言うと今年のは……なんかちょっとうまく行かなかったかも?と思っています。去年の応募作「久子」は投稿後も普通に読み返せたのですが、今年のはあまり読み返せていないです。なんか納得してない部分があるんだと思います。でもいいね押してくれた方もいて嬉しかったです。本当に心が救われます。ありがとうございます。

テーマ選び

 今回も昨年に引き続き自分の好きな雰囲気のものを書こうと思いました。逆噴射小説大賞は参加者にDHTフォロワーが多いこともあってどことなくDHT遺伝子みたいなものを感じる作品が多いと思っているのですが(参加者の層が厚くなってちょっと変わってきてるかも)、悲しいことに自分はそういうカッコイイバトル!真の男!みたいなものが書けないので自分の好きなものから作りました。
 実は学生時代史学を選考していて、都市史をやっていました。専門はパリだったのですが上海も興味のある都市の一つだったので上海を舞台にしたいなーという直線的な発想で舞台が決まりました。
 第一次世界大戦と第二次世界大戦の間の1920~1930年代のことを主に両大戦間期または戦間期というのですが、学生時代はその戦間期について勉強していたこともあり時代は戦間期、特に20年代にしようと決めました。

解説

 今回かなり独りよがりな趣味に走った結果、説明不足な部分が多くなってしまいました。完全に力量不足の結果なのですが説明が必要な前提部分をここに補完します。

①1920年代について
 先に説明した通り、第一次世界大戦終了~第二次世界大戦開始の約20年間は両大戦間期、戦間期と呼ばれています。特に前半の20年代はアールデコ様式をはじめとした新しい芸術文化が栄えたり、その後20世紀後半まで続く生活様式の基礎が誕生し始めた時期でもあります。この時期は「狂乱の時代(Les Années folles)」、「狂騒の20年代(Roaring Twenties)」、「ジャズ・エイジ」などと呼ばれ、刹那的で熱狂的でときに破滅的とも表現されるような消費行動や価値観が生まれた時期です。
 しかし第一次世界大戦の影響も大きく、特にヨーロッパ経済はその甚大な被害からなかなか回復しきれない時代でもありました。
 20年代後半になってヨーロッパ経済がようやく復調してきたのもつかの間、1929年に世界恐慌が発生し20年代の繁栄は終わりを迎えます。

②上海について
 上海は貿易港として発展した歴史のある都市です。1842年アヘン戦争終結後の南京条約によって欧米列強に対して開かれ、「租界」と呼ばれる列強の管理する地域が誕生しました。租界はイギリス租界、アメリカ租界、フランス租界と3つ存在していましたが1863年にイギリス、アメリカ両租界がまとめられ共同租界となりました。作品内では旧アメリカ租界が舞台となっていますが、実際1920年代には旧アメリカ租界に日本人が多く滞在していて、日本租界などとも言われていたそうです。租界には自治組織が誕生し、土地は中国のものでありながら事実上外国人の自治区でもある、という状態で発展していくことになります。1842年の南京条約から1949年の上海人民政府設置までの約100年を上海における近代とするのであれば、上海は近代において「華」と「洋」、「新」と「旧」の混沌を内包しつつ1920~30年代にその繁栄を極めた都市と言われています。

③子爵について
 物語に登場する岸部子爵に具体的なモデルは存在しませんが、典型的な落ちぶれ貴族というイメージの人物です。実際に大正年間(1912年〜1926年)には経済的に困窮する華族が増え、自身のもつ財宝を売却して資金をつくる者も出てきました。当時の記録によると華族から貴重な芸術品や工芸品がオークションへ出品されていることがわかります。しかしそれでも経済状況が改善しない場合もあり、第一次世界大戦終結後の不況、更には関東大震災が追い討ちとなり厳しい状況に置かれた華族がいたことは想像に難くないと思います。
 また華族はその身分を担保に融資を受けられることもあったため、実際の返済能力以上にお金を借りてしまい、1923年に発生した関東大震災で返済不可能な状態に陥った者もいたようです。岸部子爵もそのような事情で夜逃げ同然となった華族と想定して書きました。

反省点

以下、反省点をメモ書き。
①前半がちょっと小説としては変かも
 無理矢理つなげた感が否めない。ただの情報の羅列になっている。

②後半はイメージしにくく不親切な部分が多い
 自分自身が20年代好きなので、自然と興味が湧くだろうと解説が必要そうな単語をなんの説明もなく使っている(租界とか)。また、1920年代の雰囲気を全く描写してないのでイメージが湧きにくく入り込めない印象。
 子爵の台詞にでてくる「昨年の震災」が関東大震災であるという説明がなく不親切。上海で震災があったようにも読めてしまう。混乱を招いている。
 全体的に独りよがりな印象。加えて、面白さ一直線!とならず妙な回り道をしている印象。

③それほど先が気にならない
 ここから先の展開が当たり前に予想がつく。多分この二人は金のためにヤバいことをするんだろうな、と予測できる。余程親切な人でない限りここまでありきたりな予想がついたらその瞬間ダルくなって読むのをやめると思う。

良かった点

①調査が楽しかった
 ほんの一部自身の曽祖父をモデルにしている部分があり、家族の歴史を調べられてたのしかったです。
 また、今回初めて上海史の本を読んで少し上海のことを知ることができて良かったです。本当にこれで一作品書くとなったらもっとたくさん調査しないとだめだと思いますが、今回は冒頭800字だったので上海史のさわりの部分をちょっと知ることができました。調べ物楽しい。

②ヘッダー描くのも楽しかった
 今回もヘッダー描きました。上海の華洋混ざり合うイメージを可愛く描けて良かったと思います。

参考文献

応募作の参考文献メモです。
榎本泰子(2009)『上海 多国籍都市の百年』中央公論新社
高橋孝助・古厩忠夫(1995)『上海史 巨大都市の形成と人々の営み』東方書店
古田和子(2000)『上海ネットワークと近代東アジア』東京大学出版
村松伸(1991)『上海・都市と建築1842-1949年』PARCO出版
劉建輝(2000)『魔都上海』講談社


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