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それを失う
あまりにも心がぐちゃぐちゃで整理がつかない。
苦しいも悲しいも吐き出さないといつか胸を押し潰して心を殺してしまいそうだ。
友達が私のことが好きだと告げた。悲しかった。ショックだった。
薄々彼の気持ちには気づいていたけれど、見て見ぬ振りをしていたらこのまま上手くやっていけるんじゃないかと思っていた。
私は君のことが好きではない。
好きではなかったけれど、友達として本当に大切に思っていた。
初めて打ち明けたことも、この人なら信頼できると思って口に出したことも沢山あったのに。裏切られた気がした。
どうしていつもいつもみんな私を女として見るの。どうして私そのものを見てくれないの。どうして、いつも、誰も彼もそんな目で私を見るの。
電話をしながら、頭の中をどうしてが駆け巡った。
感情の分からない涙が出てきた。
怒りとか、失望とか、自己嫌悪とか。言葉にすれば単純なそれが絡まって、私の胸を塞いだ。
君には、相手からの好意に上手く応えられなくて恋が終わってしまうという話もしていた。
どうして自分なら大丈夫だと思った。どうして私が本当は君のことが好きだろうと思った。どうして私が本当に誰にも恋愛感情が無いと言ったのに信じてくれなかった。
お前は嘘が下手だな、と言われた時に怒りが突き抜けた。
どうして私の気持ちを勝手に解釈するんだ。
私の感情はあなたが勝手に見積もって良いものじゃない。
今まで彼に持っていた尊敬がどんどん剥がれて落ちていくのを感じた。
大切だと思っていた。お互い、代わりのいない友達だと思っていた。
でも彼が私を尊重してくれたのも私が女だったからなのか。
ふざけるな、私はそんなに安くない、みくびるな。
相手の声を聴きながら、怒りが胸を焦がして、それと反対に頭はどんどん冷めていった。
もう私は君には二度と連絡しないと思うと伝えた。
それでも努めて明るく私を気遣う彼の声はすこしだけ強張っていた。
優しい人だ。
けれど彼の優しさは私が女だからなのか、下心があるからなのか、そんな疑いが全てを濁らせる。
今まで言われて嬉しかった言葉、信頼、楽しかった思い出、そういうものが全部灰色になった。
ちょうどオセロをひっくり返したように。
大切な人だった。男とか女とかそんなの関係無しに話をして支え合いたかった。なのに君はそう思っていなかったのか。
裏切られた、という言葉が一番しっくりくる。
だから、できるだけ彼が苦しめばいいのにと初めてそんな悪意を彼に持った。
いつまでも鳴らない携帯電話を見つめて、自分がしたことがどれだけ私を傷つけたのか理解すればいい。そして二度と私を見なければいい。
傲慢なことを言っているのは百も承知だ。
自分の恋心はこんなにも透明で繊細に思えるのに、自分に向けられるそれにはどうしようもなく嫌悪感が溢れてしまう。
電話を切ってから気づいた。
私はひとり賢くて優しい友達を失った。永遠に。
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