オヤルサバル VS オジャルサバル 正しい発音は?
ここ7、8年はほとんど欧州サッカーを見ていなかったこともあり、先日の日本代表と試合を行ったスペイン代表の選手はアセンシオ以外全員知りませんでした(ぺドリは名前だけ聞いたことありました)。さすが無敵艦隊、みんなめちゃくちゃうまかったですね。
荒れるツイッター。正しい発音はどれ?
そんな中、見ていて少し気になった選手がいました。レアル・ソシエダ所属のMikel Oyarzabal 選手です。そのトリッキーなプレーもさることながら、一番の理由はツイッターで「オジャルサバルって笑笑 オヤルサバルだろ」「このアナウンサー、サッカー知らなすぎ」などといった投稿をかなり見かけたこと。その試合を放送していたのがどこのテレビ局だったかは忘れましたが、アナウンサーの読み方が癇に障った人が結構いたみたいです。メディアでの表記も「オヤルサバル」の方が多い様ですが(Wikipediaはこっちでした)、「オジャルサバル」としているところも少なからずあります。この二つはそんなに違うものなのでしょうか?「正しい呼び方」なんて本当にあるんでしょうか?
そんなわけで、この問題についてちょっと調べてみることにしました。スペイン語の"y"の読み方は、 [ʝ]という発音記号で表されます(有声・硬口蓋・摩擦音: Voiced palatal fricative)。気になる方はこちらのサイトから探して聞いてみてください。ただ、聞いてみるとなかなか微妙な音であり、これだけで日本語に対応する音を見つけるのは難しそうです。もう少し詳しくみてみます。
研究事例を見てみよう
日本語話者がスペイン語の/y/をどのように認識するかを調査した研究(詳細は文末に記載)によると、日本語における /y/ と /zy/の発音は、どちらもスペイン語の /y/ を発音する際に許容されるそうです。つまり、どちらの発音でも問題はないということになります。また、スペイン語における /y/ をに日本語話者が聞いた場合、"zya"や"ya"、時には"gya"の様に聞こえるということです。
Spanish /y/ may sound like the Japanese zya-line as well as the ya-line,
or sometimes even the gya-line consonant15). p.127
この研究に参加したのはサラマンカ大学(スペイン)所属のイベリア半島出身者だということなので、ラテンアメリカや米国などを含むスペイン語圏全体で必ずしもそうだとは言い切れないのかもしれません。しかし、全てのバリエーションを隅々まで調べてカバーするのは現実的に無理。本記事ではこの研究結果を基準にします。
実際の発音
それでは、実際にこの名前"Oyarzabal"がどんな風に発音されているのかを聞いてみましょう。まずはこちらの動画から。
アルゼンチンのスペイン語話者が発音する"Oyarzabal"です。日本語の「ヤ」に近い [ʝ] で発音されていることがわかります。
こちらはスペイン人男性の発音。より日本語の「ジャ」に近い [ɟ͜ʝ] (有声硬口蓋破擦音)で発音されているものと思われます。ただ、この方の具体的な出身地域は不明であり、スペイン国内であっても上のように [ʝ] が好んで使われるエリアもおそらくあるんじゃないかと思います。スペイン人であるからといって全員が同じ様に発音するわけではありません。
結論
参考研究では、日本語では明確に区別される音であってもスペイン語ではある程度まで同じ音としてみなされるということが示されています。「ヤ」にも「ジャ」にも聞こえる場合があることは、前出の音声データからも検証されました。要するに、スペイン語的には「どっちでもいい」というわけです。一方が正しくて一方が間違っている、というわけではないため、表記のブレに対してそこまで目くじらを立てる必要もないのかなとは思います。本人の発音に合わせるのであれば大体一つに決まりそうなんですけどね。どこかの雑誌がインタビューしそう。
*注:この記事はスペイン語(カスティーリャ語)の視点から書きました。彼の出身地で話されているバスク語ではもしかするとどちらか一方の発音しか使われないのかもしれませんし、全然違う発音になるのかもしれません。この点に追加で調べる必要がありそうですが、また違った結論になりそうなので(バスク語は一ミリもわかりません)とりあえずはここで終わりにしておきます。
参考文献
写真ソース
Rolandhino1 - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=83349577による